11 分 断
眷属達による太古の魔王ウルティマへの、一斉攻撃は始まった。
こうなるとここはもう、安全な場所ではない。
手はず通りなら各国を担当する眷属が、会議の参加者を「転移」で国に帰還させるように動いているはずだ。
まあ、遠い国だとそこまでは一気に跳べないので、近隣の街へ転移して待機する場合もあると思うけど、それは現場の判断だ。
ただ、その避難も、順調には進まない。
また宿営地で、爆発が起こったのだ。
例の邪教徒の仕業か!?
「こんな時に……!!」
しかしそいつらの対処は、手の空いている眷属に任せるしかないなぁ……。
私もウルティマとの戦いに、参加しなければならないし。
ところが──、
「怪我人が出ている!
救護を手伝ってくれ!」
と、何者かが声をかけてきた。
まだ若い男で、何処かの国の兵士のようだ。
「いえ、私は……」
それどころではないので──と、断ろうとした時、私はその男に違和感を覚える。
「ん……?
あなたは──」
しかし気付いた時にはもう手遅れなくらい、男の接近を許していた。
「え……?」
次の瞬間、私の視界は急激に切り替わり、見覚えの無い場所に立っていた。
強制的に「転移」させられた──!?
勿論それは、あの男の仕業だ。
彼も私と一緒に転移してきたようで、目の前にいる。
その男は金髪碧眼の長身で、おそらく美形なんだろうけれど、私にはもう男性の美醜は興味の対象外なので、よく分からない。
ただ、彼から醸し出される空気からは、嫌な物を感じる。
少なくとも魅力的な印象には、どうしてもならなかった。
こいつは……例の邪教徒?
……いや──、
「お前……ウルティマか……!」
「ほう……分かるのか」
今の私は、自分や眷属のステータスを見る能力を鍛え上げて、初対面の他人のものでも見ることができるという、「鑑定」のスキルを得ている。
まあまだ不完全で、相手のすべてを見通すことはできないけれど、それでも名前くらいなら知ることができた。
そう、目の前の男のステータスには、「ウルティマ」の名前が表示されていたのだ。
……まさか、正体が人間だったとはねぇ……。
おそらく特殊なギフトかスキルを得て、異常な力を持つようになった存在なのだろう。
たぶんその能力は『百合』と同様に、破格の性能があるやつだ。
「私に何の用……?」
「取り込んだ者達から得た情報によって、貴様が今この世界で最も危険な存在だと判断した。
貴様も1人だけなら、さほど脅威にはなるまい」
ああ、1人なら「眷属の力」などの奥の手が使えないから、倒しやすいという判断なんだね。
だから私1人だけを、眷属から引き離して分断したのか。
「眷属召喚」で助けを呼ぶのも、距離が離れていると膨大な魔力を消費するし、時間もかかるから、ウルティマと戦いながらだと使えないと分析されている……!?
……それにしても、「取り込んだ」……ね。
たぶんウルティマは、吸収した相手の能力や記憶を利用することができるのだろう。
名付けるとしたら、「暴食」とかそんな感じかな?
ディガイア王国でも、万単位の人間や魔物の死体を吸収したはずだし……。
そして今まで見てきた脱皮後の抜け殻や触手も、ウルティマが吸収した生物の姿や能力という訳か。
能力も姿も変幻自在──そりゃ、魔族だと勘違いされて、間違った情報が残っていたのも無理もないな……。
「そうか……眷属達の記憶を、覗き見たんだね……?」
「やつらの記憶から判断するに、貴様1人だけならば問題無く倒せる。
そしてお前さえいなければ、他の連中は烏合の衆と化すだろう。
だからここで貴様は死ね!」
ウルティマに吸収された眷属達は、私とは個人的な付き合いが殆ど無い末端の者だった。
元々は敵対組織に所属していたのを、『百合』の力で味方に付けて、私の手足として働かせていたのだ。
彼女ら個人に対しては、特別な感情は無い。
……それでも、『百合』によって本人の意思を大きく曲げて利用してきたのだから、彼女達には相応の待遇を与える──満ち足りた人生を送ることができるようにするのは当然の話で、それは『百合』の所持者としての義務であり責任だった。
それなのに彼女達の命は、ウルティマによって奪われた。
その結果、責任を果たすことができなくなった。
それがたまらなく悔しい。
「そう簡単に、私を倒せると思わないでよ……!!
眷属達が知らない私もあるんだから……!!」
その直後、私は「火炎息」を吐き出した。
それを2発、3発と連射する。
超高温の熱線がウルティマを飲み込み、大爆発を巻き起こした。
私はその爆発に紛れて「転移」を使い、ウルティマから離れる。
ここがどこなのか分からない以上、「転移」で眷属達のいる場所に帰るのは難しいけれど、能力がまだハッキリしないウルティマとの接近戦は、避けたいからね……。
いつも応援ありがとうございます。




