9 会議開始
遅れてすみません。
会場の広場に着陸するカプリちゃん。
巨大な竜の威容に圧倒され、彼女の知り合い以外は誰も動くことができないようだ。
本気で怖い物を見ると、悲鳴すら出せないし、パニックも起きないものだねぇ……。
そんな人々の前で、彼女の姿は小さくなっていき、その裸体を衆目に晒した。
「我は竜王カプリファス──。
会議に参加する為に馳せ参じた」
裸になっても堂々としているカプリちゃんの姿に、人々は更に言葉を失う。
あんな大きな竜が、すっごく胸の大きな美女になるなんて、普通は理解が追いつかないよねぇ。
もうみんな、思考停止している。
「お姉様、お久しぶりですぅ~」
「うむ、元気そうでなにより」
ニルザがカプリちゃんにすり寄っていくのを見て、みんなはようやくハッとした顔になるけど、状況が更に理解できないようで、誰も動こうとしない。
あの巨大な竜だった者と親しそうにしている魔族を相手に、迂闊に喧嘩を売るような奴はあまりいないと思うので、狙い通り場は収まった……と思う。
なお、カプリちゃんには、「とにかく偉そうに振る舞って」とお願いしてある。
いつもの調子だと、さすがに緊張感を削ぎそうなので……。
って、いつまでもカプリちゃんを、裸のままにしている訳にはいかない。
私は彼女にマントを手渡しつつ──、
「それでは魔王陛下、竜王陛下、こちらへ」
エルザ様とカプリちゃんを、会議が行われるテントへと案内した。
ぶっちゃけカプリちゃんに会議の内容が理解できるとは思えないけど、いるだけで何かしらの抑止力になるんじゃないかな……と。
で、テントに入ると、魔族の姿を認めた人々の間で空気が緊迫するけど、さすがに国王クラスだとどっしりと構えていて騒ぎ出すことは無かった。
一応、事前に魔族や亜人種も出席することは伝えてあるので、それが許容できないようなら、そもそも出席するなという話になるしね。
むしろ私の方が、「何故子供が?」というような、奇異の目で見られている。
各国の重鎮が揃っている場所に、従者だとしても子供がいるというのは、さぞかし異様な光景なのだろうねぇ……。
「全員揃ったようなので、会議を始める」
議長はこの会議を呼びかけた(ことになっている)、トガタン王国の国王だ。
本当は私と眷属達が中心になって発案したんだけど、ある程度地位がある者の声じゃないと、耳を貸す者が少ないというのも事実だし。
で、会議の内容については──、
・太古の魔王ウルティマについての情報開示。
・その対策として、各国で協力・情報共有体制を構築する。
・女性の能力を大幅に強化する手段が有るので、女性限定の多国籍軍の設立(性別を捨てる覚悟があるなら、男性も可)。
……といった感じ。
多国籍軍に関しては、参加者は世界でもトップクラスの実力者になれるし、各国も大きな戦力を得ることができるので、悪い話ではないと思う。
ただ──、
「その女を強化する手段の詳細は……?」
そんな疑問が当然出てくる。
「それについては、ウルティマとの戦いにおける中核の要素──。
悪用されては困るが故に、最高機密だ」
「馬鹿な、それでは信頼して、女ども預けることなどできぬ!」
という批判の声も出てくるけど、詳細を知られてしまうと私の争奪戦が始まってウルティマどころではなくなってしまう恐れがあるしなぁ……。
それに多国籍軍に参加した女性は、もれなく私の眷属になるので、それは絶対に秘密にしておかないと、反発が酷いことになりそうだ。
ネタバレをするのなら、私の影響力が各国に浸透してからだね……。
眷属達の力が各国へ浸透し、もうそれ無しでは国が成り立たないところまでいけば、私の秘密が公になったとしても、私を利用したり敵対しようとする者はいなくなるだろう。
……なんだか私が大陸の覇者みたいなことになってしまうけど、それはあくまでも結果的にそうなってしまうというだけなんだよね。
「では、多国籍軍に参加したくないのならば、それでも構わん。
ただそれでは、参加しなかった国だけ力は得られぬと思え」
「ぐ……」
そう言われると、反論しにくい。
仮に一国だけ戦力が劣るようなことになれば、周辺国から圧力を受け、あらゆる面で不平等な扱いを受けかねない。
最悪の場合は、侵攻を受けて国が滅びる……なんてことも有り得る。
国家観の軍事バランスが崩れるということは、それだけ危険なことなのだ。
まあ、こうして脅すような手口は、ちょっと……というか、かなり詐欺っぽいが……。
「ただ、言葉だけではなかなか信用されないのも事実。
今ここで、得られる力の一端をご覧に入れよう」
トガタン国王が、私へと目配せする。
私はそれを受けて、輪の形に設置されたテーブルの中心に「転移」した。
「あの子供は……!」
「今のは転移魔法か……!?」
会場がざわめくが、先程から何故この場に私がいるのか理解できなかった者達は、これからその理由を知ることになるだろう。
私は人の頭ほどもあるから鉄塊を、「空間収納」から2つ取りだした。
それを軽々と持ち上げた私は、「ガンガン」と打ち合わせて、間違い無く金属であるということをアピールする。
その鉄塊を、「自然支配」で作った土の台座の上に置く。
「失礼──」
私は参加者の前面に、障壁を発生させる。
これからすることで、万が一怪我をされても困るからね。
そして──、
「おおっ!?」
私はその鉄塊を、手刀で真っ二つにした。
しかも台座ごと、素手で斬り裂いたのだ。
会場からは、驚きの声が上がる。
でも、私のデモンストレーションは、これだけでは終わらない。
そしてもう1つの鉄塊を手に取り、それを魔法の炎で燃やす。
鉄塊は瞬く間に赤く溶け落ちた。
「……!!」
今度はあまりの驚きで、誰も声を上げることができないようだ。
「ご覧の通り、かような幼き少女でも、これほどの力を得ることができる。
多国籍軍の参加は、損になる話ではないと思うが……?」
トガタン国王の言葉に誰も異論は唱えず、むしろ首を縦に振る者も多かった。
そのまま無事に会議が終わるのかと思いかけたその時、
「これは……っ!?」
何処かから爆音が聞こえてきて、このテントも大きく揺れた。
何事──!?
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