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8 迫る会議

 私はこの大陸の各国に、眷属達を派遣した。

 彼女達によって、それぞれの国から会議に参加する重鎮と配下の者達を、「転移」のスキルを使って運ぶ手はずになっており、次々に会場へと参加者が到着している。


 勿論これは、会議の当日だけの話ではなく、数日前から現地に入っている者達もいた。

 そういう人達の為に宿営地となる区画を用意し、そこには宿泊用のテントも設置してある。

 テントとは言っても高い身分の者には、ベッドや家具も備え付けられていて、ちょっとしたホテル並みに設備が整えてあった。

 

 まあ、さすがに平民の従者や兵士用のは、複数人で雑魚寝する感じだけどね。

 それでも戦場の陣地用テントよりは、過ごしやすい物が用意されている。

 それに食事だって提供されるし、ぶっちゃけ貧しい農家だった私の実家よりも楽な生活ができるかもしれない。


 そんな宿営地の警備も、私や眷属達が担当している。

 ただ、私の眷属は全員女性なので、絡んでくる男も皆無ではない。

 そういう連中は、さすがに力で叩きのめしたら国際問題になりかねないので、「魅了」や「催眠」のスキルで大人しくさせて対処している。

 実に面倒臭い話だよ……。


 あと、獣人やエルフのような亜人種に対する差別感情が強い世界なので、騒動になるのを避けて彼女達には宿営地の外の警備をお願いしているけれど、当然宿営地の中よりは危険があると思う。

 そういう仕事を、亜人種に任せなければならない現状がもどかしい。

 この戦いが終わったら、もっと積極的に差別を排除するように働きかけていこうと思う。


「マルル!」


 その時、私を呼ぶ声があった。

 聞き覚えがあるような、無いようなそんな声──。

 振り返ると、そこには()がいる。


「シルル、もう来たんだ?

 エルザ様達は?」


 魔界に残してきた私の分身、シルルだ。

 客観的に自分の声を聞くと、思っていたのと違って違和感が凄いな……。

 双子の人も、こういう感覚になるのだろうか……?


「エルザ様達も王国に到着したけど、騒ぎになりそうだから、こっちには当日の会議開始時間ギリギリに入るよ。

 ニルザとゲルニタがマルルに会いたいって、騒いで大変だったけれどね」


 確かに人間にとって魔族は、まだまだ相容れることができない仇敵だという認識だもんねぇ……。

 でも今はそうも言ってはいられないので、これからは協力してもらわないと困る。

 この会議で、何かが変わればいいんだけど……。


「ふ~ん、それでシルルだけ先に来たんだ?」


「……私も、マルルに会いたかったし」


 と、上目遣いで私を見るシルル。

 くっ……自分自身なのに可愛い!


「……そろそろ休憩しようと思っていたんだけど、私のテントに来る?」


「うん!」


 私の言葉に、シルルは満面の笑みを浮かべた。

 あまりにも愛らしかったので、テントでたっぷり可愛がってあげるとしよう。

 

 ……私って、あんなところにホクロがあったんだな……。

 

 


 そして大陸会議の当日──。


 いよいよ大陸中の国から、名だたる重鎮達が集まってくる。


「おいおい、エルフがいるぞ……」


 誰かが困惑した声をあげた。

 まあ、国だけではなく、亜人種の部族にも声をかけているので、当然エルフだっている。

 今回参加しているエルフは、例の長老だ。


 でも、エルフで驚いてもらっては困る。


「馬鹿な……あれは魔族か……!?

 なんでこんなところに……」


 魔王エルザ御一行の登場に、会場がざわめく。

 剣の(つか)に手をかけている者さえいる。

 しかしエルザは──、


「人間とことを構えるつもりは無い。

 我らが魔界とて、魔王ウルティマとやらに、都市1つを滅ぼされている。

 今は共通する敵に、協力して当たるべき時ではないのかね?」


 そんなエルザの言葉は正論だけど、人間との間には色々と遺恨もあることは事実なので、簡単に受け入れられることではないだろう。

 事実──、


(おぞ)ましい魔族が……!!」


 露骨に敵意を向ける者達が、後を絶たなかった。

 そうなると、気性が荒いニルザやゲルニタが黙ってはいられない。


「ああん……?

 やるんか、こら!」


「ふふん、ひ弱な人間は、さえずるだけか……?

 お望みなら、相手をしてやらんでもないぞ?」


 まさに一触即発の状況。

 だけどこういう事態に対する、準備もしてある。


「なっ……!?」


 再び会場がざわめく。

 しかし今度は、先程と大きな違いがあった。

 全員、空を見上げていることだ。


(ドラゴン)……!?」


「あんな大きな……!?」


 カプリちゃん到着。

 みんなは巨大な竜の登場に対して呆気にとられ、先程までの(いさか)いのことなど完全に忘れていた。

 私はこういう効果を見込んで、あえて彼女を竜の姿で現地入りさせたのだ。

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