7 敗戦と会議
魔物の殲滅は終わった。
ただ、このディガイアの王都で無事なのは、城壁の内部のみ。
そこに避難できた人間は、王都全体の人口から比べると多いとは言えなかった。
どうしても収容人数には限界があるし、魔物の侵入を防ぐ為には、早い段階で門を閉ざす必要もあったのだろう。
城に避難できなかった人々は、住居などに潜んで難を逃れようとしたようだけど、最後まで無事だった者は少ないようだ。
……城にいた王侯貴族や騎士ばかりが生き残って、平民は殆ど残っていないだなんて、国としては終わったも同然だ。
さすがにこの場所で、人々の日常を再構築するのは難しいような気がする。
地方で無事な都市があるのならば、この王都は廃棄して遷都した方が早いだろう。
まあ、実際にどうするのかは、ディガイアの王家が決めることだろうけれど……。
どのみち次に太古の魔王ウルティマによる襲撃があれば、今度こそこの国は滅びると思う。
だからといって私達も、ここであるかどうか分からない襲撃を、いつまでも警戒している訳にはいかないし……。
だから私達が今やることは、当初の予定通りたまたまこの国に訪問していた王妃ナスタージャ様と、その息子であるタルス王子を、トガタン王国へ連れ帰ることだ。
幸い彼女達は無事だったけれど、もう少し私達の到着が遅れていたら危なかった。
「おお……よくぞきてくれた、マルルよ。
ミーヤレスタとポーラは、無事に国へ辿り着いたのね?」
「はい、お二人が報せてくれたからこそ、間に合いました」
そういう意味では、今回で最も偉大な働きをしたのは、あの二人の王女様達だろう。
私達はウルティマを取り逃がすし、眷属からも犠牲者が出すし、何よりも何十万もの王都の住民を助けることができなかった。
悔いばかりが残る……。
私がうつむいていると、ナスタージャ様が私を抱きしめてくれた。
たぶん『百合』のおかげで、私の心中が伝わったのだと思う。
「そなたが来てくれたからこそ、我々は今こうして無事でいられるのだ。
そのことは誇るが良い」
「はい……」
なんとなく母親を思い出して、ちょっとだけ涙が出たよ……。
ちなみにナスタージャ様は、私達が来る前に魔物と戦っていたらしく、そこそこレベルが上がっていた。
彼女が城壁に取り付こうとした魔物を防いでいたからこそ、私達が間に合ったというのもあるのだろうな……。
今回、誰か一人でも欠けていたら、最悪の結末になっていたことだろう。
そう考えると、もっと眷属を増やした方がいいのかもしれないな……と思った。
それからディガイア王家と、ナスタージャ様の間で話し合いが行われ、王女のポーラ様はこのまま我が国で預かることになった。
また、複数の王族や貴族も、我らがトガタン王国へ避難することになるようだ。
こんないつ倒れるか分からない国にいるよりは、マシということなのだろう。
そして難民となった人々の受け入れや、支援物資の提供なども取り決められ、「転移」スキルが使える私達が、運び役として両国の間を行き来することになる。
そうやって働いていれば、嫌なことも忘れることができるし……。
そんな慌ただしい日々が続いたある日、1つの案が両国から世界に向けて発信された。
それから1ヶ月ほどが経過した頃──。
トガタン王国に、各国の首脳が集まることになった。
ディガイア王国が魔物の群れによって壊滅的な損害を被ったという事実は、大陸全土で看過できぬ事態だと受け止められ、そして更に他国においても大なり小なり、ウルティマが関与したと思われる被害が生じていることが明らかになったからだ。
他の大陸を含めれば、更に大きな被害が生じていることだろう。
……が、そこまでは把握し切れてはいない。
いずれにしても、このウルティマの暗躍によって生じる被害は、最早世界規模で放置してはおけないものとなった。
そんな訳で各国の重鎮を集めて、対策会議を開くことになった訳だが……。
私と眷属達は「転移」のスキルを駆使して、各地から要人を運ぶ仕事に大忙しだ。
ついでに女性の実力者がいたら、積極的に交流して眷属化し、スキルを「下賜」しておく。
こうしておけばウルティマは無理でも、魔物の群れの襲撃ぐらいは私達がいなくてもある程度抑えられることは、ディガイア王国の件でも実証済みだ。
勿論、ウルティマとの決戦の時にも、貴重な戦力になる。
ただ、世界が一丸となってウルティマに対抗する──それができるかどうかは、会議の内容次第だ。
どうしても国家の利害が絡むことだから、すべての国が同じ目標に向かって動けるとは思えない。
だけどそれでもいい。
会議……というのは、実のところ表向きの目的だ。
勿論本当に会議はするし、そこで決められたことは今後の世界を左右することになるかもしれないほど重要な物になるだろう。
だけど、実際には裏の目的もある。
それはウルティマをおびき寄せる為の、餌だということ──。
この会議には、各国から重鎮の護衛として実力者が何十人、何百人と集まってくるだろう。
自らの強化を目論むウルティマにとっては、無視できない魅力的な餌に見えるのではないだろうか。
しかも集まる者達は、ウルティマに対抗しようとしている。
見逃す理由は無い。
いや、別に最初から餌を目的として、各国の首脳を集める訳ではないよ?
集めたら結果的にウルティマに狙われそうなので、それならばいっそ利用してやろうということだ。
だから会議の場所は、万が一のことがあってもいいように、人里離れた平原のど真ん中を選び、そこに大型のテントで簡易的な会議場を作って行うことになっている。
ウルティマがまた地下から攻撃を仕掛けてくる可能性もあるから、周囲の地面は「自然支配」でガッチガチに固め、更に聖女アイーシャさんによって防壁も形成されているので、いざという時は脱出できる程度の時間稼ぎにはなるだろう。
各国首脳には、「転移」を使える眷属を付けさせたから、異常があれば即退場してもらう予定だ。
そして私は、ウルティマとここで決着を付ける為に、万全の状態で待機している。
決戦の時は、迫っている──のかもしれない。
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