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6 屍喰らい

 戦場から、死体が消えている──ような気がする。

 何者かが、密かに持ち去っている……?

 だとしたら、それは太古の魔王ウルティマの仕業である可能性が高い。


 しかし何の為に──?

 不死系(アンデッド)のモンスターを生み出して、使役する為?

 しかしウルティマほどの存在が、今更そんなものを必要とするかなぁ……?

 それに今回王都を攻めている魔物の中には、不死系の魔物はいなかったから、ウルティマは不死系を使役することを得意としているとは思えない。


 となると、食べる為……?

 魔物の一部の中には食肉としての需要があり、冒険者にも入手依頼はある。

 だけど味を(たの)しむ為や、空腹を満たす為ではないだろう。


 ここで私は、ふとある事実を思い出した。

 その昔、私はステータスを確認するのが日課だったけれど、その時の経験からレベルアップ以外の方法で数値が上昇することを知っている。


 筋トレとかで身体(からだ)を鍛えれば、当然数値は上がっていくけど、それ以外でも栄養のある物を食べていると増える。

 実際お姉ちゃんが狩りに出るようになって、肉が食卓に上ることが増えた時期から、私のステータスは伸びやすくなった。

 たぶんそれは、私の身体がまだ幼かったので、栄養状態の改善で成長が(うなが)された結果なのだろう。


 思えばウルティマは、エルフの結界から解放された直後に脱皮していた。

 たぶん弱体化した身体を少ないエネルギーで維持しやすいように、意図的に身体を若返らせていたのだ。

 その状態から元に戻る為に、成長を促進させた結果が脱皮なのだろう。

 そして今もまだ、身体を成長させているとしたら──?

 その為に大量の栄養──死体を、ウルティマは必要としているのかもしれない。


 そうか……ウルティマにとっては、レベルアップでの強化でも、身体の成長による強化でも良かったってことか!


 で、ウルティマが何処にいるのかと言えば──、


「地面の下かな……?」


 思えばエルフの結界の時も、地面の下に隠れていたよね……。


『みんな、ウルティマは地面の下から、獲物を狙っている可能性があるから注意して!』


 そんな私の「念話」を受けて、眷属達は地面を警戒する。

 とは言っても、未だに万単位の魔物が(うごめ)いている地面から、気配を消しているであろうウルティマを見つけ出すことは難しい。

 注意深く観察して、奴が死体を捕食するタイミングを見つけるしかないな……。


 そして暫くすると、異常を見つけた。

 魔物の死体が、沼に沈み込むように地面へと吸い込まれていく。

 これは「自然支配」で地面を操っているな?


「そこかっ!!」

 

 私も「自然支配」で、土を槍の形に固めて足下から生やす「土槍」──の逆バージョンを発動させる。

 つまり地面の中に向かって、槍を撃ち込んだのだ。


 しかし反応が無い──?

 と思ったその時、地面に異変が生じる。


『全員、回避──っっ!!』


 私が「念話」で警告した瞬間、地面から幾本もの細長い物が飛び出した。

 100mはある……とても長い触手?

 それがナイロンカッター式の草刈り機のごとく、高速で地面を舐めるように回転した。

 その触手によって軌道上にある魔物の死体……だけではなく、生きている者まで一ヶ所に寄せ集められ、更に触手に絡め取られて地面に引き込まれていく。


「くっ……!!」


 連れてきた眷属が何人かやられた……っ!!

 さすがに高レベルの者達は無事に回避したけど、それでもこの犠牲は自分の一部をもぎ取られたかのように感じる。


「よくも……っ!!」


 今度は「自然支配」によって、触手が消えていった周辺の地面を持ち上げる。

 土が塔のように突き出て、その壁面からは触手がはみ出していた。


 よし、中身(・・)が入っている!!


『攻撃できる者は全力で!!』


 私の号令によって、カプリちゃんの「火炎息(ブレス)」、カトラさんの「爆裂魔法」、そして私の「波動砲」が土の塔に炸裂した。

 この攻撃に耐えられる存在なんて、ちょっと考えたくない。


 しかし──、


「なっ……!?」


 粉々に砕け散った土の塔の中から、ボロボロになった触手(・・)が姿を現す。

 そう、触手だけだ。

 これは……トカゲの尻尾切り──!?


『マルル、まだ下だ!!』


 お姉ちゃんの声が上がるのと同時に、再び触手が地面から現れ、残っていた魔物の死体を地中に引き込んだ。


「この……!!」


 私は再び地面を持ち上げるけれど、今度は中身が入っていない。

 何度繰り返しても、それは同じだった。

 これは……地中深くまで潜ってしまった……!?


「逃げられた……?」


 結局、それからウルティマが姿を現すことは無かった。


 ……王都の壊滅は阻止することができたけれど、おそらくウルティマの自らを強化するという目的は阻止できなかった。

 そういう意味では、今回の戦いは私達の負けだ。


 いや、私の眷属から犠牲者が出た時点で、大敗北だと言える。

 

「くそ……次は絶対に倒す……!!」


 私の頭は、怒りで一杯だった。

 いつも応援ありがとうございます。

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