2 報 告
私が住んでいた村からこの隣村へと、辿り着いた者はいないらしい。
確かに私達が道を歩いていて追いついた人はいなかったけど、村から脱出できた人は1人もいなかったということなのだろうか……。
じゃあ……お姉ちゃんだけではなく、両親も駄目だったということ……?
遺体とかを見ていないから、なんだか実感が湧かない。
でも私の村……本当に滅びちゃったんだ……。
私が最後の生き残りなの……?
いや……数日前に、領主様に救援要請を送りに行った者がいたはずたけど……。
「そういう話は聞いていないな……。
オークが出たというのなら、この村だって襲われる可能性があるのだから、その伝令が報告していないのはおかしい」
「ええぇ……」
じゃあその伝令の人も、オークか他の獣にやられちゃったってことなのかな……。
本当に頼る人がいなくなっちゃったなぁ……。
クルルは村には入れないし、私独りでどうすればいいのか……。
そう思うと、目からじんわりと涙が滲んでくる。
「おい……お嬢ちゃん。
悲しんでいるところを悪いが、村長のところへ行って、詳しいことを話してくれないか?
それによって、村の対応を考えなくちゃならなくなると思う」
と、門番のおじさんは言った。
正直、そっとしておいてほしいような気もするけど、仕方がないよねぇ……。
「あの……それでは、あのイノシシをお金に換えたいのですが、どうにかなりませんか……?
着の身着のままで逃げてきたので、無一文で……」
私はクルルが狩って、引きずってきたイノシシを指さした。
一応持っていたナイフで血抜きや内臓を抜く処理はしておいたけど、時間が経っているので肉がどの程度食べられるかはちょっと怪しい。
熟成している? それとも腐っている?
だけど毛皮は使い物になるはずだ。
「ああ、それならこちらでやっておく。
おーい、人を寄越してくれーっ!!」
門番のおじさんは村の中へ向けて、大声で呼びかけた。
「今村の者に村長の家まで案内させるから、あのイノシシはその間、預かってどうにかしておく」
「お願いします」
このおじさんが信用できるかどうかは分からないけど、今は頼るしかなかった。
私は村長の家へと連れて行かれた。
そこで私は休む間もなく、オークの襲撃について詳しく話すことになる。
「それで……オークの数はどのくらいだった?」
村長は恰幅のいい50代くらいの人で、私の感覚ではまだまだ若いという印象だけど、この世界の平均寿命は短いらしく、彼でも老人という扱いになるらしい。
いずれにしても、今の私よりも何倍も年上だし、村でも1番偉い人なのだから、ちょっと緊張する。
「よく分からないです……。
みんなと協力して、20体くらいは倒したので、数は半減していると思います……。
ただ、オークの親玉というか……とにかく大きいのはいました」
「上位個体がいるのか……。
そういうのがいる群れは、数が増えやすくて厄介だと聞く……」
村長の顔が深刻なものとなる。
「それで……その話は、本当なのだな……?」
「は、はい」
村長は私の話が信じられないというよりは、信じたくない様子だった。
まあ、最悪の場合はこの村も滅びるのかもしれないのだから、当然なのだろう。
できれば子供の悪戯であって欲しいと、思っているに違いない。
実際、証拠が私の証言しか無いのだから、全部嘘だという可能性も、村長の中では捨てきれないのだと思う。
「うむ……では、とりあえず事実確認だな。
冒険者を雇って、オークの群れが本当に存在するのか確認してもらおう。
領主様に報告するにしても、不確かな情報ではまずいからな……。
仮にオークがいても、冒険者だけで殲滅できる程度であるのが1番良いのだが……」
村長はあまり領主とは関わりたくないようだった。
ああ……私もなんとなく気持ちが理解できる。
何故か分からないけれど、貴族や騎士とかの身分の高いものに関わると命が危ない──という、謎の実感が湧いてくる。
前世の記憶が蘇る前に、何かあったのかな……?
それにしても冒険者か。
web小説や漫画とかでは存在を知っているけれど、本当にいるんだ。
私の村はド田舎だったから見たことは無かったけど、この村は規模が大きいみたいだし、そういう仕事をしている人もいるのだろうな。
「あの……それでしたら、私が冒険者を村まで案内します。
村がどうなっているのかも、確認したいですし……」
「それは助かるが、また危険な目に遭うかもしれないぞ?」
「構いません」
お姉ちゃんや両親がどうなったのか、それを確認しなければ気が済まない。
たとえ命を失っていたとしても、それならばせめてお墓を作ってあげたい……。
ただ、冒険者の依頼には時間がかかるということで、この日は村長の家に泊めてもらうことになった。
「百合」の効果なのか、村長の奥さんや娘さんが優しくしてくれたので、ゆっくりと休むことができそうだ。