2 災いは油断した頃に
朝──。
私は久しぶりに、自室のベッドで目を覚ました。
隣ではティティが、満ち足りた顔で眠っている。
「可愛い……」
最初は私がティティを可愛がっていたはずなのに、いつのまにか逆転され、好き放題されてしまうというのがいつものパターンだ。
昨晩はいつ眠ったのか記憶に無いほどやられてしまったけど、先に目覚めたのは私の方だ。
諸々のスキルのおかげで、体力の回復だけは早くなった。
昨晩の仕返しに、ティティの頬を指でプニプニと突く。
「ん……」
「ふふ……」
その時、勢いよく扉を開けて、何者かが部屋に飛び込んできた。
「おはようございます、ご主人ー!
朝ですよー!」
朝はラヴェンダが、部屋に乗り込んでくることがよくある。
一緒に散歩に行こうと、せがむ為だ。
私の隣に誰がいようと、もう気にしていない。
場合によっては、ラヴェンダもベッドに入って色々としてくるし。
まあ、今日は普通に散歩のようだけどね。
じゃあ、このまま起床するか。
ついでにティティも、起こしてあげよう。
このままゆっくりと眠らせてあげたいような気もするけれど、彼女にも仕事があるからね。
「ティティ、朝だよ起きて」
「ん……あ、おはよ……ござ……ます」
相変わらずティティは、肉声だと上手く喋ることができないけれど、それでも私の為に要所要所で一生懸命に喋ろうとしているのが可愛いのだ。
『今から、朝食の準備をしますね。
その間に、ラヴェンダ様とお散歩へどうぞ』
「うん、お願いね」
こんな風に今日もいつもの日常が始まったけれど、これがいつまで続くのかは分からない。
太古の魔王ウルティマの脅威は、確実に世界に迫っているのだ。
だからささやかな日常でも、噛みしめるように生きていこう。
……そう思っていたのだけど、1ヵ月ほどが経過しても大きな変化は現れなかった。
「厄介じゃな……」
クリーセェ様は溜め息と一緒に、そう漏らした。
ここは王都の王城──クリーセェ様の執務室である。
「厄介ですね……」
ウルティマの脅威は確実に存在している。
だけどいつ何処に現れるのか、それが分からない。
「奴はいつ来るのじゃ!?」
クリーセェ様は、机をドンと叩く。
別に襲撃を望んでいる訳ではないのだろうけれど、現状はまるで地震などの天災を予想して、対策しようとしているようなものだ。
そのいつ来るか分からない物に対して、最大限の警戒をいつまでも続けるのは難しいことだった。
資金も物資も人員も大量に必要になるのに、そのコストに見合う結果が見えにくいからだ。
もしかしたら襲撃を警戒することで、ウルティマの行動を抑止している可能性もあるけど、無駄に空回りしている可能性の方が高いということだって有り得る。
となると、「本当にそんな魔王の襲撃があるのか?」とか、「必要最低限の対策で十分だ」とか、「そもそも対策自体が無駄」とかいう疑問や批判の声が、各所から増えてくるのも当然だった。
「でも世界は広いから、今はウルティマが他の大陸を襲っているだけということも、考えられるんですよねぇ……。
結局は順番の問題でしかないと、思うんですよ」
だから今警戒を緩めるのは、まずいような気がする。
「そうなのじゃが……このままでは国が傾く」
「まあ……人員は私の眷属がいますし、資金や物資も魔界との貿易で稼いでいるので、無利子無期限で貸し出しますよ。
だからもう少し続けてみましょう」
「それはそれで、怖いんじゃがのぉ……」
クリーセェ様は複雑な表情になる。
まあ、私のやってることは、軽く経済侵略っぽいしなぁ……。
いずれは私達のキャロル商会が無ければ国が動かなくなり、王国を裏から牛耳ることができるようになるかもしれない。
でも、支配とかするつもりはないので、あくまでもただの経済活動です。
「それに現状でも、警戒が全く無駄になっている訳でもないでしょう?」
「それはまあ……そうじゃが」
実は最近、低級な魔物の活動が活発になってきている。
低級……とは言っても、オークやゴブリンのように群れれば村の1つや2つは滅ぼしかねないので、一般人に対しては大きな脅威であることは紛れもない事実だった。
そんな魔物の動きが、ウルティマへの警戒網に引っかかり、人間を襲う前に排除されているという成果も、少なからず出ていた。
魔物の活発化の原因はハッキリとは分かっていないけれど、ウルティマが各地でまき散らした瘴気が影響しているのではないか──と、予想されている。
魔物だってウルティマにとってはレベルアップの為の餌になるのだろうけど、もう低級な魔物から得られる吸収値ではレベルが上がりにくくなるほど、ウルティマは高レベルになっているのかもしれない。
それならば魔物を活性化させて、人間を襲わせて強力な個体が発生しやすいようにした方が、ウルティマとしても効率がいいというものだろう。
まあ、人間にとってもそういう個体を倒すことで、レベルアップを図ることもできるが、ウルティマにとってはそれも餌なんだろうなぁ……。
だけど強化されるのが私の眷属達なら、そう簡単にはいかないからね……!!
ともかく、国の警戒態勢は継続することになった。
私達もいざという時に備えて、レベルアップに励む。
そんな日々が続いたある日、ついにその時が来た。
「隣の国が、魔物の群れに襲われている!?」
警戒態勢を取っていなかった隣国の王都が、魔物の群れに襲撃されているという一報が届いたのだ。
運が悪いことに、丁度王妃ナスタージャ様達がその国に訪問していた。
助けに行かない訳には、いかないよねぇ……。
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