20 仇討ち
数話前にゲルニタを「虎娘」と書いてしまいましたが、ライオン娘です。同じネコ科なので、眠くて混同した……。
反乱軍の総大将・スクエーラは、5mはあろうかという巨体へと膨れ上がった。
しかも心なしか魚類っぽかったのが、両生類に進化したような気がする。
放っておいたら、爬虫類に進化するかもしれない。
そんなスクエーラの目からは知性の色が失われ、完全に正気を失っていた。
これは追い詰められた彼が、破れかぶれで自らを怪物化させて、私達に一矢報いようとした……という訳ではないと思う。
今まで見てきたスクエーラはどこまでも自分本位で、追い詰められたからといって、自身を犠牲にするようなタイプではないと感じた。
最後まで情けなくも、命に執着するタイプだ。
こんな自爆じみた手段に出るとは思えない。
つまりスクエーラをこうしてしまった何者かが、存在する可能性が高い訳だ。
となると、先程の大魔法を彼に与えたのもそいつかな?
スクエーラが自前であれだけの魔法を生み出すような実力があるのならば、それを利用することによってもっと良い魔王候補としての立場を手に入れていただろう。
だからあの大魔法は、誰かから貸し与えられたものに過ぎないのだと思う。
まあそれはともかく、今はスクエーラの始末だ。
「みんな、捕虜の保護を!」
スクエーラは無差別に、周囲の者へと襲いかかろうとしていた。
最早誰が敵なのかも分かっていないようだ。
こんな状態に陥った彼を、元に戻せるのかどうかは分からないけれど、可能だとしても簡単なことではないだろう。
それに理性を失って暴れ続ける魔物を、拘束し続けることも難しい。
……これが私の眷属なら、何が何でも助けるけれど、敵であるスクエーラでは労力に対するメリットが見合わないな……。
仕方がない……。
ここは倒すしかないね。
しかし私が前に出て、スクエーラと相対しようとすると、
「姐さん、あたいにやらせてくれ!」
「ゲルニタ……」
そうか、ゲルニタの父親である獣王ガンザスは、スクエーラの口車に乗った所為で、命を落とすことになったんだっけ……。
ガンザスの死は自業自得なところもあるけれど、それでもスクエーラが仇だと言えなくもない。
彼女にとっては、正々堂々と正面からガンザスを打ち破ったニルザよりも、父を陥れるような真似をしたスクエーラの方が許しがたいようだ。
実際ゲルニタとニルザは、お互いに似たような性格であることもあってか気が合うようで、特にわだかまりは無いように見える。
「いいよ。
ただし『眷属強化』は使わせてもらうからね」
「済まねぇ……!」
ゲルニタのその言葉には、父の敵討ちを任せてもらえる感謝の念と、自身の力だけでは仇を討てない不甲斐なさを詫びるものだった。
スクエーラは腐っても魔王候補。
それが更に怪物となって強化されているのだから、彼女の力だけでは荷が重い相手だろう。
それでも私の補助があれば、勝てない相手ではない。
「いっくぜぇ~っ!!」
ゲルニタは爪を伸ばして、スクエーラを引っ掻く。
引っ掻くと言えば可愛く聞こえるけど、実際には鉄板を引き裂くような威力があるよ、あれ……。
そして理性を失ったスクエーラには、彼女の攻撃を魔法で防御するような真似はできないようだ。
だから彼女の攻撃は、面白いように当たっている。
ただ、スクエーラにも再生能力はあるようで、受けたダメージもすぐに回復していた。
一方、スクエーラの巨体から繰り出される攻撃は、一撃一撃が致命的なダメージになりかねない。
まあ、ネコ科獣人のゲルニタは、素早さに特化しているからまず当たらないだろうけれど……。
それでも現状では、お互いに決め手は無かった。
だけどゲルニタは、まだ使っていないスキルがある。
そろそろ本気を出してくるころだ。
「フシャアァァァ──!!」
そう、ゲルニタが元から持っていたスキル、「獣化」だ。
彼女は全身に毛が生え、手足は太く強靱になって、四つ足の姿勢になる。
モフモフだー!
あれを私が使ったら、猫耳や尻尾とか生えるのかなぁ……。
種族によっては使えないスキルもあるから、たぶんできないだろうけれど……。
でも、獣人であるラヴェンダなら問題無く使えるはずだから、あとでスキルを「下賜」してモフってあげようかな。
いずれにしても、「獣化」したゲルニタの速度と攻撃力は、大幅に上昇していた。
先程までとは比べられないほどの連続攻撃──これならば、スクエーラの再生能力も追いつかないと思う。
実際、スクエーラは目に見えて弱っていくが──。
ん、何か気配がおかしい……!?
まさかスクエーラの身体に、自爆の術式とかも組み込んである……!?
「ゲルニタ、何かおかしいから、今すぐトドメを!!
ただし、距離はできるだけとってっ!!」
「分かったぜ、姉さん!」
ゲルニタは後方に跳躍し、そして大きく口を開く。
その口腔には、闘気が集中して、そこから吐き出されるのは──、
『波動砲──!!』
膨大な量の、闘気の塊だ。
それは私がニルザからコピーして「下賜」した、「波動砲」である。
しかも今のゲルニタは、私から「眷属強化」による支援を受けており、その威力はニルザが私に対して使ったものよりも高いはずだ。
「ガッガアァァァァァァ──ッッ!!」
「波動砲」の直撃を受けたスクエーラは、数秒間は耐えたが、所詮はそこまでだ。
次の瞬間、「波動砲」の力に耐えきれなくなった彼は、その身体を粉々に四散させた。
幸いスクエーラが大爆発するようなこともなく、綺麗さっぱり消滅したようだ。
「よくやったね、ゲルニタ!」
「……ああ」
しかし私が話しかけても、ゲルニタのテンションは低い。
父の仇討ちを終えたことに対して、感慨に耽っているのだろうか。
後で落ち着いたら、沢山ご褒美にモフってあげよう。
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