18 魔界平原の戦い
反乱軍に突っ込んでいったニルザ達は、道を作るがごとく魔物の群れを打ち倒しながら進んでいく。
元々彼女達は強いけど、私の「眷属強化」で更に強化されているので、大抵の敵は雑魚と化している為、もう数の差など関係ない。
しかも反乱軍の中には、彼女達に恐れをなして逃走する者も続出し、その上に遠距離攻撃で指揮官を優先的に狙い撃ちして撃破しているので、指揮系統も滅茶苦茶だ。
最早軍隊としては、崩壊寸前だと言えるだろう。
この調子ならニルザ達は、反乱の首謀者とされるスクエーラがいるであろう本陣へと、いずれ到達するはずだ。
というか、元々お姉ちゃんだけでも、一騎駆して大将首を上げることも可能なんじゃないかな?
でも、ちょっと順調すぎて怖いな……。
こういう時こそ、慎重になった方がいい。
『ラヴェンダ、ニリス。
スクエーラがいる本陣を、見つけてくれる?』
彼女達は影を使って戦場を自由に移動できるから、偵察任務には最適だ。
『承知しました、ご主人!』
『お任せを』
追い詰められたスクエーラが、おかしな真似をしないように気をつけた方がいいよね。
その為にも、彼の居場所を突き止める必要がある。
それまでの間、私はクルルの頭の上から、戦場を俯瞰して眺める。
現状だと、反乱軍が崩壊しかけているだけのようにしか見えない。
統制を失った軍隊なんて、その気になれば各個撃破も可能だ。
まあ、今回は殲滅が目的ではないので、逃げる者は逃げてもいいけど……。
いや……こういう戦場から逃げ出した敗残兵が、野盗と化して近隣の集落を襲うという話はよくあると聞く。
それはちょっとまずいかな……。
そもそも、反乱軍に参加していた以上、無罪放免という訳にもいかないからなぁ……。
じゃあ戦場から離脱した時点で、「自然支配」のスキルを使って土壁を作って、そこに閉じ込めておくかな。
拘束するのは戦いが終わってからだ。
数が多くて大変そうだけど、ラヴェンダの「操糸」のスキルがあれば、なんとかなるだろう。
そして戦後、捕虜の処遇は最低でも強制労働──それくらいの処罰は受けることになるのかな?
勿論、首謀者のスクエーラ辺りは、確実に死罪だろうけれど……。
その辺は魔王エルザの裁量に任せよう。
そんなことを考えていたその時──、
『ご主人、本陣と思われる集団を発見しました!』
ラヴェンダから報告が入る。
『ご苦労様、様子はどう?』
『それが……何か儀式のようなものを、行っているのですが……』
『え? ちょっと見せて』
私は「視覚共有」で、ラヴェンダの見ている光景を見る。
するとそこには、地面に大きな魔方陣が描かれ、十数人もの術者が呪文を唱えていた。
基本的に魔法には呪文の詠唱や魔方陣は必要無いけれど、効力を上げる為に用いることはあるという。
十数人がかりで巨大な魔方陣を用いる──つまりそれは、大規模な魔法を行使しようとしているということだ。
あれ……これ、結構ヤバイやつなのでは?
魔方陣は淡く輝き、今にも何かしらの魔法が発動しそうだ。
攻撃魔法だとすれば、どんでもない威力になるのではなかろうか?
みんなに対して、「念話」で防御態勢を取るように警告を──。
いや、それではこれから来るであろう攻撃に、耐えきれるか分からないな。
「万能障壁」の性能も、個人差があるし。
え~い、こうなったら戦場にいる全員に対して、「眷属召喚」!!
「なっ!?」
「なんだ!?」
「あっ、姐さんだ」
クルルの頭上に、みんなが姿を現した。
突然の強制転移で、みんなは唖然としている。
「何事だ、マルルお姉様!?
折角調子よく攻め込んでいたのに!」
ニルザは訳が分からないといった感じで、私を問い詰めるけれど、今はそれに答えている余裕は無い。
今度は私達が、乗っているクルルごと「転移」だ。
私達が上空へ逃れた瞬間、反乱軍の中心から、眩い光が出現する。
「なっ!?」
そして光は大きく膨れ上がり、戦場を飲み込んでいく。
おそらくその光は、爆発的な力と熱を伴ったもので、それに飲み込まれた者は無事では済まないだろう。
そして私達も、空に脱出していなければ、あの光の中に飲み込まれていたはずだ。
「まさか……味方ごと!?」
まさに敵も味方関係なく、光がすべてを飲み込んでいく。
「これは……魔王軍を使って攻めていたら、とんでもない被害が出ていたぞ……!」
ニルザが呻く。
実際、光が消え失せた後、そこにはスクエーラがいるであろう本陣以外は、何もかもが吹き飛んでいる。
さすがにこれは予想していなかった。
いくらなんでも、数万の自軍を犠牲にしてでも、私達を倒そうするか、普通?
その試みが成功しても、配下を失ったスクエーラはもう、魔王候補としては再起不能だろうに……。
命さえ助かれば、それでいいの……!?
これは何が何でも、スクエーラを倒さなければならなくなったな……!
味方を裏切って何万もの命を犠牲にするようなクズは、見逃す訳にはいかないよ。
私はクルルを反乱軍本陣の傍に着地させ、その頭から地上へ飛び降りる。
そんな私の視線の先には、おそらく奥の手が通用しなかったことに、動揺する者達の姿があった。
さて……彼らは、拘束して裁判にかけた上で死罪か……。
それとも、この場で討ち取ってしまうか……。
どちらにしても、生かしておくという選択肢は無いだろうな……。
ブックマーク・☆での評価・誤字報告・いいね・感想などをいただけると嬉しいです。




