17 反乱軍
スクエーラ魔界辺境伯が反乱──。
その重大ニュースは、魔界全土をかけめぐった。
まあ、実際にはまだスクエーラは、具体的な軍事行動は起こしていない。
だけど特に理由も無く兵力を集めた時点で、それは反乱の意思ありと見なされても仕方がないことだよね。
普通ならば、魔王に許可を得なければならない。
で、これから私達は、その反乱を止める為に戦うことになる。
ぶっちゃけ、カプリちゃんを派遣すればそれで済むのだけど、さすがに彼女の大きすぎる力では、スクエーラ軍は全滅するという結果しか望めなくなる。
中には嫌々従っている者もいるだろうし、そういう者達まで虐殺してしまうのは、私もどうかと思うのだ。
それにこれは、ニルザの足場を固めるのに丁度いい戦いだ。
ここで反乱を手際よく鎮圧すれば、彼女への国民の評価は上がり、次期魔王の座も確定的なものになるだろう。
そんな訳で今回は、ニルザ率いる少数精鋭の部隊──という体で、私と眷属達が対処することになった。
でも、表向きは魔王の孫娘であるニルザが総大将で、副官は暗殺メイドのニリスと、ライオン娘のゲルニタだ。
「カプリちゃん、ここまででいいよ」
『……本当に我が手伝わなくて、いいんですかー?』
「カプリちゃんは遠くで見守ってくれているだけで、私達は安心して戦えるから」
『オーケーでーす』
と、カプリちゃんは空の彼方へと飛んで行く。
今回彼女には、戦場までの足代わりとして、私達を運ぶことだけをお願いした。
今、目の前には万単位の軍勢が見えている。
その大半はゴブリンやオークのような下級魔族のようだけど、巨人族や竜族の姿も見えるね……。
そいつらが、魔界の首都目掛けて進軍していた。
当初、スクエーラは、魔界辺境伯領の領都に籠城する構えを見せていたが、そこに攻め込むと一般人も巻き込むので放置した。
そして魔王エルザが大規模な軍の準備をしていないという情報を流すと、スクエーラは一刻も早く首都に攻め込んだ方が得策だと判断したようで、軍勢を動かす。
たぶん籠城していると、逆になにかしらの罠に嵌められるのではないかと、疑心暗鬼に陥ったのだろうね。
まあ実際、魔王軍を動かさなくても、大規模魔法やカプリちゃんの息によって、領都ごと焼き払うことは不可能ではなかったし。
私達は関係の無い民衆まで巻き込むつもりは無いけれど、スクエーラにはそれが分からないので、何かしらの攻撃があることを恐れて動いたようだ。
首都に近づいてしまえば、魔王もお膝元である首都に影響が及ぶような、派手な攻撃ができなというのも事実ではある。
いずれにしてもスクエーラが動いてくれたおかげで、私達はこの何も無い平原で、反乱軍を迎え撃つことができるようになった。
これで少なくとも市街戦は行われることなく、非戦闘員を巻き込む心配は無くなったぞ。
あとは如何に戦闘員の被害を、減らすのか──だ。
まあ、徹底的に脅かすしかないかな……。
それで戦意を失ってくれるのなら、それが1番いい。
そんな訳で、私の眷属の中で1番迫力がありそうな者を使って、脅しをかけることにする。
「カトラさん、お願い」
「はい」
まず、カトラさんの「自然支配」で、反乱軍の前に竜巻を発生させる。
これで反乱軍を飲み込むことも可能だけど、それでは無差別攻撃になってしまう。
それに竜巻──つまり自然現象によって反乱軍が壊滅したという認識になれば、ニルザの功績にはならない。
だからこの竜巻はすぐに消す。
そして消えるタイミングを見計らって、私達はその竜巻の中心へと転移した。
ただし、巨大化したクルルの頭に乗って──だ。
「な、なんだ!?
竜巻の中から、巨大な化け物が!?」
「ひいぃぃぃぃぃ!?」
クルルの姿を見て、狼狽える者が続出する。
何せ巨大化したクルルは数十m──下手な竜より何倍も大きいからね。
一見して勝てるような相手ではないと、悟った者も多いだろう。
ここで私は、「念話」によって反乱軍全体へ、降伏勧告を行うことにした。
「念話」だと、言葉を持たないような知能の低い魔物に対しても、ある程度は意味が伝わるようだし、魔物の群れに対しても多少は効果はあるだろう。
『反乱軍の者達よ!
王女ニルザ殿下の御前である。
ただちに武装を解除しなさい!
この勧告が聞き入れられない場合は、殿下が使役するこの巨獣をけしかけ、すべてを押し潰すことになるだろう!!
だが、降伏する者や、逃げる者の命までは取らないと約束しよう!!』
反乱軍の中から、どよどよと騒然とした空気が伝わってくる。
中には逃げだそうとする者もいたが──、
「逃げるな!
逃げる者は俺が斬る!!」
指揮官らしき者達が、逃げようとした者を斬り殺して見せしめにし、軍の秩序を取り戻そうとしていた。
逃げようとしても死ぬのなら、破れかぶれで戦う者も出てくるだろうな……。
「リーリエ、あいつらを狙える?」
「任せて!」
リーリエが弓矢で、指揮官らしき者達を狙い撃つ。
今の彼女は強運なだけではなく、レベルも高いから、標的を外すことはまず無い。
これで数人の指揮官は排除することができたけれど、それでも弓矢では倒せない屈強な魔族の戦士もいた。
あと単純に、弓矢の攻撃では届かない位置に存在する指揮官もいる。
スクエーラもここからでは姿が確認できない。
その所為で完全には反乱軍の動きを止めることはできず、クルルに向かって魔物達が押し寄せてくる。
「私に逆らうとは愚かなり!」
「ああ、ボコボコにしてやろうぜ、姫さん!」
ニルザとゲルニタがクルルから飛び降りて、敵陣に突っ込んでいく。
好戦的だなぁ。
まあ、ザコが相手なら遅れは取らないだろう。
いや、2人だけでは危険だ。
「お姉ちゃん、エルシィさん、ラムちゃんは、ニルザ達の護衛をお願い!」
「了解」
私の指示を受けて、お姉ちゃん達がニルザを追う。
そして更に、
「それからリーリエとカトラさんは、ここから指揮官や魔法攻撃をしてくるような奴を狙撃して。
ラヴェンダとニリスは、敵陣に潜入して指揮官の暗殺。
クルルはここから動かず、攻撃してくる奴だけ踏み潰して」
みんなへと指示を出す。
……私は「眷属強化」で、まずはみんなのサポートかな。
いつも応援ありがとうございます。




