16 ハーレムの主
「ようこそマルル様」
「こんにちは」
私は今、故・獣王ガンザスの屋敷にきている。
ライオンの獣人であるガンザスがハーレムを形成していたと聞き、そのハーレムの主を失って路頭に迷うであろう女性達に手を差し伸べる為だ。
ガンザスは私に暗殺命令を出したけれど、それは他の魔王候補で魔界辺境伯でもあるスクエーラに唆されてのことなので、命まで奪うのはやり過ぎだった……と思ってしまうのは、庶民の感覚なのかなぁ……。
まあ実際には、魔王城に暗殺者を送り込んだだけでも、死罪は妥当なんだろうけれどもね……。
下手をすれば一族郎党の皆殺しも有り得た。
そもそもカプリちゃんの伴侶候補である私を攻撃することは、彼女を敵に回すことにもなる。
そのリスクを恐れたからこそ、スクエーラはガンザスを利用したのだろうし。
それでもガンザスの家族にまで、累が及ぶのは私の本意ではない。
それと反乱の動きがあるスクエーラに、同調することが無いように先手を打つという意味合いもあって、ここに来たのだ。
彼女達に復讐心があった場合、ガンザスと同様にスクエーラに利用されるかもしれないからね。
それを封じる為にも、先に私の『百合』で味方に付けておこうと思う。
「あなた達にとって、私やニルザは獣王ガンザスの仇──。
それでも忠誠を誓うのならば、あなた達の生活を今まで通りにしたいと思うんだけど、どうかな……?」
「我々に異存は無い」
ハーレムの代表は、あっさりと了承した。
ガンザスと同様に、直立した雌ライオンの姿をした獣人だ。
「いいの?
私達に恨みは?」
いくら『百合』があったとしても、元々持っていた感情が、すぐに消える訳では無い。
それなのに復讐心がまったく感じられないというのは、解《げ》せないなぁ……。
「群れのボスが代わることなど、よくあることだ。
ガンザスもこれまでいたボスを追い落として、その座に収まったに過ぎない。
我々は強者に従う。
それに我々もガンザスに対して、思うところがあった」
と、代表は少しだけガンザスに対して、怒りの色を見せた。
ああ、ライオンってボスの座を奪うと、前のボスの子を皆殺しにすることもあるんだっけ?
子育てしている雌は発情してくれないから、自分の子孫を残す為に……だとか。
人間でも再婚相手の連れ子を虐待するのって、そういうことなのかな?……って思ったことがある。
そういうことをガンザスも過去にしていたのなら、彼女達の冷淡さも理解できる。
しかしそれでも、ガンザスに今まで従っていたのだから、彼女らは本物のライオンに近い性質をしているんだろうなぁ。
子供を殺されても……というのは、私にはちょっと理解できない感覚だ。
ただ──、
「待てよ!」
「ゲルニタ……!」
声を上げたのは、ゲルニタ……という名前なのかな?
彼女は他の種族との混血なのか、人間的な特徴が強い獣人の娘だった。
それだけに「強者に従う」という、本能的な価値観は弱いようである。
「あたいよりも年下の小娘に、はいそうですかと、従えるかよ!!」
ゲルニタの見た目は十代半ばの、スレンダーな肢体の少女だった。
鬣のように逆立った金髪の中に、ライオンの耳が見え隠れしている。
ふむ……でも印象としては、ライオンと言うよりも子猫だね。
「あなたは……ガンザスの娘?」
「おうよ!
親父が負けたのは仕方がねぇが、あたいはまだ負けてねぇ!」
う~ん、気が強いなぁ。
でもこういうタイプは、力を見せつけるとあっさりと従順になる。
ニルザもそういうタイプだったし、案外彼女と気が合うかもしれない。
魔王の副官として育てるのも、いいかもね。
「じゃあ、かかってきなよ」
「分かった……!」
止める者は誰もいなかった。
ゲルニタがどうなっても、自己責任だと考えているのだろう。
じゃあ、私がもらってもいいよね?
「おらぁぁーっ!!」
ゲルニタは雄叫びを上げながら、私に跳びかかってくる。
父親と同様に接近戦が得意なタイプらしく、伸ばした鋭い爪で私を斬り裂こうとしているようだ。
そんな彼女に対して、私は「万能障壁」を展開することで攻撃を受け流す。
「ぬっ!?
ぐふっ!?」
そして動きが止まったゲルニタの髪を掴み、そのまま彼女を床に叩きつけた。
ここは室内だから、暴れてあれこれと壊したくないので、これで終わりだよ。
「う……動けねぇ……!?」
私は右腕1本でゲルニタの頭を押さえ込んでいるように見えるけれど、実際には単純な力だけではなく、障壁も使っている。
筋力や闘気だけで抜け出すのは、かなり難しいと思うよ?
少なくともニルザやガンザスくらいの、実力が無いと無理だ。
あとは高度な魔法の技術があれば、障壁を解除して抜け出すことも可能だったのかもしれないけれど、ゲルニタにはそんな能力は無さそうだね。
「どう……?
降参?」
「ぐっ……ぬぬぬぬ……!!」
降伏勧告しても、ゲルニタは暫し抵抗を続けていた。
だけど、彼女は唐突に脱力する。
力尽きた……というよりは、諦めたか。
「分かった! 降参だ!
あたい、姐さんに従うよ!」
「そう、良かった」
でも……姐さんはどうなんだろう……?
女ヤンキーとか、極道の妻とかじゃないんだからさぁ……。
ともかくゲルニタが配下になったので、思う存分ゲルニタをモフって従属度を上げておこう。
犬もいいけど、やっぱり猫もいいね。
ちなみに、後ほどゲルニタへギフトを授けて、更にスキルを「下賜」したステータスがこれだ。
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・ゲルニタ 29歳 女 LV・41
・職業 拳闘士
・生命力 498/498
・魔 力 123/123
・ 力 423
・耐 久 467
・知 力 121
・体 力 559
・速 度 303
・器 用 184
・ 運 108
・ギフト 拳の極み
・スキル
斬 爪
咆 哮
金剛身体
半月蹴り
気 弾
集 気 法
獣 化
魔王闘気
流 星 脚
波 動 砲
空間収納
完全隠蔽
万能強化
万能耐性
万能感知
万能障壁
無限再生
魔力循環
視覚共有
念 話
自然支配
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ほぼ劣化版ニルザって感じ。
彼女とは、いいライバルになってくれると思う。
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