1 隣村へ
今回から新章です。
オークの襲撃を受けた村から脱出した私は、その後熊に助けられて行動を共にしている。
どうやら「百合」というギフトは動物の雌にも効くらしく……というか、人間よりも劇的な効果があるようで、雌限定のビーストテイマーと呼ぶべき性能を発揮していた。
私はその熊に「クルル」と名付けた。
私やお姉ちゃんと一字違いだけど、これから私の命を守ってくれる心強い味方なのだから、私達姉妹に由来する名前くらいは付けてもいいだろう。
しかし、色々と問題はある。
今、私達は隣村に向かっているけれど、おそらく熊のクルルは村の中に入れてもらえない。
つまり隣村の中では、私1人で行動しなければならなくなる。
両親が見つかればいいけれど、見つからない場合は、私がすべてをやらなければならないのだ。
たぶん避難民だからと言って、この世界では行政からの支援は期待できないだろう。
人権やら人命やらが尊重されるのは余裕のある社会だけで、この世界でそんなものに気にしているのは、一部の金持ちだけではないだろうか。
つまり道楽だ。
少なくとも見ず知らずの人間に、無償で施しを与えるような平民は、まずいないだろう。
だから隣村において、支援の手は期待できない。
おそらく孤児院なんてものも田舎の小さな村には無いだろうし、私自身が住むところや仕事を探し、生活の基盤を構築していかなければならなくなる。
だけどお金が無い。
それどころか、数日生きる為の食料すら無い。
こんなことなら村から脱出する前に、何処かの家からお金を拝借してくれば良かった……。
いや、泥棒は良くないな……。
それなら、「百合」のギフトを利用して、女の人に養ってもらうか……って、ヒモじゃん!
……さすがにそれは最終手段なので、隣村へ着く前にクルルと一緒に動物を狩って、それが売れないか交渉してみようか……。
それからクルルと森で木の実などを食べ、売れそうな獣を狩りつつ、隣村へと向かった。
そんな風にクルルと一緒に行動を共にしているうちに、いつの間にか親密度が「100%」になっていることに気付く。
「あれ?
これヤバくない?」
クルルが鼻息を荒くして、私にすり寄ってくる。
「ちょちょちょ……!」
お姉ちゃんの時のように襲われる──そんな危機感から、私は逃げようかと思ったけど、熊の身体能力には勝てるはずもない。
だけど──、
「こらっ、くすぐったい!」
私の顔は、クルルによって無茶苦茶に舐めまわされた。
ただ、クルルは私にのしかかってきても、身体をこすりつけてくるだけだ。
「ちょっ、重ーい!」
どうやらじゃれついているだけらしい。
さすがに熊だと、女の子同士の繁殖行動の仕方が分からないようで、これ以上のことはできないのだろう。
助かった……。
うん、さすがに動物と一線を越えるような変態行為は、ちょっとね……。
でも親密度が「100%」になっている所為か、私もクルルが可愛くて仕方が無いので、少しやばかったかな……とは思っている。
手元にバターや蜂蜜があったら、危なかった。
あと、熊に本気でじゃれつかれたら大怪我しそうなものだけど、私の耐久力も以前の数倍になっていたので、なんとか大丈夫だ。
私も強くなったものだよ。
……「吸収値」を分配してくれた、お姉ちゃんのおかげだね。
あ、100%になったんだから、スキルもコピーしておこう。
───────────────
・スキル(10/10)
●強 打
●回転蹴り
●防御強化
●気力集中
●気配隠蔽
●再生力弱
●毒 無 効
●流し斬り
●暗 視
●追 跡
○食いつき
○ひっかき
○臭覚強化
○毒耐性弱
───────────────
こんなところかな。
「毒耐性弱」を「毒無効」と入れ替えて、「暗視」と「追跡」を入れればいいかな?
「食いつき」と「ひっかき」は、熊の牙と爪だからこそ効果的なスキルだと思うし、たぶん永久に使う機会は無いだろう。
あと「臭覚強化」は、汲み取り式トイレが現役のこの世界の人里では、臭いだけだと思うので、これも基本的には封印かなぁ……。
もしかしたら狩りの時に役立つのかもしれないけど、それはクルルに任せれば良さそうだし……。
そして2日ほどかけて、私達はようやく隣村へと辿り着いた。
すると──、
「止まれ!
その熊はなんだ!?」
私がクルルに乗って隣村の門へ行くと、やっぱり門番のおじさんに止められた。
「私の相棒なんです。
私の言うこともちゃんと聞きます。
それでも村に入れたら駄目ですか?」
「駄目だ」
駄目でした。
う~ん、それならクルルには、村の外で待っていてもらうしかないな。
「クルル……近くの森で隠れていて?
狩られないように、私以外の人間に近づいちゃ駄目だよ?」
「グウ」
クルルは短く吠えて、森の方へと走っていった。
よく言うことを聞く良い子だ。
「それで……私は村に入ってもいいんですよね?」
「あ……ああ、お前は動物を操るギフトを持っているのか?」
「まあ、そんなところです」
それで門番には納得してもらえた。
地球の中世なら、こんな常識外れの特殊能力を持っていたら、魔女扱いされて捕まっていたかもしれないなぁ。
まったく、「ギフト」が当たり前の世界観様々だ。
「あ、隣村の方から、他に逃げてきた人はいますか?
オークの襲撃を受けたんです」
「なんだと……!?
この道の先から来たのは、ここ最近ではお前だけだぞ」
「そう……ですか」
どうやら村で生き残ったのは、私だけのようだ。
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