11 暗殺者
メイドが私の脇腹にナイフを突き立てる──が、既に100レベルを超えている私の耐久力を相手にしては、ナイフ程度なんてまともに刺さる訳がない。
それでも相手は手練れだったのか、かすり傷くらいは負ったけれどね。
一応「万能耐性」はあるけど、特殊な毒や呪いがナイフに付与されていたら困るので、「大浄化」を傷口にかけておく。
「くっ!」
メイドは暗殺の失敗を悟って行動に移ろうとしたが、私はすぐに取り押さえて、即「女体化」のスキルをかける。
それから──、
「抵抗も自害もしちゃ駄目!」
と、メイドに命じた。
まあメイドとは言っても、ほんのちょっと前までは女装した暗殺者だったようだが。
うん、『百合』の効果で女性が私に攻撃してくるなんて思っていなかったから、ちょっと油断していたよ。
逆に攻撃してきたからこそ、実は男性なのだということを咄嗟に悟ることができた。
そうじゃなければ分からなかったのだから、結構なクオリティの女装だ。
実際、「女体化」させる前と後の姿に、違いがまったく無い。
男の頃から美少女って、どういうことだ……。
う~ん、たまたまなんだろうけれど、女装は私にとって最大の弱点にもなり得た訳で、それを使って暗殺を仕掛けてくるとは……。
危ない危ない、こういうことはちょっと想定していなかったよ。
ただ、「女体化」させてしまえば、もう私の『百合』に逆らうことは難しい。
「何事だ!?」
「大丈夫か、マルル!?」
異変に気付いたみんなが、駆け寄ってきた。
メイドはラヴェンダの糸によって、即縛り上げられる。
ちなみに、すぐ近くにいたはずのニルザは、既に酔い潰れて眠っていた。
こんな隙だらけで、よく今まで暗殺されなかったな……。
いや、他の魔王候補にとって彼女は、利用価値があったのだろう。
たとえば魔王の孫娘である彼女と結婚すれば、自動的に権力の中枢に近づける訳だし。
「大丈夫だよ、ほら」
私はナイフで刺された跡を見せるけど、そこにはもう「無限再生」で傷痕すら無い。
でも無事だとは言え、暗殺されかけたこと自体は大問題だ。
「う~ん、誰が主導したんだろう?
お姉ちゃん、後で尋問するから、『魅了』をかけておいて。
血を吸って眷属にするのもいいね。
あと、口封じされないように、守っておいてくれる?」
「うん、分かった」
これで首謀者は、後々判明するだろう。
わざわざ自ら証拠を送り込んでくるとは、馬鹿な奴だ。
だけどまずは、話を聞かなければならない者がいる
魔王エルザが私の前まで来て、頭を下げた。
「これはこちらの不手際だね。
済まなかったよ……」
「……あなたは、こういう事態を予想していたのでは?」
私とニルザとの決闘に対してエルザは、なにかしら裏の目的を持っていたのではないかと、私は予想していた。
魔王候補が決闘で負けるということは、他の魔王候補にとってはチャンスにもなり得るからだ。
王は民を守る為に、強くなければならない。
その王の候補が負けたとなれば、不安に思う者もいるだろう。
そこにつけ込もうとする者が出てくることは、簡単に予想できるはずだ。
「まあ……野心のある連中が、何かしらの動きを起こすのは分かっていたよ。
それでそいつらを一掃できるのなら、魔界は安定するから願ったり叶ったりだ。
……まさかこんなに早いとは思わなかったがね」
要するに不穏分子のあぶり出しに、私とニルザの決闘が利用されたという訳か。
そして私はニルザを倒し、カプリちゃんの伴侶になることで、一気に魔王候補のトップに躍り出た形になった。
そんな私を邪魔だと思った誰かが、いたのだろうねぇ……。
「頭を上げてください。
私も決闘を受けた時点で、こういう事態は予想していたので。
そもそも決闘は、ニルザが言い出したことで、あなたはそれを利用しただけに過ぎない」
本来ならこういう事態になることを、ニルザが予想して対策を立てておくべきだった。
だけど単純な性格の彼女には、それは無理だろう。
でも、ニルザのそういうところは、嫌いじゃないんだよね。
だから私はニルザを責めない。
そして彼女を責めないのならば、より責任が軽いエルザも責められないなぁ……。
「そうかい……。
ありがとうね」
「だけどニルザも魔王を目指すのならば、もうちょっと後先を考えた言動をとった方がいいのでは?
これは参謀役をつけた方が、いいのかもしれませんねぇ……。
誰かいないのですか?」
「あたしはあんたなら、適任だと思うのだがね」
いないのか……。
「私も色々と忙しいもので……」
私だっていつまでも魔界にはいられないので、誰か別の人間をニルザの副官にした方がいい。
一応、アテはあるけれど……。
「ともかくこれからも、人間に負けたニルザは魔王に相応しくないとか、人間は魔王になるべきではないとか、騒ぎ出す連中は出てくるだろうさ」
私は魔王になるなんて、一言も言っていないんだけどなぁ……。
でも、魔王の座を狙う連中にとっては、私の意思なんて関係ないことか。
「そういう連中を片っ端から抑えることができれば、ニルザは次の魔王だ。
できるかどうかは、この子次第だけどね」
と、エルザは酔い潰れているニルザを見下ろす。
そんな彼女からは、孫娘を甘やかす祖母の顔が、少しだけ見え隠れしていた。
「それじゃあ、ニルザには頑張ってもらいましょう。
私も多少は協力させてもらいます」
まあ、あくまで働くのはニルザがメインだ。
色々とスキルを「下賜」しておけば、彼女が他の魔王候補に負けるようなことは無いんじゃないかな?
それと『ギフト』も授けておくとしよう。
眠っている者にも、できるだろうか?
どれ……ステータスで確認してみようか。
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・ニルザ 311歳 女 LV・64
・職業 魔界王女
・ギフト 魔王の心臓
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『魔王の心臓』……!!
へえ……凄そうなのが出たじゃない。
これは期待できそうだ。
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