10 決闘の後
アナウンスが私の勝利を宣言した後、闘技場は静まり返っていた。
人間の私が勝利するという展開は完全に予想外で、みんな茫然としているのだろう。
しかし事態が飲み込めたのか、やがて闘技場全体が拍手と歓声に包まれた。
まあ、大半は女性からの物だし、中には「金返せ!」という声も混じっていたが。
賭けに負けたのか……。
そんなの、私に知ったことじゃないよ。
私は声援に手を振って応えながら、舞台から退場することにする。
気絶したニルザは、魔法で浮かせて一緒に退場だ。
「ご主人、凄かったですよー」
控え室へ続く通路に入ると、いつも通りラヴェンダが抱きついて出迎えてくれた。
勿論、お姉ちゃん達も出迎えてくれた訳だが、特に大喜びなのがリーリエだ。
「大勝ちしたわよ、マルル様!」
あっ、リーリエは私に賭けてくれていたのか。
でも、私の勝ちなんて戦う前から分かっていたのだろうし、彼女の強運は関係ないだろう……と思っていたのだが、賭け方にも色々あって、彼女は「何分で誰が勝つ」という予想を、ピンポイントで的中させたらしい。
当然、他に的中させた者は殆どいなかったので、払戻金の大部分がリーリエに渡ったようだ。
魔王エルザも私に賭けていたが、さすがに手堅く賭けたようで、リーリエから比べればささやかな金額だったという。
「くっくっく……強いとは思っていたけど、まさかあれほどとはねぇ……。
しかもまだ本気を出していない……。
それが見抜けていたら、さすがにニルザへは賭けなかったよ」
あ、一応孫娘にも賭けていたのか。
まあ、リスク配分は大事だしね。
それに多少は、孫の勝利を信じたかったというのもあるのだろう。
あれ、そういえば決闘の賞品扱いされていた、カプリちゃんが大人しい。
「どうしたのカプリちゃん?」
「はい、これでマルルがマイワイフになると思うと、おかしな気分でーす」
「ぶっ!?」
カプリちゃんの発言に、みんなが色めき立つ。
「ご主人の独り占めは許しませんよ!」
「そうだ!
ママはみんなのママだ!」
うん、「みんなの」まではまだしも、「みんなのママ」ではないが。
「分かっていまーす、マルルは私だけのものにしていい人ではありませーん。
沢山の人から求められる存在でーす。
それでも今回の件で、ここの者達からは、我のワイフだと認識されるでしょー。
それがなんというか……その……」
あれ……もしかしてカプリちゃん、照れている?
珍しく頬を赤らめて、戸惑った顔をしている。
どうやら私と夫婦……いや婦々として見られるのが、存外嬉しかったということなのだろうか。
ふふ……可愛いところもあるじゃない。
このカプリちゃんの顔を見ることができただけでも、今回の決闘は意味があったかな。
その夜、魔王城では祝勝パーティーが行われた。
決闘に勝っただけで、ちょっと大袈裟じゃない?
しかも負けた側のニルザも、普通に参加しているし。
「マルルお姉様ぁ、今日の勇姿は素敵でした……」
「あはは……」
ニルザは私にベッタリと抱きつき、更に尻尾を私の腰に巻き付けていた。
決闘の時とは態度が全然違うな、おい。
「マルルお姉様がカプリお姉様の正妃で、私が側妃。
3人で魔界を治めていきましょう?」
「いや、カプリちゃんも私も、魔界の統治には興味が無いから、ニルザに任せるよ。
まあ、協力できることはするけれど……。
あと、私は特定の誰かと、結婚するつもりはないので……」
私の『百合』は、誰か1人が受け止められるような性質じゃないからね……。
「そんな……マルルお姉様ほどの実力があれば、魔王の座につくこともできるのよ?」
「いやいやいや、人間がやるもんじゃないよ」
そもそも私は、「王」って柄じゃないから……。
「しかし……!」
ニルザはまだ食い下がろうとするけれど、このまま魔王にされて魔界に縛りつけられるのも困る。
私のホームグラウンドは、人間の世界にあるんだもの。
「転移」を駆使すれば行き来はできるけれど、距離が開きすぎているので、頻繁にという訳にはいかない。
なので魔界には、私の代理となる眷属を配置するのが現実的だ。
今のところその候補は、ニルザが最も適任だと思う。
「ニルザ……魔王にはあなたがなって魔界を統治し、私は大魔王として裏から全世界を統治する──それでいいんじゃない?」
勿論大魔王なんてのは名誉職で、何の権限もないよ。
ニルザを納得させる為の方便として、今思いついたことを口にしただけだ。
だけどニルザは──、
「いい、いいね、大魔王!」
どうやら気に入ったようだ。
「でも、あくまで裏からだから、公には秘密だよ?」
「承知したわ!」
私はニルザに念を押す。
これでニルザは丸め込めた。
しかし今の話を聞いていた現役魔王のエルザが、何を考えているのかよく分からない笑顔を浮かべている。
あれは私のことを、どう利用するのか考えているような気がするなぁ……。
こういう人が増えるから、大魔王の件はあまり大きな話にされても困る……。
その後、祝勝パーティーは続いていき、夜は更けていく。
そして一部の者に酒が入り、宴が盛り上がってきた頃──、
「失礼します」
「ん?」
空になったコップに飲み物を注ぎにきたメイドが、私の脇腹にナイフを突き立てた。
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