9 勝敗の行方
私が「自然支配」で生み出した竜巻が、ニルザを飲み込んだ。
しかも先程彼女が破壊した土槍の破片を巻き込んでいるので、ちょっとしたフードプロセッサーみたいなものだ。
普通の人間ならば、ズタズタに皮膚を引き裂かれた上で空中に放り出されて、命は無いだろう。
しかしニルザは典型的な悪魔族っぽいので、翼を隠し持っている可能性が高い。
たぶん空くらいは飛べるだろうし、身体の耐久力だって、かなり高いはずだ。
だからこの竜巻だけでニルザへと、大きなダメージを与えられるとは思えない。
そんな訳で、竜巻の中に炎を送り込み、火炎旋風を発生させる。
これでダメージを与えるのもよし、酸素を燃焼させて窒息を狙うもよし。
ニルザへの何かしらの効果は、少なからず期待できる。
しかし──、
「うるぁぁぁぁぁ──っっ!!」
「!?」
唐突に火炎旋風が弾け飛んだ。
ニルザが全身から膨大な闘気を放出させて、吹き飛ばした!?
そしてニルザはやはり背中から翼を出し、空中を浮遊している。
「くっ……可愛い顔をして、えげつない攻撃を……!!
なんだ、このギャップ……!」
……いちいち「可愛い」とか言わなくていいから。
「ふっふっふ、だが気に入った。
カプリお姉様は渡せぬが、貴様を我が側妃にしてやっても良いぞ?」
「……」
うん、あなたが私の側妃になるんだよ?
なんだかんだで従属度がもう80%を超えているから、陥落するのも時間の問題なんだよなぁ……。
どれ……ステータスはどうかな?
───────────────
・ニルザ 311歳 女 LV・64
・職業 魔界王女
・生命力 349/613
・魔 力 101/188
・ 力 497
・耐 久 532
・知 力 189
・体 力 685
・速 度 393
・器 用 256
・ 運 168
・ギフト
・スキル
毒 耐 性
自然操作
強 拳
回転蹴り
気 弾
無限再生
身体強化
気配感知
高速飛行
物理耐性
集 気 法
魔王闘気
流 星 脚
波 動 砲
───────────────
カプリちゃんより年上じゃん!?
それでも「お姉様」とか言っていたのか……。
自分よりも上だと認めた相手なら、年齢は関係ないってこと?
そしてその実力は、数値の上ではクルルよりも下だ。
ただ、レベルの割には高いので、やっぱり魔族の基礎的な能力は高いということなのだろうね。
あと、奥の手になりそうな技はまだ残っているようだけど、逆に言えばそれを使わなければ、ニルザにはもう勝ち目がないってことだ。
だからそろそろ彼女は、最後の勝負に出るだろう。
「さあ、決着をつけようか!!
マルル!」
ニルザは両掌に、闘気を集中させる。
そこから感じられる力は、今までの比ではない。
これは「波動砲」とやらかな?
さすがにこれの直撃を受けると、私もダメージを受けそうだ。
それならば、私も迎撃するとしよう。
私のこれまでの攻撃によってニルザが受けたダメージは、思っていたほどではないから、もうちょっと強めの攻撃を使っても死にはしないよね?
「受け取れ、私からの贈り物だっ!!」
ニルザが両手を突き出し、掌から「波動砲」を撃ち出した。
それは稲妻のごとく閃光を放ち、空から私目掛けて落ちてくる。
私はその「波動砲」目掛けて、「火炎息」を吐きかけた。
力を一点に集中させたことで炎は光線となり、「波動砲」の中心を撃ち抜く。
そしてそのまま貫き、「波動砲」霧散させた。
「なっ……!?
ぐっ!!」
ニルザは右腕に「火炎息」の直撃を受け──いや、身体を守る為に、あえて右腕を犠牲にした!?
「火炎息」が避けきれないと悟って、自ら右腕を叩きつけたんだ!
だけどその代償として、彼女の右腕は肘から先が完全に消滅した。
「この……まだだっ!!」
しかしそれでも、ニルザは闘志を失わない。
彼女の右足に、闘気が集中していく。
そこに彼女の残る力を全部込めているのか、先程の「波動砲」に匹敵──いや、それ以上の力を感じる。
おそらく「波動砲」があっさりと破られたのを見て、力の出し惜しみをしていては勝てないと悟ったんだろうね。
「いくぞ、マルルっ!!」
ニルザが私目掛けて急降下してくる。
「流星脚」──それが彼女の全てを懸けた、最後の攻撃だ。
それならば私も、正々堂々と真正面から受け止めよう。
「万能障壁」──!!
「くあぁぁぁーっ!!」
私が展開した「万能障壁」に、ニルザの「流星脚」が激突する。
その衝撃は障壁を激しく揺さぶるほどだったが、私の障壁を突破するほどではなかった。
むしろ──、
「くっ……これでも駄目か……!」
障壁に叩きつけたニルザの足が折れ曲がり、骨が皮膚を突き破ってすらいる。
自分自身ですら耐えきれないような、激しい攻撃──それほどまでに全力を出し切っても、私には通用しなかった。
その事実にニルザは精根尽き果てたのか、地面に倒れ伏す。
よし、これで勝負は決まっただろう。
それじゃあ、ニルザの怪我を治してあげるか。
私の治癒魔法で、彼女の失った右腕も、折れた右足も元に戻っていく。
「私を癒やす余裕まであるとは……
私の完敗です……マルルお姉様……」
そう言い残し、ニルザは気を失った。
うん?
今、私のことを「お姉様」って呼んだ?
あっ、従属度が100%になってるわ。
魔族って、強い者に従うという価値観なのかなぁ……。
でも、ほぼ300歳も年下相手に、お姉様っていうのはどうなんだ……。
ともかくこれで──、
『勝者は、なんと人間の娘、マルルだーっ!!
カプリファスの伴侶も、彼女で決定だーっ!!』
ニルザとの決闘は終わった。
でも、まだ誰かと結婚するつもりとか無いです。
いつも応援ありがとうございます。執筆へのモチベーションが上がりますよ。




