7 晩餐会と闘技場
魔王エルザの孫娘・ニルザから、カプリちゃんを賭けて決闘を申し込まれたけれど、準備があるということで決闘は後日に持ち越され、その夜は晩餐会が行われた。
なお、ニルザは勿論、彼女の両親も出席していない。
どうやらエルザの息子夫婦は既に故人らしく、彼らが健在ならば既に魔王は代替わりしていたらしい。
まあ、ニルザもまだ魔王になるのは時期尚早な感じだし、だから魔王候補が乱立している状態なのかな?
どこも王位の継承問題は、面倒臭いねぇ……。
それはともかく、晩餐会で出された料理についてだが……、
「う~ん、やっぱりティティの作ったディナーの方が、美味しいでーす」
「カプリちゃん、そういうことは言わないの」
カプリちゃんがあんまりな感想を漏らしたので、私は窘める。
そうは言いつつも、人間界の料理の方が美味しいとは、私も思ったが。
ここに来る途中に見た農地を見る限り、食糧不足ということは無さそうだから、魔族はあまり味にはこだわらないのかな?
「済まないねぇ、魔界は近年まで戦乱の時代が続いて食べるのにも困っていたから、食べられればそれでいいという文化が根付いてしまったのさ。
これでもマシになった方なんだけどねぇ……」
と、エルザは言った。
う~ん、人間界でもそういう時代はあったと思うけれど、なんだかんだで王侯貴族は贅沢をしていたのだろうから、食文化が途切れなかったのかな?
一方の魔界は、エルザが統治するまでは国という形も無かったようで、当然貴族階級も無く、魔界全体が貧しかったらしい。
だから手の込んだ料理を作る余裕なんて、まったく無かったそうだ。
それが現在でも改善されていないのは、魔族は多種多様な種族の総称であり、各種族によって好みが違う為、万人受けするレシピを確立させることが難しかったというのもあるみたい。
「そういうことなら、人間界の加工食品を試してみますか?」
私は空間収納から、キラービーの蜂蜜やそれを使った菓子類を取り出した。
「ほう……これは」
エルザは特に警戒することもなく、蜂蜜を口にした。
さすがに魔王なら、「毒無効」などの状態異常耐性系のスキルは持っているよね。
暗殺を警戒して、毒味役が必要無いってのはいいことだ。
昔の王侯貴族は、毒味が終わるまで待つ必要があった為、温かい料理は食べられなかったなんてこともあったと言うし。
勿論、温め直すことも可能ではあったのだろうけれど、それだと料理によっては味が落ちるからなぁ……。
ともかく私が提供した食品は、エルザの口にはあったようだ。
人型をしている魔族なら、人間とはそんなに味覚が違わないのかもしれない。
それならば、これを両国の未来に繋げよう。
「今後はこれらの品を中心に、交易などもできれば……と思うのですが、いかがでしょうか?
必要な量を、カプリちゃんに運ばせますので」
「ふむ……そういうことなら、前向きに考えようじゃないか。
そちらは何か欲しいものはあるのかい?」
と、エルザは話に乗ってきた。
「魔界にどのようなものがあるのか、まだ把握していないのでなんとも言えませんね」
「それならこういうのはどうだい?」
そんな感じで、晩餐会は商談の場へと変わった。
今後のキャロル商会では、珍しい商品を取り扱うことができそうだね。
そして翌日──。
私達は魔王城から出て、闘技場へと案内された。
屋根の無い円形の建物で、ローマのコロッセオを思い出す造りだ。
ここで、エルザの孫ニルザと決闘することになる……のだが……。
「なんで観客がいるんですか!?」
闘技場の観客席には、数千人の魔族が集まっていた。
決闘を見世物にするなんて、聞いてないんですけど!?
「みんな娯楽に飢えているんだ。
ちょっとくらいは、いいだろう?」
と、エルザは悪びれも無く言う。
「それに人間にも強い者がいるということが分かれば、人間界への手出しを思いとどまる者もおるだろう?」
むぅ……それはその通りだが……。
私自身が目立つと、厄介ごとに巻き込まれる可能性が高まるんですけどねぇ……。
「分かりましたよ。
……で、いくら入場料を取ったんですか?」
私が指摘すると、エルザはわざとらしく視線を逸らした。
私と孫の決闘を、金儲けの道具にしてるじゃないよ……。
利用できる物は利用するというのは、私も同じスタンスだから理解できるけれど、油断ならないなぁ、このお婆ちゃん……。
「もしかして賭けとかもしています?」
「お前さんに賭けておくから、儲けさせてもらうよ」
ああ、やっぱり……。
そして当たり前のように、孫には賭けないんだ……。
ニルザの実力は、やはり大したことはないのかな?
それならばニルザを私の眷属にして、スキルなどを「下賜」して強化した上で、魔王に即位させるというのも手だなぁ。
それならば魔界でも、私は自由に行動できるようになる。
まあその為には、まずニルザに勝利して、どちらが上なのかハッキリとさせる必要があるけれど。
「……ファイトマネーは、出してもらいますよ」
「まあ、今後の取り引きには色を付けさせてもらうよ」
結局、悪い話ではないんだけど、なんだかエルザの掌の上で踊らされているような気がするなぁ。
「それじゃあ、行ってきます。
お願いね、クルル」
と、私はクルルに乗る。
折角だから、入場行進の演出として使おうか。
熊に乗って現れたら、驚いてくれる人もいるよね?
「マルル、頑張って」
「ご主人、ファイトですよー!」
私はみんなの声援を受けて、闘技場の舞台へと向かった。
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