6 魔界の王女
会議室へいきなり闖入してきたのは、女の子だった。
年齢はお姉ちゃんと同じ15~16歳くらいに見えるけど、魔族だから実際の年齢は分からない。
何処となく子供っぽい雰囲気はあるけれど、それでも数百年は生きている可能性だってある。
そんな彼女の特徴と言えば、青い髪と赤い瞳という、人間には殆ど見られないカラーリングもそうだが、やはり目立つのは角だ。
左右の側頭部から額を覆うように伸びて、眉間の手前で正面に軽く突き出たそれは、冠のようにも見える。
角の所為で、洗髪や散髪がやりにくそう……。
それとスカートの裾から飛び出た、黒く細い尻尾も確認できた。
もしかしたら、今は背中に収納されているのかもしれないけれど、翼もあるのかな?
だとすれば、悪魔っぽい特徴を彼女は持っていると言えるね。
で、その娘はというと──、
「カプリお姉様~!」
部屋に入ってくるなり真っ直ぐに、カプリちゃんへ突進して抱きついた。
彼女のそれなりに大きな胸と、カプリちゃんの特大の胸が重なることで潰れて、大変なことになっている。
そこに挟まってもいいですか?
「カプリお姉様~、早く私と結婚して、一緒に魔界を治めましょ~!」
結婚!? 魔界では女性同士の結婚も認められているの!?
……というか、魔界を治める……って。
私が魔王エルザの方を見ると、
「あたしの孫娘のニルザさね。
あれでも一応魔王候補……ってことになるね」
エルザの孫で魔王候補!?
それじゃあ彼女に魔王を継がせれば、魔王候補による問題はある程度解決するんじゃないかな?
でも現時点でそうなっていないということは、ニルザに問題があるってことなのだろうか?
まあ確かに、ニルザはあまり強そうに見えないし、どちらかというとカプリちゃんの威光頼みというところがありそうではあるが……。
それにカプリちゃんにデレデレになっている姿には、魔王候補としての威厳の欠片も無いし。
「彼女はカプリちゃんの力を借りて、魔界を統治しようと……?」
「単純に憧れているだけ……というのもあるがね。
昔のカプリには、喧嘩を売ってきた破落戸どもを、山ごと吹き飛ばしてしまったとかいう、そんな武勇伝には事欠かないからねぇ……」
なにやってるのさ、カプリちゃん……。
そしてそういう無茶には、憧れちゃいけないと思うよ、ニルザちゃん。
で、そのニルザは、未だにカプリちゃんに抱きついているけど、カプリちゃんはちょっと迷惑そうだ。
「ねえ、カプリお姉様~。
私と結婚しましょ~!」
「ノー!
我のワイフになる人は、マルルだけでーす!」
あれっ、私と結婚するつもりだっの!?
今まで私の身体を求めてきたことは無かったから、てっきりクルルやキララみたいに人間を対象とした恋愛感情はもっていないものだと……。
そんなカプリちゃんの言葉に、ニルザは怪訝な表情を浮かべる。
「……マルル?
……誰」
ちょっ、私を指ささないでよ、カプリちゃん!
「え……?」
今までカプリちゃんしか目に入っていなかったニルザは、私の顔を見て一瞬茫然とした顔になった。
そして──、
「はうぅっ!!」
唐突に膝からくずおれたーっ!?
「ば……馬鹿な……!
なに、あの可愛らしさは……!?
こんなの勝ち目が……。
わ、私が負ける……!?
人間ごときに……!?」
うわ、蹲りながら身体を震わせて、何か言ってるよ……。
あと、尻尾が悔しそうに、地面をピシピシと叩いている。
でも、いきなり敗北感に打ちのめされるほど私が魅力的に見えるとは、かなり『百合』が効いてるなぁ……。
「だ、だけど、私は負ける訳にはいかない!」
おっ、立ち上がった。
精神力で『百合』に抵抗している?
「ま、マルルとやらよ!!
カプリお姉様を賭けて、勝負よ!!」
えー……?
それ私に何かメリットがあるんですかぁ?
というか、カプリちゃんのことは、本人の好きなようにやらせたいと思っているので、私だけの物にしたいとかいう気持ちは無いのだけど……。
いやね、ティティとかを寄越せと言われたら、絶対にノーなんだけど、カプリちゃんは私に制御は……できなくもないけど、私1人の手の内に収まるような小さい存在じゃないからね……。
私は困って、魔王エルザの方に救いを求めるような視線を送るけれど──、
「馬鹿な子だけど、ちょっと痛い目を見たら納得すると思うから、良かったら相手をしてやってくれよ」
と、頼まれた。
私の実力は見抜いているようだ。
う~ん、これからエルザには、人間界と魔界の関係で、色々と配慮してもらう予定だから、恩は売っておきたいが……。
というか、祖母から「馬鹿な子」扱いされているけど、いいのかニルザ?
まあ、これまでの言動を見た感じ、魔王候補としてはちょっと足りないのは理解できたが……。
あ~、そんなニルザに、現実を見せて欲しいというのもあるのかな?
「分かりました。
やってみます」
そんな訳で、魔王の孫娘と決闘することになった。
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