4 魔界都市
それは新宿……。
カプリちゃんの「転移」でも、魔界があるという大陸までは、一瞬でという訳にはいかなかった。
あまりにも遠いので、数回に分けて「転移」を繰り返し、ようやく到着する。
「着いたの……?」
「意外と普通……」
私とお姉ちゃんは、そんな感想を漏らした。
魔界と言えば、空が暗くて荒れ地が広がっているというイメージだったけれど、空は青いし自然は豊かだ。
まあ、私達が暮らしていた大陸よりは気温が高く、植物も熱帯の物だという差はあるけれど、魔界らしさという物は皆無だと言ってもいい。
なお、周囲には人っ子1人いないどころか、建築物すら無かった。
「ねえ、カプリちゃん。
魔王は何処にいるの?」
「ここからもっと奥の方でーす。
特殊な結界があるので、直接『転移』では行けないのですよー」
なるほど、そういうことか……。
そんな訳で、そこからは竜の姿に戻ったカプリちゃんの背中に乗って、空を飛んでいくことになる。
それを初めて経験するリーリエは酷く怯えて、私にしがみついていた。
背中に感じる、柔らかな胸の感触が心地良い。
で、暫く飛んでいると、眼下に広がっていた樹海が途切れ、草原が見えてきた。
更に進むと、広大な農地も見える。
う~ん……魔族って、結構豊かな生活をしているんじゃないかな?
少なくとも、農地の規模を見ると、食料に困っているようには見えない。
というか、魔族も野菜や穀物を食べるのか……。
しかもかなりの需要があるようだ。
この光景を見ると、わざわざ遠い大陸まで行って、人間の国にちょっかいを出している魔王候補は、余っ程特殊な個体なのではないかという気がしてきた。
まあ実際のところ、本当に有力な候補ならば、この魔界で何かしらの重要な役職に従事していそうだもんね。
そういうのが無いあぶれた者が、一発逆転を懸けて人間の世界を襲うのかもしれない。
この推測が正しいのならば、魔王との会談もそう悪い結果にはならないんじゃないかなぁ……。
やがて都市らしきものが見えてきた。
ただ、ちょっと人間のそれとは違う。
見たところ都市を囲む壁は無く、平屋建ての低い建物が整然と並んでいて、なんとなく平安京を思い出す。
中心にある魔王城と思われる建物も、敷地面積は広いけれど、塔などの高層建築はまったくない。
全然魔王城っぽくないな、これ……。
「高い建物ってないんだね……」
私の言葉にカプリちゃんは、
『魔族は光を嫌う種族も多いので、地下にハウスを広げていまーす』
ああ、なるほど。
じゃあ魔王城の下には、地下迷宮とかあるのかな?
それなら魔王城っぽいかもしれない。
「これは興味深いですね……。
この建築様式は、あの遺跡に似ているような気がします」
カトラさんがそんな見解を述べた。
それって、あの魔王候補の吸血鬼が潜伏していた遺跡のことかな?
確かに地下に迷宮があって、魔族の生活様式に合わせた造りだったかもしれない。
ということは、かつてあそこは魔族にとっての重要な施設だった可能性もあるのだろうか。
人間の国を侵略する為の、前線基地とか?
実際にそのような使われ方を、されていたし。
そんなことを推測させる魔族の都市の在り方に、カトラさんは大興奮だ。
「凄いです、古代文明の解明に繋がるかもしれませんよ、これ!」
「カトラ、危ないから、あまり身を乗り出さないでよ!」
身を乗り出して下を見ているカトラさんを、エルシィさんが必死に押さえ付けている。
まあ、落ちてもカトラさんなら、浮遊する術くらいは身につけているので問題無いけれどね。
むしろエルシィさんが危ないな。
浮遊系のスキルを、「下賜」しておこう。
それからカプリちゃんは、魔王城にある広場へと降り立った。
そこには十数人の衛兵が整列しており、我々──というか、カプリちゃんを出迎えてくれたらしい。
「ようこそ、竜王カプリファス様!」
え、「竜王」なんて呼ばれているの、カプリちゃん!?
やっぱり実質的に、魔王と同列じゃん……。
「魔王陛下に話があって来たでーす。
勝手にあがらせてもらうですよ」
と、自由気ままに、魔王城の入り口へと向かって行く。
私達はそんな彼女達の後に続いた。
「あ、あの、その人間達は?」
衛兵がカプリちゃんに問うが、彼女は軽い調子で、
「私と魔王陛下のゲストでーす。
無礼を働いたら、ぶち殺すですよ?」
と、言い放った。
そう言われると、衛兵も何も言えないようで、ビシッと敬礼をして私達を見送る。
衛兵は大きな角が生えた屈強の魔族の男だったけれど、それでもやっぱりカプリちゃんは怖いのか……。
それから魔王城の入り口をくぐると、中から人間で言えば70歳以上はあろうかという、小柄な老婆が姿を現した。
髪は完全に白髪で、額には2本の角が生えている……けど、短いのでそんなに威圧感は無い。
ただ、垂れ下がりつつある瞼の奥に見える金色の瞳は、力強さを感じさせた。
「来たかい、カプリファス」
「来たでーす」
「じゃあ部屋に案内するから、ついておいで」
老婆はカプリちゃんと短く言葉を交わすと、背中を見せて廊下の奥へと進み始めた。
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