25 長耳フェチ
「ふへっ!?
オラの耳をだか!?」
チエリーさんが父親のことでお礼をしたいというので、私は彼女の耳を触りたい──と、要求してみた。
「前々から、その長い耳を触ってみたいと思っていたんだ」
「そ……それくらいなら、いいだべよ……?」
と、言いつつも、チエリーさんは少し恥ずかしそうだ。
やっぱり自分の身体を他人に触らせるということは、医療行為とかの必要な事情でもなければ抵抗感があるよね。
それにどうしても、性的な物を想起してしまいがちだ。
まあチエリーさんの場合、半世紀近く森の中で、母親と2人きりで生活していたのだから、あまりそういう知識は無いのかもしれないけれど。
「それじゃあ、触るね……」
「ふにゅっ……!?」
私はチエリーさんの両耳の先端を、指でつまんだ。
その瞬間、彼女の全身がビクンとなる。
くすぐったい……のかな?
で、その耳の感触だけど、普通の人間の耳たぶと同じような柔らかさだ。
ただ、フニフニと揉みほぐしていると、ピクンピクンと動くのが新感覚ではある。
人間の耳って、普通は動かないからなぁ。
「んっ……んんっ……」
チエリーさんは、吐息のような声を漏らして、何かを我慢しているようだった。
顔も上気していて色っぽい。
これは……気持ちいいけど、それを私に悟られまいとして我慢している……?
う~ん……チエリーさんも昂ぶっている様子だから、キスを狙ってもいけそうかな……?
でも、初志貫徹!
「ねえ……耳を噛んでもいい?
いいよね?」
「ふえっ!?
ふきゅん……っ!!」
私はチエリーさんの返事を待たずに、強引に耳を甘噛みする。
う~ん、コリコリとした歯触りと、可愛らしい悲鳴が心地良い。
その時──、
「な、何をしているのです!?」
リーリエが部屋に踏み込んできた。
おっと、自宅では眷属に声を聞かれることも珍しくないから、油断していた。
そういえばここ、他人の家だったっけ……。
そもそも屋内だと、隣の部屋に人がいるなんてことは珍しくないから、いちいち感知スキルは働かせていないしねぇ……。
トイレとかで移動しているのを常に警戒していたら、疲れてしまうからね。
だからリーリエの接近も、あまり気にしていなかったよ。
「えっと……耳を触らせてもらっていただけなんだけど……」
「エルフにとって、耳に触るのは求愛の行為です!」
そうなんだ。
まあ、いかにも敏感そうな場所だから、そこに触れることができるのは余っ程親しい人だけだろうし、なんとなくそんな気はしていたよ。
しかし──、
「ほわっ!?」
リーリエの言葉に、チエリーさんは動揺した。
あ……これは知らなかったな?
だけど耳を触らせることの意味を意識してしまった彼女は、今までよりも顔が赤くなっていく。
「それは知りませんでした……。
人間と違う耳の形に、興味があったもので……」
「そ、そういうことなら、私のを触ってもいいのよ?」
「え、いいの?」
「あなたは恩人だから、特別よ!」
リーリエは口調こそぶっきらぼうだけど、顔は赤く染まり、何処となく期待感が滲み出ている。
もしかして妹だけではなく、自分の耳も触って欲しいと思い、出てきたのだろうか?
「それならありがたく……」
私はリーリエの長い──20cmはある耳の先端をつまむ。
「んっ!」
おお……これは……!
チエリーさんのよりも肉厚な感触。
これが本家エルフの耳か!
私が夢中でリーリエの耳を触っていると──、
「お、オラも!」
「わ!?」
疎外感を受けたのか、チエリーさんが私の耳を触りだす。
おお……求愛の行為だと知ってなお、耳に触ってくるんだ……!
さすがは親密度が100%だよ!
そんなチエリーさんの行為に、私よりもリーリエの方が慌てた。
「なっ、何をしているのよ!?」
「オラはマルルさんにしてもらったことを、お返ししているだけだべ。
お姉もしたければ、やればいいべよ」
と、チエリーさんは、私の耳を甘噛みした。
んっ、耳は敏感なところなのの、そこを攻められると一気に守勢にまわってしまうんですけど……!
しかも──、
「くっ……!」
今度はリーリエも妹へ対抗意識を燃やしたのか、私の耳を弄び始めた。
エルフとハーフエルフの姉妹に挟まれて、両耳を──なんという至福……。
しかしふと気がつくと、ドアの隙間からアイーシャさんがこちらを覗き込み、ハアハアと息を荒らげていた。
さすがに室内へ乱入してくることはなかったけど、このままではその興奮を発散することはできないだろう。
……これは領都に帰ったら、彼女の相手をしてあげなきゃいけないだろうなぁ。
その時はまた、徹夜かぁ……。
そんな風に更けつつあるエルフの里での夜だけど、実は大変なことが起こりつつあることを、私達はまだ気付いていなかった。
おかしい……。話が進むはずだったのに……。




