23 エルフの里で
私達はリーリエによって、エルフの里へと案内された。
エルフの住居って、ツリーハウスのイメージだったけど、さすがに地面の上に木造建築というのが主流のようだ。
思えばリーリエも、木の上から飛び降りた際に着地をミスっていたので、高所はそんなに得意ではないようだった。
そんな彼女がツリーハウスでは、命に関わるか……。
里の規模は大きな村程度で、人口は千人もいない感じだね。
木漏れ日が丁度いい具合に降り注ぎ、綺麗でのどかな場所だという印象だ。
「それではオラは、おっとうのところへ行ってくるべ」
チエリーさんは、まだ眠っている父親の様子を見る為に、別行動を取ることになった。
「キララ、一緒に行ってあげて」
『ん』
念の為、キララを護衛に付ける。
そしてチエリーさんとキララを見送った私達は、里の集会所のような建物へと案内される。
そこで私は、歓迎を受けた。
ただし、女性からだけ。
男性は世界樹の復活に手を貸した私に対して、好意的に考えている者もいるようだ。
けれどそれ以上に、何故女性陣がこれほど私に対して好意的なのか──それが不可解でならないという、そんな視線を向けてくる者が多い。
あと、一部の男性を「女体化」させたから、その所為で怖がられているような気もする。
でも、殺す気で攻撃してきた者達への処遇としては温すぎるくらいなので、私は悪くないと思うのですけど?
というか、その襲撃を指示したであろう長老にも報復したいところだけれど、やっぱり里のトップである長老はまずいだろうか……?
これ以上刺激しても、ややこしいことになりそうだし……。
ともかく、男女で反応が真っ二つに分かれているので、これが後々火種にならないか、ちょっと心配。
もう『百合』の影響で女性陣は私を優先しがちだから、男性陣から嫉妬されるのは不可避だろうね……。
まあ、今は綺麗なエルフのお姉さん(年齢不詳)との、触れ合いを楽しもう。
それにエルフの文化や料理は初めて見るものばかりで、なんだか外国にきたような気分になる。
ここ、観光地としても、結構優秀なんじゃないかな……。
エルフ達が観光客を受け入れてくれるとは、現時点では思えないけれど……。
なお、私の次に人気なのは、小さくなったクルルだ。
小熊みたいで可愛いもんね。
一方お姉ちゃんは、人見知りをしているのか、じっとしている。
うん、初対面の人間に対しては、結構そういうところがあるね、お姉ちゃんは……。
それとアイーシャさんは……私が「大人しくしているように」と厳命してある。
彼女が奇行に走ると、エルフとの間に亀裂が入りかねないし……。
そのおかげで、
「人間って怖いと思っていたけど、そうでもないのね」
エルフの1人が、そんなことを言った。
一応『百合』の影響で好感度は高くなるけれど、それでも相手を不快にさせるような言動を取れば、親密度などは上がりにくくなる。
今のところ彼女達とのコミュニケーションは、上手くいっているということだろう。
実際に会って話し合ってみないと、分からないことってあるよね。
でも、それで全部を知ったと思うのは大きな間違いだ。
「人間にも怖いのはいますよ。
エルフにだって嫌な奴はいるでしょ?」
「それは……」
「そうかもね……」
結局は人の善し悪しは、個人の資質で決まる所が大きいってことだ。
まあ、種族独自の性質や文化もあるので、それをよく理解しないで付き合うと、思わぬ軋轢が生まれる場合があるというのも、厳然とした事実ではあるけれど……。
それを知る為に、交流が必要だということなのかもしれない。
まあ、知った上で、付き合いを考えるという選択肢も、有り得るのだけどね。
エルフと人間がどうなるのかは、現状では分からない。
「でも、外に怖い人間もいるのなら、やっぱり不安だわ……。
もう結界は、無くなってしまったのでしょ?」
「ああ……」
う~ん……。
結界に守られていた温室育ちのエルフでは、ちょっと強めの魔物などに襲われたら、大きな被害を出してしまうだろう。
だから今後の自衛策を、考える必要はあるね。
ただ、その自衛策が、他種族にとって害になるようではいけない。
となると──。
「あ……!」
そうか、エルフ達にギフトを授ければいいのか。
まあ、ギフトの効果ってレベルを上げないとハッキリ分からないところもあるので、すぐにはその恩恵を感じることはできないのだろうけれど、取りあえず何人かに試してもらおうか。
その後、ギフトが有用だと分かったら、希望者には領都まで来てもらい、教団で授けてもらう……ということにすれば、人間とエルフの交流が増えるんじゃないかな?
そうなればエルフも、ギフトを手に入れる為には人間に頼らなければならないのだから、人間に対してそんなに敵対的な行動を取らなくなるのではないだろうか。
勿論、人間の方でも、エルフに対して悪さをしないように、法整備とかをする必要はあるのだろうけれど、それはランガスタ伯爵やクリーセェ様に私が働きかけてみよう。
「あの……ギフトってのがあるんだけど、それはどうかな?
才能を授かるというものなんだけど……」
私はエルフ達へギフトについて説明した。
ここは例を出した方が分かりやすい……ということで、チエリーさんの「緑の守護者」について話す。
これは実際に世界樹の復活を目撃しているエルフ達もいるので、納得できるものだったようだ。
「あ、でもギフトは女神様から授かるものなんですけど、エルフの宗教観的にはどうなんでしょう?」
「私達に信仰している神様はいないから、問題無いわよ。
強いて言えば、世界樹が神様ね」
やっぱりそうか……。
世界樹を燃やしちゃった私は、復活させてなかったら立場が悪くなっていたのだろうな……。
「じゃあ、ギフトを授かる儀式を受けてみたいという、希望者はいますか?」
しかしこれには、すぐに手を挙げる者はいなかった。
やはり未知の事柄については、不安が先立つのだろう。
これは最悪の場合、眷属化したエルフ達に立候補させようかな……。
そう考えていたその時──、
「私が受けてみるわ」
リーリエが手を挙げた。
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