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15 旅立ち

 今回で第1章完。

 背後からオークが迫ってくる。

 でも、私にはもう、逃げる余裕が無い。

 身体的な余裕はともかく、精神的な余裕が無いのだ。


 最愛のお姉ちゃんを失った今の私には、もう生きるのも死ぬのもどうでも良くなっていた。

 ……でも、オークに陵辱されるのは嫌だから、自ら命を絶とうかな……?

 

 そういえば、拾った剣もまだ持っていたっけ……。

 うわ……改めて見ると、刃がオークの血と(あぶら)で汚れている……。 

 これを自分の身体(からだ)に入れるのは、なんか嫌だな……。

 血が汚れるようで……。

 

 ……これから死のうと言うのに、そんなことを気にするなんて、変な話だね……。


 そんなことを考えていた所為で、私は追いついてきたオークに囲まれてしまった。

 その数3体か……。

 今更戦っても勝てないし、勿論逃げることもできない。

 やっぱり自分で死──、


 ドッドッドッドッドッドッドッド──


 ん? なにこの音?

 馬とか重い動物が地面を蹴るような……。

 何か近づいてくる?

 そう思った瞬間、大きくて黒い物体がオークの1体に突っ込んだ。


「ギャアッ!!」


「!?」


 オークが短い悲鳴を上げて吹き飛ぶ。

 そして倒れたそのオークに黒い物体は覆い被さり、そしてすぐにオークは動かなくなった。

 ……トドメを刺した?


 残った2体のオークはその黒い物体を敵だと認識したようで、襲いかかっていった。

 が、すぐに(はじ)き返される。

 強い、強いよ、黒い物体!

 ……というか、熊じゃん!?


 え……もしかして、あの山で出会った熊?

 まさか私が美味しそうだと思って、追いかけてきた訳じゃないよね……?

 いや、その可能性が高いのか?


 今、熊とオークが獲物()を奪い合っている!?

 こんな嫌な「私の為に争わないで」は初めてだ……。

 勝った方が、私の敵になるんだからね……。


 しかし私は、その戦いを呆然と眺めていた。

 あまりの予想外の事態に、頭が停止してしまっていたのだ。

 そして「もしかして逃げるチャンスなのでは?」と、気付いた時には既に、オークは熊によって倒されていた。


「あ……!」

 

 熊が近寄ってくる。

 でも、私は動けなかった。

 どう考えても、もう逃げられるタイミングではないし、戦っても勝てない。


 こんなことなら、もっと早く自害しておけば良かった。

 熊は獲物を生かしたまま、内臓から食べていくという。

 そんな苦しい死に方は嫌だよ……!


 だけどもう、熊の鼻息が顔に当たるところまで接近されている。

 こうなるともう、自害も難しい。


 そして熊は、大きな口を開けて──、


「ひゃっ!?」


 熊は私の顔を舐めた。

 え、味見? 味見なの!?


 ところが熊は、それからも私の顔を舐め続ける。

 ちょっ、結構痛い!

 あと、凄く(けもの)臭い!!


 それでもこれ、私を食べようとしている感じではないような……。

 どちらかというと、犬とかが飼い主の顔を舐める仕草に似ている気がする。

 ……もしかしてこの熊、私に(なつ)いているの?


 でも、なんで……?

 いや、もしかして──、


「もしかしてお前、雌なの……?」


『グオッ』


 熊は「そうだ」と言わんばかりに吠えた。

 え、『百合』って、動物にも効果があるの!?

 だとしても、効果が出るの早くない!?

 私とお姉ちゃんが親密になるのだって、そこそこ時間がかかったよ!?


 だけどステータスを確認して見ると……、

 

───────────────

  親密度 熊 83%

  

 ・熊 2歳 雌 LV・12

 ・職業 狩人

 

 ・生命力 361/368

 ・魔 力 38/46

 

 ・ 力  201

 ・耐 久 229

 ・知 力 18

 ・体 力 346

 ・速 度 151

 ・器 用 14

 ・ 運  51


 ・ギフト ──

 ・スキル

      食いつき

      ひっかき

      追  跡

      臭覚強化

      気配隠蔽

      再生力弱

      毒 無 効

      暗  視

───────────────


 うわっ!?

 ほとんどの数値が、お姉ちゃんよりも上じゃん!?

 たぶんオークを倒してレベルアップしている所為もあるのだろうけれど、それでも凄すぎる……。

 

 おそらくスキルや装備の差で、総合的にはお姉ちゃんの方が上になるのだろうけれど、お姉ちゃんが戦いたがらなかったのも分かるわ……。

 恐るべし、野生動物。


 というか、なんで親密度がもう83%!?

 ……知力が凄く低いから、ダイレクトに『百合』が効いちゃうのかなぁ……?

 動物だと人間関係とかを深く考える必要が無いし、単純だから好意を持ったら好きという気持ちがどんどん大きくなってしまうのかもしれない。


 ともかくこの子がいれば、オークからは逃げ切れるだろう。


「あ……あり……」


 私は熊にお礼を言おうとしたけど、それは涙声になって上手く言えなかった。

 命が助かって安心した所為か、涙が次から次へと(こぼ)れてくる。

 そんな私に寄り添うように、熊は地面へと伏せる。


 私は熊へと抱きついて泣いた。


「うう……お姉ちゃん……」


 体中の水分が無くなるかと思えるほど、涙は溢れ続けた。




 気がつくと私は、揺られていた。


「あれ……?」


 熊の背中に乗せられて、何処かへ運ばれている途中のようだ。

 私、いつの間にか泣きつかれて、眠っていたんだ……。


 しかし熊に密着していると、ノミやダニが私にも付きそうだけど、もうそういうことはもうどうでも良くなってきたな……。

 オークに乱暴されて殺されそうになったことと比べれば、些細なことだ。


 そして熊は街道を進んでいるらしく、どうやら私のしたいことをなんとなく分かってくれているらしい。

 お姉ちゃんとはそこまで以心伝心はできなかったけど、動物は喋ることができない分、心が通じやすいのだろうか?


 いずれにしても、これならば安全に隣村へと辿り着くことができそうだ。

 ただしその後にどうやって生きていくのか……とか、問題は山積みなんだよね……。

 そのことは今考えても、また死にたくなるだけだからやめておこうか……。


 お姉ちゃんは私に「生き延びろ」と言った。

 ならば折角拾った命は、大切にしないとね……。


 あ、そうだ。


「助けてくれて、ありがとうね」


「グウ」


 私は熊にお礼を言った。

 これからはこの子が、私のパートナーってことになるのかな?

 でも隣村って、熊を飼っても怒られないのだろうか……?


 そうだ、名前を付けてあげようか。

 一応女の子だから、女の子っぽい方がいいよね……。

 さて……どんなのがいいかな……?


 そんなことを考えながら、私は熊の背で揺られ続けた。

 この街道の先に、どんな未来が待ち構えているのか──それは分からなかったけど、今は希望があると信じるしかないよね……。

 次回は幕間のエピソードです。

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