22 蘇る世界樹
「この御方達がいない時に今回の事態が起こっていたら、我が里は壊滅していたのかもしれないのですよ!
それを未然に防いでくれた方々を非難するなんて、なんという恩知らずな……!!」
リーリエが、私達の擁護をしてくれた。
チエリーさんの姉だけあって、やっぱり根はいい人だ。
まあ、父親を助けるのにも協力したし、それに恩を感じてもいるのだろう。
しかし一方の長老も、引き下がらない。
「リーリスの娘が何を言う!!
そもそも、リーリスがこのような事態を招いたのだろうが!!」
「そうだ!」
長老についてきた他のエルフ達も、同調する。
「それを言うのなら、あなた方が彼にだけ仕事を押しつけたのが原因ですし、そもそも論で言えば、エルフの祖先があの者達を閉じ込めなければ、世界樹が蝕まれることもなかったんですよ。
どうせ手軽な牢獄のつもりで、生きたまま放り込んでいたんでしょ?
死んでも閉じ込められ続けたのなら、そりゃ恨まれますよ」
「くっ、人間ごときが……!!」
長老が激高しかけるが──、
「あなた達のその、見下している相手になら、何をしてもいいという態度が許されるのなら、私もあなた達に対してそのように振る舞いますが?」
「ぐっ……」
私の言葉に、長老達は押し黙る。
結局、力で勝てなければ、その価値観も引っ込めるしかないのだろう。
ここで態度を変えないのなら、それはむしろある種の信念として評価しよう。
ただし、もう救えないと、私は彼らを見限るが。
「それに世界樹は、まだ消えてはいませんよ」
「……なに?」
目の前では、未だに世界樹は燃え続けている。
しかしエルフ達の前に歩み出たアイーシャさんの手には、小さな枝が握られていた。
植物の中には本体から切り離された葉や枝だけでも、やがて根や芽を出して元の植物と同じ姿へ成長する品種は多く存在する。
世界樹も同じなのではないかと思い、アイーシャさんにお願いして、私が切り落とした枝を浄化してもらったのだ。
その枝を「自然支配」によってちょっとだけ成長促進させたら、予想通り根が出てきた。
これならば世界樹を、復活させることができるだろう。
まあ……ガジュマルのような根が太るタイプの植物は、種から育てないと根が太らないと言うし、完全に以前と同じ物になるのかは分からないけれどね。
それでもエルフ達にとっての世界樹は、信仰対象に近い物であるらしいので、それが存在し続けることには意味がある。
『チエリーさん、お願い』
『分かったべ』
私は「念話」でチエリーさんに、指示を出す。
それに従って彼女は枝を受け取り、それを地面に植えた。
「蘇るべ、偉大なる大樹よ!」
チエリーさんはその枝に対して「自然支配」をかけ、成長を促進させる。
するとあっという間に、枝は5mほどの若木へと成長した。
「ああ……こんなに綺麗だったんだ」
それは一見して、神聖な空気を纏っていた。
葉が薄らと輝いてすら見える。
これはアイーシャさんによって浄化されたおかげ……ってだけではないよね?
さっきの枝の状態の時には、こうではなかったし。
……つまりこれが、本来の世界樹なのか。
瘴気に侵されていたあの世界樹は、大きいだけでこんなに美しいとは感じなかった。
まさに一目瞭然の差だ。
「おお……!!」
そんな世界樹の若木を見たエルフの中には、涙を流さんばかりに感激している者もいる。
やっぱりエルフにとっては、里を守る結界とか関係なく大切なものなんだね。
『マルルさん、こんなサイズで良かったべか?
もっと大きくすることも、できるべが……』
『いや、これで充分だと思うよ。
今後、この若木を生かすも殺すもエルフ次第だ』
これからこの美しさを保ったまま、元の巨大な世界樹に育てることができるかどうかは、それはエルフ達の努力次第だ。
長い時間がかかるだろうけれど、それはエルフの長寿に期待しよう。
そしてこの若木が、人間とハーフの力を借りて復活したという事実を、エルフ達には長く語り継いでほしいと思う。
これが結果的に人間とエルフの、融和の象徴になってくれればいいんだけどね……。
少なくとも世界樹を、以前のように他種族を拒絶する為の道具にはしてほしくはないな……。
「さあ、里へ行きましょう。
歓迎するわ」
「え、私達が行っても大丈夫なの?」
リーリエが私達を里へと誘ってくれた。
人間に対して敵愾心を持っている者もいるはずだから、騒動が起きる可能性もありそうだけど……。
「まあ、あの新しい世界樹を見たら、文句は言わないと思うわ。
復活させてくれて、ありがとう」
「それならいいけど……」
というか、お礼ならチエリーさんに直接言えば?
その辺はまだ照れがあるようだ。
あと、なんだか長老が面白くなさそうな顔をしているけど、まだ一波乱があるなんてことは、無いよね……?
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