17 世界樹の下で
「おっとう!」
チエリーさんは、世界樹の根に絡め取られている父親へと駆け寄った。
そんな父親の姿は、世界樹に長年囚われていた所為で、酷くやつれている。
その姿に、彼女は愕然としていた。
「なっ……なんでこんなことに……!?」
「それはな、世界樹によって我らの里を守る為には、代償が必要だからだ」
「長老……様?」
チエリーさんは、長老の方を振り返り、そして身を強ばらせた。
長老の顔は今までと変わらず、穏やかな笑みすら浮かんでいる。
それなのに、何故か冷たいものを感じたからだ。
ここに至ってチエリーさんは、ことの元凶がなんなのか、それを悟り始めたのかもしれない。
そして彼女の父が、母や自身を見捨てた訳ではなく、会いたくても会えない状態だったのだということも──。
「我らが先祖は里を守る為に、世界樹を中心に結界を構築した。
だが長い年月を経て、その結界にはほころびが生じ始めたのだ。
このままではいずれ結界は維持できなくなる。
だから世界樹と対話ができる者が世界樹と一体化し、ほころびた結界の術式を修正し続けなければならぬ。
そこのリーリスのようにな……」
「そんなことの為に、おっとうを……!?」
「そんなこと?
たった1人の犠牲で、大多数のエルフの安全が約束される……。
素晴らしいことではないか」
まあ、その考え方は否定しない。
少数と多数のどちらかしか助けられないという選択肢があった場合、多数を選択するのは、そんなに不思議な話ではないと思う。
どちらも助けるとか、そんな都合のいい選択肢を選んでも成功する確率は低く、下手をすれば両方を助けられないという結果にもなりかねない。
だから私だって、少数と多数のどちらを助けるかという選択肢を迫られたら、多数を選ぶだろう。
ただそれは、大小の数字だけしか見ていないという前提の話であって、そこにもっと別の情報が加われば、話は違ってくる。
たとえば、それが私と関係のある人間かどうか──そういう情報だ。
それを踏まえて判断する場合、チエリーさんとエルフ全体ならば、私はチエリーさんを選択するが?
見ず知らずのエルフを、私が助けなきゃならない義理なんて無いしね。
まあ、私の眷属になった者は別だし、エルフ達と縁が生まれれば話は違ってくるけれど……。
ともかくエルフの長老が、エルフ全体の利益を考えてチエリーさん親子を犠牲にする選択をするという理屈は、共感こそできないが理解はできる。
けれど、私だって私達の利益を考えて、それとぶつかり合うのならば戦争も辞さない。
とりあえずチエリーさんは犠牲にしない──これは絶対だ。
「さあ、うぬも父の後を継いで、里の礎となるがよい!」
ん? 今、長老の目が光った?
洗脳系のスキルかな?
確かに里に敵意を持ったまま世界樹の一部になったら、どんな悪影響があったか分かったものじゃないしね。
しかしチエリーさんの身体は一瞬硬直したけど、抵抗はできているようだ。
……私の『百合』で、既に魅了されているようなものだしねぇ……。
とはいえ、長時間長老の術を受けていたらどうなるのかは分からない。
よし、いまこそ出番だよ!
「ぬっ、キラービー……の女王!?」
チエリーさんの前に、キララが飛び出した。
長老達は、彼女に任せよう。
『チエリーさん、今の内にお父さんを……!!』
『は、はい!』
チエリーさんは「自然支配」を使って、父親を取り込んでいた世界樹の根を解きほぐしていく。
「ぬう……!?
やめよ、結界が崩壊するっ!!」
長老が止めようとするけれど、キララがその行動を妨げる。
うん、長老がその他のエルフと力を合わせても、キララには歯が立たないようだ。
これなら彼女に任せておいても大丈夫だけど……。
「……よし、そろそろ助けに行くか」
私達も、ここで見ているだけという訳にはいかない。
すると──、
「わ、私も連れて行って!」
リーリエが同行を申し出る。
彼女も妹のことはともかく、父親については助けたいという気持ちもあるのだろうね。
それとも、別の意図があるのかな?
「……私の邪魔しないって誓える?」
「父様の名に懸けて誓う!」
まあ、リーリエの従属度も70%を超えたから、もう大丈夫だろう。
それに親の名を出してなお裏切るようなら、私は彼女に心底失望するよ?
さすがにそういう馬鹿なことは、やらかさないと思いたい。
それに捕まえたエルフ達も、お姉ちゃんに「魅了」をかけてもらったし、問題無いかな?
「じゃあ、行こう!
お姉ちゃん達も、行くよ!」
「ああ、いつでもいいよ!」
「グゥー!」
私達は世界樹の──チエリーさんの所へ、「転移」することにした。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。




