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16 仕事の継承

(とう)様の引き受けた仕事は、父様に対しての罰よ……」


 リーリエの話によると、人間との間に子を作った父リーリスを、エルフの里の者達は許さなかった。

 エルフにとって人間は、寿命も短く魔力も弱い劣った種族であり、たとえるならば人間にとっての猿のようなもの──というのは言い過ぎなのかもしれないが、それくらい下に見ていた。


 そんな人間とエルフが結ばれること自体が、里にとっては恥ずべきことだという認識だったそうだ。

 (ゆえ)に人間が里で出産と子育てすることも、本来ならば許さないところだったが、リーリスには能力があり、それを活かすことで里に貢献することができた。

 だから里は、彼の働きと引き換えに母娘(おやこ)を一時的にせよ受け入れたのである。


 ただ、その代償は小さくはなく、リーリスは自由を失い、結果としてチエリーさんの母との再会は叶わなかった。

 しかも彼への罰は、今娘のチエリーさんにも引き継がれようとしている。


「……元々あの仕事は、里を守る為の名誉あるものだったのよ……。

 しかし危険もあったから、本来は数年ごとに交替する必要があって……。

 内心ではその仕事をすることを、嫌だと思っていた人もいたはずだわ。

 結果、父様1人だけにその役割を押しつけることができるようになった今、いつしかその役割の意味合いが『名誉』から『罰』へと変わっていったの……」


「だから今になって、限界を迎えようとしているお父さんの代わりを誰もやりたがらず、チエリーさんが必要になったんだね?

 エルフ達にとってあの人は、罰してもいい(・・・・・・)存在だったから……」


「自分達の責任を、里の外に押しつけるなんて、恥ずべき行為だわ……」


 ふむ……リーリエはドジっ()っぽいけれど、それでも誇り高きエルフって感じだな。

 チエリーさんに対して家族の愛情を持っているのかは分からないが、少なくとも他者に理不尽を押しつけることを良しとしない気高さがある。

 やっぱり嫌いじゃないわ、この人。


「それで……その仕事とは、具体的にどんな内容なの?」


「それは……詳しくは知らないけれど、里にとって良くない者を封じる助けをしている……とか」


 牢獄の看守みたいなものかな?

 ただ、誰でもできるようなものではないらしいので、魔術的な封印とかそんな感じなのだろう。


 う~ん、チエリーさんは大丈夫かな?


『チエリーさん、今どんな感じ?』


『あ、マルルさん、今おっとう()がいる場所へ向かっているべ。

 でも……なんだかおかしいんだべよ……。

 どんどん森の奥の方へ進んでいて……。

 しかも雰囲気が嫌な感じで……。

 こんな所に、里があるんだべか……?」


 確かに「視覚共有」でチエリーさんの周囲を確認して見ると、昼間なのに暗い。

 それは木陰の所為というよりは、何か嫌な魔力──瘴気とでも言おうか。

 それが満ちているかのような……。

 その証拠に周囲の木々は、幹や枝がグニャグニャと曲がるという、(いびつ)な形へと成り果てていた。

 おいおい、一体この地に何を封印しているんだ!?


 ……それにどうやらエルフ達は、チエリーさんを里に入れるつもりなんて無く、仕事だけを押しつけるつもりのようだ。

 完全に道具としか思っていないという扱いだね……。


 やがてチエリーさん達が辿り着いたのは、巨大な1本の木の前だった。

 正確なサイズはよく分からないけど、まるで高層ビルのようだ。


「チエリーさんが向かったあの大きな木は、一体何なの?」


 私はリーリエに問う。


「何故あんたがその木のことを……!?」


「私は今もチエリーさんと連絡を取り合っているから、彼女が見聞きしたことは私も把握していると思っていいよ」


「なんてデタラメな……」


 リーリエは呆れたような顔をするが、今はそんなことはどうでもいい。


「いいから教えて!」


「そ、それは……世界樹だわ。

 我らが里は、世界樹の力によって守られているそうよ……」


 それってつまり、正しい道順で進まないとエルフの里には辿り着けないという、あの術のことかな?

 しかしチエリーさんがその世界樹の所に連れて行かれたということは、そこでは彼女のお父さんが仕事をしているということだよね?

 彼の仕事は、「里にとって良くない者を封じる助けをしている」ってことだから、世界樹にはそういう役割もあるのだろう。

 

 エルフ達がチエリーさんに求めているのは、その世界樹の制御……?

 確かに彼女は、元々「植物支配」というスキルを持っていたし、世界樹を制御することも不可能ではないはずだ。

 リーリエが言っていたように、元々は「里を守る為の名誉あるものだった」というのは、世界樹の制御ができるのは「植物支配」や「自然支配」を持つほどの才能がある実力者だから──というのもあるのだろうか?


 そしてチエリーさんが世界樹に近づくと、その根元には何かがある。

 それを見た彼女は──、


「そ、そんな……!!

 これはどういうことだべ……!?」


 激しく動揺していた。

 それが『百合』を通して私にも伝わってくる。

 だけどその動揺も当然だ。


 世界樹の根元で、無数の根に絡みつかれて眠っている男がいる。

 あれはチエリーさんの、父親だろうか?

 半世紀近くもそのままの状態だったのか、(まと)っている衣服はボロボロで、身体も痩せ衰えている。


「こんなの……!

 何が名誉ある仕事なの……!?」


 あんなの、世界樹の部品か養分じゃないか……!!

 チエリーさんがあんな扱いを受けるというのならば、エルフの里なんて守らなくてもいいよ!

 いつも応援ありがとうございます。

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