15 邪魔者
私達がエルフの里へ入ることは、拒否された。
1人で里に行かなければならなくなったチエリーさんは、不安そうな顔をしている。
「あの……オラは、おっとうと一目会ってお別れをしたら、すぐ帰ろうと思っているべ。
だからあの人達は、ここで待っていてもらう訳には……」
「そうもいかん。
お前達母娘を里に逗留させる条件として、うぬの父リーリスはとある仕事を請け負った。
うぬはその父の仕事を、引き継がなければならぬ」
ああ、やっぱり胡散臭い話になってきたぞ……。
しかしチエリーさんも、母親の出産を里で行うことが許可されていなければ、今頃は生きていなかったかもしれない──そんな恩があるのも事実なので、断りにくいだろう。
「その仕事が終わったら、オラは帰ることができるべか……?」
「ああ……終わったら……な」
たぶんそれは、終わらないだろうねぇ……。
チエリーさんの父親が、約半世紀をかけても終わらなかったことなんだもの。
ただ、ここで抵抗しても、チエリーさんの「父親と会う」という目的は達成できないだろう。
だから私は、チエリーさんに「念話」で話しかける。
『チエリーさん、ここはひとまず従いましょう。
こうして連絡も取れますし、「視覚共有」もありますから、そちらの状況は把握できます。
それにチエリーさんのマントの中に、キララが潜んでいるので、いざという時も安心です』
『あれっ、いつの間に!?』
最悪の場合は、「眷属召喚」でチエリーさんを取り戻すことはできると思うけど、エルフの里は特殊な場所だと推測しているので、万が一召喚や転移系のスキルが使えなかったとしても、キララが護衛していれば問題ないだろう。
長老を見た感じ只者ではないようだけど、それでも魔王候補ほどの実力は感じない。
それならばキララとチエリーさんが協力すれば、十分に対処できるはずだ。
というか、大多数のエルフがリーリエ程度の実力ならば、キララだけでもエルフの里を壊滅させることは、決して不可能ではないと思う。
「分かりました……。
里に行くべ……」
それからチエリーさんは、エルフ達に連れられて里へ向かった。
その途中、彼女は不安そうにこちらの方を振り返っていたけど、傍目には連行されているような感じだったので、気持ちは分かる。
そして彼女達の姿が見えなくなった後──、
「リーリエさんと言ったっけ?
ちょっとお話をしましょうか」
「……人間が!
話すことなどない!」
まだ宙づりになっているリーリエの尋問だ。
「あなたは妹を──チエリーさんを守ろうとして、里に行かせまいとした……。
違いますか?」
「だ……誰があんな奴の為になんか……」
リーリエは否定するけれど、図星を指されたというような顔をしている。
「認めたくないのならそれでもいいけれど、それじゃあ代わりに、あなたのお父さんがしていた仕事とやらについて教えてください」
「そ……それは……」
リーリエは言いよどむ。
おそらくそれはエルフという種族にとって、「恥」になるようなことなのだろう。
そしてたぶん、リーリエとその父にとっても──。
「このままでは、あなた達親子は救われない。
それにこれ以上、エルフの里を庇う義理がありますか?
あなたは既に、切り捨てられているのに」
「なっ──!?」
リーリエは心外とばかりに顔色を変えるが、これは厳然とした事実だ。
なぜならば──、
「あーあ、エルフのイメージが台無しだよ」
その時、私達に向かって魔法が撃ち込まれた。
これは牽制や脅しとかではなく、完全に殺すつもりの威力があるものだ。
まあ、「万能障壁」で防御できる範囲だけどね。
「馬鹿な!
あの攻撃を、あっさりと……!?」
で、攻撃してきたのは、つい先程まで森の中に潜んでいたエルフだ。
チエリーさん達と一緒に里に戻るふりをして、何人かはこの場に留まっていたらしい。
私達を生かして帰すつもりなんて、最初から無かったようだね。
勿論、この状況での攻撃は、リーリエも巻き込む。
つまり彼女は、里から見捨てられたのだ。
「そんな……」
リーリエは愕然とした顔になる。
たぶん里での彼女の立場は、人間を娶ったリーリスの娘ということで、以前から悪いものになっていたのだろう。
だけどさすがに、殺されるほどのものだとは本人も思っていなかったようだ。
「お姉ちゃん」
「任せろ!」
お姉ちゃんがエルフ達に襲いかかる。
もう実力差は歴然としているので、7人いたエルフを昏倒させるまでには、1分とかからなかった。
いや、2人いた女性は、戦う前に降参したようだ。
私の『百合』が効いたのか、攻撃すること自体に迷いが生じていたらしい。
じゃあ倒れた5人には、「女体化」をかけておくかな。
彼女達を眷属に引き入れて、どんどん里の勢力を切り崩していこう。
「な……なんなの、お前らは……?」
リーリエは、畏怖に満ちた視線を私に向けた。
「私達のことはどうでもいいよ。
そんなことより、もう一度聞くけど、里に義理立てする必要ある?
殺されかけたんだよ?」
「う……うぅ……!」
リーリエは心が折れたのか、泣き始めた。
私はそんな彼女の拘束を解いて地面に下ろし、頭を撫でる。
「里に居場所が無くなったのなら、私が居場所をつくってあげるから……。
だから色々と聞かせて……ね?」
「うぅ……ふぁい……」
リーリエは私に縋るような顔で、頷いた。
よし、堕ちたな……!
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