14 別 れ
ちょっと悲しい展開に入ります。
私達は背後からの追っ手を警戒しつつ、更に前方に潜む敵にも警戒しなければならなくなった。
最早村の何処にいても、オークに遭遇する可能性がある。
そして案の定、私達の進む先にはオークの集団がいた。
幸い距離がまだ離れているので、こちらには気付いていない。
だけどこれ以上進むと、気付かれる。
それはこの道を多少迂回してもそうだろう。
オーク達は散開して、次の獲物を物色する動きを見せている。
道を引き返して大幅に迂回すれば──いや、それだとオークキングに遭遇するリスクの方が大きくなる。
「お姉ちゃん、2人でやろう……!
2人で戦えば突破できるよ」
しかしお姉ちゃんは、首を左右に振り、
「バカ言うな。
数が多すぎるし、あいつらと戦っていたら、オークの親玉が追いついてくる。
あたしがあいつらを引きつけるから、マルルは逃げろ!」
そう言い残して、前方のオーク達に向かって駆け出す。
そんな自殺行為にも等しいことを、お姉ちゃんがいきなり選択するとは思っていなかった私は、一瞬反応が遅れてしまい、止めることができなかった。
「お姉ちゃん!?」
「あたしの大好きなマルル!
だから絶対に生き延びてっ!」
そう叫びながらお姉ちゃんは1匹のオークに斬りかかり、そしてすぐに真横に向かって走り出す。
オーク達もお姉ちゃんを追い始めた。
もうお姉ちゃんを追いかけても、絶対に追いつけない。
むしろお姉ちゃんを追うオークの集団に、突っ込むことになってしまう。
最早、私は独りで逃げるしかなくなってしまった。
「……くっ、こっちだ!」
私はお姉ちゃんとオーク達が行った方と反対側に向かって走り、それから隣村へと続く街道の入り口に向かう。
そしてそこへは無事に辿り着いたけど、そこには誰もいなかった。
生き残った人達は、既に隣村に向かって逃げたのだろうか?
それとも、みんなオークにやられた?
少なくとも現状では、両親すらどうなったのか分からない……。
でも、お姉ちゃんは大丈夫だよね?
あんなに強いんだし。
だけどお姉ちゃんをいくら待っても、その姿を現すことはなかった。
「そうだ、ステータス……!」
お姉ちゃんのステータスを確認してみる。
───────────────
・アルル 14歳 女 LV・18
・職業 狩人
・生命力 136/321
・魔 力 29/78
───────────────
お姉ちゃん、まだ生きている!
だけど生命力も、魔力も半分以下になっている!?
これ、どんな状態なの!?
オーク達に捕まっているの!?
あ、今魔力が減った!!
ということは、スキルを使ったってことだよね!?
まだ戦っているんだっ!!
私はお姉ちゃんを助けに行こうとしたけど、村の中からオーク達がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
だ、駄目だ。
今は村には入れない。
それどころか、このままここに留まれば、私もオークに捕まってしまう。
お姉ちゃんには「絶対に生き延びて」って言われているから、こんなところで死ぬ訳にはいかないし……。
女の子はオークの繁殖に使われるらしいけど、最終的には使い潰されるから、どのみち捕まったら死ぬらしい。
「くっ……!」
私は身を翻して、街道を走り出した。
でも、お姉ちゃんのことは気になる。
私は走りながらも、お姉ちゃんのステータスを確認し続けた。
あっ、レベルが上がってる!?
やっぱりまだ戦っているんだ。
え……魔力が殆ど無くなって……。
これじゃあ、もうスキルが使えない。
あ……ああ……っ!!
どんどんお姉ちゃんの生命力が、減っていく……!!
───────────────
・アルル 14歳 女 LV・19
・職業 狩人
・生命力 24/356
・魔 力 2/81
───────────────
こ、これじゃあ、お姉ちゃんはもう……!!
お姉ちゃんの生命力が無くなる度に、私の足は鈍くなる。
そして──、
「え」
───────────────
親密度 アルル 10──
───────────────
「え、え」
───────────────
親密度 アル──
───────────────
「そんな──」
───────────────
親密度
───────────────
お姉ちゃんの名前が消えた。
お姉ちゃんのステータスが、見られなくなった。
それって、つまり──。
私はついに立ち止まり、そして地面にへたり込んだ。
今の私にできることは、ただ1つだけ。
「お姉ちゃんっ!
お姉ちゃぁんっっ!!」
ただ泣き叫ぶだけだ。
「アルルお姉ちゃんっっっ!!」
背後からオーク達が駆け寄ってくる足音が聞こえてきたけど、私にはもうどうでも良かった。
私はこの異世界で生きていく為の、寄る辺を失ってしまったのだ。
ブックマーク・☆での評価・いいねなどでの応援に感謝です!