10 エルフの里へ
チエリーさんの里帰りに同行することになった私だけど、他にも手透きのクルルとキララ、そしてお姉ちゃんも一緒に行くことになった。
万が一チエリーさんの為にエルフの里と戦うようなことになっても、この戦力なら負けはしないだろう。
「あっ、チエリーさんは初めてだよね?
私のお姉ちゃんだよ」
「アルルだ。
いつもマルルと親しくしてくれて、ありがとう!」
「は、初めまして!
チエリーだべ!」
お姉ちゃんって昼間は眠っていることが多いので、タイミングが合わなくてチエリーさんと会うのはこれが初めてだった。
まあ、その気になれば睡眠は一切必要無いらしいのだけど、お姉ちゃんにとっての睡眠は娯楽のようなものらしい。
「頼りになるから、チエリーさんも頼ってね!」
「おいおい、マルルったら……」
私の自慢のお姉ちゃんだから、お姉ちゃんの素晴らしさを、チエリーさんにも知ってもらいたいだよ!
「はは……姉妹で仲がいいんだなぁ」
「うん!」
あれ?
私の返事を受けて、チエリーさんの表情が少し沈んだ。
しかしそれは一瞬のことで──、
「さあ、出発するだよ!」
チエリーさんは明るく振る舞う。
ちょっと気になるけど、理由も無しに追求はできないしなぁ……。
「エルフの里は、南の大森林の奥地にあるんだよね?
空から行っても分かるかな?」
例の空中で連続して「転移」する方法ならば、魔力はかなり消費するけれど、長距離を短時間で移動することは可能だ。
しかも目で見える範囲に転移を繰り返すので、行ったことが無い場所へも行ける。
ただ、上空から樹海の中に紛れたエルフの里が見つかるかというと、それはちょっと自信が無かった。
「外敵から見つからないようにする術で里が隠されているから、難しいと思うべ。
地上からでも、正しい道順で進まないと、辿り着けないだべよ」
「じゃあ、チエリーさんなら、その道が分かるの?」
「オラも子供の頃以来だから、分からないべ。
たぶん近くまで行けば、迎えがくると思うだべよ」
むう、エルフナビは機能せずか。
「じゃあチエリーさん、この前教えた『転移』で、行ける所まで行ってみましょうか。
そこから先は徒歩ということで」
「お、オラが使うべか!?」
「まあ、最初は短距離で。
慣れてきたら、徐々に距離を伸ばしていきましょう!」
大まかな里の場所はチェリーさんしか知らないので、ここは彼女に頼るしかない。
とは言っても、目的地は鬱蒼とした森の中だ。
どこもかしこも似たような景色で、そういう場所と「転移」は相性が悪い。
明確な目的地のイメージが無いと、移動ができない場合が多いからねぇ……。
「まずは領都の外へ、『転移』してみましょう。
そこから花畑に跳んで……あとはチエリーさんに任せます」
「は……はいっ!」
そんな感じで、花畑までの移動はスムーズにできた。
問題はそこからだが……。
「チエリーさん、分かりやすい場所の心当たりはある?」
「里の外に住んでいた頃に、使っていた家があるだよ。
そこなら間違い無いと思うべ」
「そっか……」
なんかそこ、辛い思い出に溢れていそう……。
そうじゃなきゃチエリーさんも、その家を捨てて人間の町に出てこないよね……。
実際、「転移」で辿り着いたその家は、古びた木造の小屋で、見るからに廃墟という感じになっていた。
最近までここにチエリーさんが住んでいたと思うと、かなり貧しい生活を強いられていたことが察せられる。
「ここで人間のおっかぁと、一緒に暮らしていただよ」
「その……お母さんは……」
50歳を超えているチエリーさんの母親なら、70歳前後にはなるだろう。
そんな母親を置いて、彼女が家を出るはずもなく、おそらく母親は──。
「……こっちだべ」
私達はチエリーさんに連れられて、家の裏手に案内された。
そこには何かを埋めた土の盛り上がりと、その上に植え付けられた若木がある。
人間のものとは違うけれど、これはたぶんお墓なのだろう。
そう、チエリーさんの母親の──。
「おっかぁ、ただいま……だべ」
チエリーさんは、お墓の前に跪いて祈りを捧げた。
私達も、黙祷する。
暫く沈黙が続いた後、チエリーさんはぽつりと呟く。
「おっかぁはここで、おっとうをずーっと待っていただ……」
それからチエリーさんは、再び黙りこくってしまった。
彼女にとっても、整理できない想いがあるのだろうな……。
それならば、吐き出してもらった方がいいのかもしれない。
「今夜はここに泊まらせてください。
その……良かったら、チエリーさんの思い出話でも聞かせてくれると嬉しいです」
「……そう……だべな……」
その後、荒れ果てた小屋の掃除をして、泊まれるようにした。
そして夕食を準備して、それを食べた後、チエリーさんには昔のことを話してもらうことになる。
「おっかぁは元々、流民だったんだ……」
それはチエリーさんの、生い立ちに繋がる話だった。
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