9 届く手紙
チエリーさんの強化は、順調に進んでいる。
ただ、竜を狩る為にクラグド山脈へ行くには、「転移」を使ってもちょっと遠すぎるので、近隣の森で魔物を狩ることにした。
けれどそれだけでは、ちょっと効率が悪い。
だから10日近くかけて、ようやく30レベルを超えたところだ。
まあ、もう大抵の人間には負けない実力があるので、強さとしては十分だと言えるんだけどね。
レベル云々よりも、私が「下賜」したスキルの数々が強力だからねぇ……。
しかしちょっと気になることがある。
未だに親密度が、100%にならないのだ。
一見私とは、普通に親しく付き合ってくれているように感じるが……。
ラヴェンダや獣人の冒険者達とパーティーを組むこともあるけど、その時だって馴染んでいるように見える……。
それでもまだ何処かに心の壁があるんだということを、数字が証明していた。
う-ん……ハーフエルフだということで、これまでエルフからも人間からも差別的な扱いを受けて生きてきたチエリーさんは、やっぱり他人を信用しきれない精神的なしこりが、心の奥底にあるのかもしれない。
これは時間をかけて、解きほぐしていくしかないのかなぁ……?
そんな悩み事が続いていたある日、事件が起きた。
それは花畑の様子を見に行く為に、森へ行った時のことだ。
「……?
鳥……?」
「鳥だべな……?」
カラスほどの大きさの鳥が、こちらに向かって飛んでくる。
普通、鳥は人間を避ける。
もっと群れていたり、巨大な鳥だったりするのならば話は別だが、あのサイズの鳥がたった1羽だけで、人間に襲いかかるとは思えない。
……いや、近くに巣があるのならば、そこにいる卵や雛を守る為ということも考えられるけれど、今は冬だし、子育ての時期でもない。
だから子供を守る為に凶暴化している可能性は、ちょっと低いよね……。
となると、少なくとも攻撃が目的ではないはずだけど……。
「あっ、キララ!
追い回さない!」
キララが近づいてきた鳥を迎撃しに動いたので、慌てて止める。
すると鳥はそのまま逃げるでもなく、また私達の方へと近づいてきた。
やっぱり目的があって動いている……?
「な、なんだべ……?」
そして鳥は、チエリーさんの肩にとまった。
さすがエルフは、鳥にも好かれるのか!
……まあ、実際にはそんな訳も無く、こんなことは今までに一度も無かった。
「足に何かを結んであるね。
もしかして手紙……?」
動物とかを操るスキルならば、鳥に手紙を届けさせるようなことも可能かもしれないけれど、何処にいるのか分からない人物の居場所を特定するのは、結構高い魔術レベルが必要なんじゃないかな……?
一体何者からの、手紙なのだろう?
チエリーさんが手紙を取ると、鳥は何処かへ飛び立った。
そして手紙を読んだ彼女は──、
「──!!」
目に見えて元気を無くしていく。
「なんて書いてあったの?
良かったら、私が相談に乗るよ?」
「……いんやぁ、お世話になっているマルルさんに、これ以上迷惑をかける訳にはいかないべ……。
いや……どのみち、このままじゃ迷惑をかけてしまうべか……」
チエリーさんは、申し訳無いという顔でうつむいた。
耳もちょっと、ヘニョっとしている。
「マルルさん、オラ……エルフの里に帰らなくちゃいけないかもしれないだ……」
ということは、この手紙の差出人はエルフか。
あ、鳥がチエリーさんの居場所を特定したのも、彼女が持つ独特のエルフの気配を追って……?
たぶん里の外にいるエルフは彼女くらいなので、その条件で絞り込んで術を仕込めば、見つけることは不可能ではないのかもしれない。
勿論、手紙を持たせた鳥は1羽だけではなく、何十羽と四方八方へと送り出すという、「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」戦法だったのかもしれないけれど。
それだけ手間をかけるということは、手紙を出したエルフも必死だったのだろうか?
それならばチエリーさんが、エルフ達によって強引に連れ戻される──そんな可能性だってあるのかも……。
彼女の居場所は、あの鳥が術者に伝えるかもしれないし……。
むぅ……それはちょっと困るなぁ。
一時的に──と言うのならばともかく、そのままもう帰ってこないようなことになってしまっては、色々と計画が狂う。
それにチエリーさんがいなくなるのは寂しい。
「ど、どういうことなの……?」
「……おっとうが病気で危ないから、おっとうの仕事をオラが引き継げ……って」
はぁ、なんだそれ!?
危篤の父親に一目会え──というのならば分かるけれど、その手紙の文脈だと父親の仕事をチエリーさんへ押しつける為に、彼女を呼び戻そうとしているようにしか思えない。
今まで彼女をエルフの里で暮らせないようにしたのは、エルフ達なんじゃないの!?
「そんな身勝手な……!!」
「でもオラ……おっとうが生きているうちに、一目顔を見ておきてぇだ……。
だけど一度里へ行けば、もう帰ってこれないかもしれないだよ……」
そうか……。
じゃあ、私がやることは1つだけだ。
「それなら、私も行くよ!
万が一の時は、私が強引にチエリーさんを連れ帰る!」
「ええっ、エルフは人間を嫌うだ!!
里に近づくのも難しいべ……」
でも強引に連れ帰るところは、否定しないんだよね。
「私には隠蔽スキルがあるから、隠れて付いていくこともできるよ」
「そうか……それなら……。
いや、んだども……」
チエリーさんは悩む。
私が姿を隠しているのならば大丈夫だろうか?──とか悩んでいるのだろうけれど、実際には姿を隠さずに行くつもりだ。
だって、『百合』を使って、エルフの女性陣を味方に付けた方が、簡単に事は運びそうだしね。
そんな訳で、私がエルフの里へ行くことは、決定なのだ。
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