7 お宅訪問エルフさん
家族が濃厚接触者になった為、私にもコロナ感染フラグが立ちました……。
今日はハーフエルフのチエリーさんを、我が家へと招待した。
ひとまず今回は遊びに誘っただけだけど、あわよくばいずれ下宿することを促そうと思っているので、それを決断する切っ掛けになればいいと思っている。
「ふわあぁぁ~……」
チエリーさんは我が家を見上げて、間の抜けた声を上げた。
心なしか目からは、光が消えているように見える。
「え……あ……大丈夫だか?
オラ、こんなご立派なお屋敷に入っても……!?
もしやあなた様は、お貴族様で……!?」
ああ、うちの屋敷の大きさに驚いているのか。
まあ確かにこの家、元々は王家の所有だったしなぁ。
というか、貴族云々の常識的な知識は、一応持っているんだね。
人間の方の親から教えられたのかな?
「大丈夫だよ、ただの冒険者だから。
この屋敷は王国の危機を救ったご褒美に、安く売ってもらっただけだから」
「ふあぁ……冒険者って、成功するとこんな立派なお屋敷に住めるんだかぁ……」
「そうだね。
チエリーさんも才能があるから、成功できると思うよ。
私のお手伝いをしてくれるのなら、色々と後押しするし、ここに住んでもいいんだからね」
「いやいやいや、オラなんかがこんな立派なとこ、恐れ多いだよ!」
う~ん、まだ遠慮があるか。
親密度が上がってくれば、もっと前向きに考えてくれると思うんだけど……。
「とにかく、まずは中へ。
色々と案内するよ」
それから私は、チエリーさんに屋敷のあちこちを見せた。
特に浴室はアピールポイントだね。
「使いたい時は、いつでも使いに来ていいんだからね」
「ええぇ……そんなの迷惑じゃ……」
「冒険者をしていると、身体が酷く汚れちゃうこともあるからね。
汚れたままの方が、周りに迷惑をかけるよ。
仮にここを使わなくても、普段から清潔を保つことを心がけた方がいいと思う。
魔法でのやりかたも、後で教えてあげるね」
実際、汚い格好をしていたら、周囲の人間は信用してくれない。
自身の格好に頓着しないのは、貧しいからだとみなされる。
そしてそういう者は、窃盗などの犯罪に手を染める傾向にある為、扱いが悪くなることも多い。
それが冒険者ならば、当然受けられる依頼は減るのだ。
特に要人の護衛任務とかは、絶対に無理。
特にチエリーさんはエルフという、人間の社会の中では微妙な立場なので、つけ込まれる要素は少ない方がいいだろう。
まあ、小綺麗にしていると、それはそれで別の問題を呼びそうではあるが……。
これだけの美少女、男なら放っておかないのではないだろうか。
普段彼女がフードで顔を見えにくくしているのも、そういう理由なのかもしれない。
その後私達は、ティティが作った昼食を食べる。
「どう、うちのメイド長が作った料理は?」
「ふあぁ~、こんなに美味しい物は初めてだべ……」
『恐れ入ります』
「ほわっ、頭の中に声が!?」
「ああ、『念話』は初めてなんだね。
ちょっとティティは、声が不自由でね。
便利だから、後でチエリーさんにも、使い方を教えてあげるよ」
「はぁ……」
急にチエリーさんは、居心地が悪い──とでも言うように目を伏せる。
「どうしたの?」
「なんでマルルさんは、オラに優しくしてくれるんで?
こんなに優しくされる理由に、心当たりが無くて……」
ああ、理由が分からない好意が、気持ち悪いということか。
確かに「ただよりも高いものは無い」とも言うし、美味すぎる話は詐欺を疑った方がいいのも事実だ。
「それは私が、チエリーさんを気に入ったから……というだけじゃ、納得いかないんだよね?」
「それは……」
正直言って、私に下心が無い──とは言わない。
あのチエリーさんの長い耳を、ハムハムと甘噛みしたい欲求があるのも本当だ。
それに眷属にして鍛えれば、非常に有能な人材になるとの目論見だってある。
でもだからこそ──、
「私はチエリーさんを気に入ったからこそ、手元に置いて守りたいと思っています」
「守る……だべか?」
チエリーさんは、コテンと首を傾げる。
仕草だけなら本当に美少女なんだけど、田舎娘のような訛りとのギャップが凄くて、それが逆にたまらない。
「チエリーさんはもしかしたら、国内で唯一のエルフだ。
その希少価値に目を付ける、犯罪組織がいてもおかしくないので……」
「お、オラが狙われるって言うべか!?」
人身売買組織とか、好色な貴族とか、私とかが放っておかないね!
「あくまで可能性の話だけどね。
少なくとも私はチエリーさんのことを、将来有望な人材だと思っているし、あなたは自分の価値が低いとは思わない方がいいよ?」
「オラなんかが……」
チエリーさんは、信じられないといった顔になる。
おそらく人間の血を引いている所為で、エルフの里からも追い出されている彼女は、自分に価値があるなんて思ったことは無いのだろうな……。
「だからあなたが変なことに巻き込まれないように守りたいというのは、純粋に思っていることだよ。
勿論、いずれは冒険者仲間として、役立ってくれるだろう……という、打算も否定しないけどね」
「そうだか……」
「そういう訳だから、私達のことは遠慮無く頼って欲しいな」
「ご、ご厚意はありがたく受け取るぺ……。
何かあったら、相談するだよ」
「うん、いつでも言ってね。
でも、今は食事を食べちゃおう」
それから私達は食事をしつつ、魔法のことを中心に色々と話し合った。
やっぱりチエリーさんも魔法使いなだけあって、この話題には興味があるらしく、会話は弾んだ。
よし、順調に親密度は上がっているね。
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