6 異分子
「姐さんが勝てないとは……。
おみそれしやした……!!」
獣人達は畏まった様子で、私に対して頭を下げてきた。
どうやら彼らにしてみれば、ラヴェンダの敗北はかなりの衝撃的な出来事だったらしい。
そしてその衝撃が故に、私への評価も変えざるを得なくなったようだ。
というか、もう人間とか獣人とか、そういう細かいことはどうでも良くなった……?
まあ、私も既に人間の範疇にいるのか、怪しいとは感じているけれど……。
勿論、獣人達にはまだ、人間への敵愾心は残っているだろうし、内心では私のことをどう思っているのかは分からない部分もある。
それでも彼らは、私と正面から逆らうのが得策ではないことだけは、理解してくれたようだ。
「まさか、可愛らしい坊ちゃんがこんなに強いとは……」
うおぉい、まだ勘違いしてるの!?
そのネタはもういいよっ!!
「ご主人は、可愛らしい女の子だぞ!
そこを間違えるなっ!!」
「は、はいっ!!」
ともかく、これで問題は解決かな?
獣人達もラヴェンダの本気の戦いを見たことで、彼女への尊敬の念が更に深まったようにも見える。
これなら彼女の言うことは、よく聞くことだろう。
「ご主人、どうでしたか?
彼らの実力は?」
「やっぱり獣人の身体能力は高いね」
ステータスは見られないのでなんとなくだが、たぶん人間の同レベルと比べると、10レベル近く上になる印象だ。
勿論魔法とかでは、劣る部分があるのだろうけれどね……。
あと、今まで町には入れなかった彼らは、教団施設でギフトを授かったのがつい最近なので、その恩恵をまだ上手く活用できていない面もあるのかもしれない。
つまりこれからの伸びしろは、大いにある。
「特に魔法使いの子は、見込みがあるよ。
私の『自然支配』を解除したっぽいし」
そんな真似は、カトラさんクラスの術者じゃないと、難しいはずなんだけどね……。
これは大変な才能かもしれない。
「ああ、彼女ですか。
彼女はちょっと特別なんですよ。
チエリー、ご主人に挨拶を」
ラヴェンダに促されて前に出たのは、ローブ姿の少女だ。
15~16歳くらいで、身長も私よりもちょっと高いくらいの小柄な子だった。
「は、初めまして、チエリーです……」
「えっ!?」
フードを脱いで挨拶するチエリーを見て、私は驚愕する。
薄い緑色の髪は、人間にはまずありえないものだった。
そしてなによりも特徴的なのは、彼女の耳だ。
それは動物の形ではなく、人間の耳の先端が尖ったような形状をしている。
つまり彼女が獣人ではないことを、示していた。
「え、エルフ!?」
ファンタジーの申し子、エルフだーっ!!
初めて見た!
あ、そうか。
エルフって森の奥で生活していて、植物を愛する自然派種族だという。
そのエルフならば、私の「自然支配」に対抗する能力を持っていても、全然おかしくないね。
それにしてもエルフって美形が多いってイメージだったけど、確かにこのチエリーも凄い美少女だ……。
目が大きくて、まつげが長いなぁ。
それに全体的に色素が薄くて、身体の線が細いという、何処か浮き世離れした雰囲気がある。
まさに妖精って感じだ。
この美貌が種族単位とか……。
エルフの里に、ちょっと行ってみたいかも……。
「でも、なんでエルフが獣人達の中に……?」
「エルフはその……人間を見下しているので……」
「ああ……」
ラヴェンダの言葉に、私は納得した。
森の奥に住むエルフは、閉鎖的にして排他的だというのが、多くの物語の中で共通する設定だ。
この世界のエルフも同じだとするのならば、仲が悪い人間の町に入ることができないのも当然の話だろう。
そういう意味では、エルフと獣人は同じ立場だったと言える。
ただ、仕方がなく町の外へ追いやられていた獣人とは違い、普段から森の奥に住むエルフは、あえて人間の町へ入る必要が無い。
となると、チエリーには何かしら特別な理由があるのだろうか?
「チエリーは斡旋所で、誰も組む者がいなくて困っていたので、誘ってみました」
「ナイスだよ、ラヴェンダ!」
結果的にこんな可愛い子と、知り合いになれたんだからね。
「……あれ?
長命なことで有名なエルフだということは、私達よりも年上なのかな?」
そんな私の疑問に、チエリーはなんとなく言いにくそうに口を開く。
「オラは……人間とのハーフなんで、そんなに見た目と実年齢は変わらねぇ52歳です……」
私の前世と合わせても年上じゃん!?
それで実年齢と見た目が変わらないという認識って、普通のエルフはどれだけ高齢なんだろ……。
あと、一人称が「オラ」!?
それに口調も少し、訛っているね……。
本当に人里離れた、山奥から来たんだなぁ……。
でもこれで、チエリーが人間の町へ来た理由が分かった。
そうか……人間とのハーフだからこそ、エルフの里にも居場所が無かった……ってことなんだね。
「ゴメンね、言いにくいことを聞いちゃったみたい」
「いえ、気にしないで、くだせえ……」
「ううん、お詫びに私の家に来る?
宿屋よりは快適だと思うよ」
「へぇ!?
あなた様の、お家ですかい!?」
「うん、広いから、君1人くらいなら大丈夫」
「え……と、それは……」
チエリーは少し迷っていた様子だったけど、『百合』に抵抗することはできなかったようで、
「じゃあ取りあえず、遊びに行ってもよいだべか……?」
私の家にくることになった。
「うん、遠慮無く遊びに来てね!」
よし、これでエルフの眷属、ゲットだよ!
……って、ラヴェンダは「また始まった……」って顔をしない!
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