表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/206

5 マルル対ラヴェンダ

 無数のナイフが、縦横無尽に空中を駆け巡り、私に襲いかかってくる。

 これだけの数を同時に操る技術は、私には真似できないかも。

 それでも(かわ)すだけなら、なんとかできる。


 ただ、当たったら痛いでは済まない。

 私ならば障壁で防ぐことは可能だけど、最早ナイフとは言えない威力が伴っているからなぁ。

 目標()を外したナイフが、大木に直撃して貫通したところを見て、さすがにちょっと肝を冷やした。

 どうやら私が「下賜(かし)」した「暗黒闘気」を、ナイフに(まと)わせているらしい。 


「凄ぇ……あれが(あね)さんの本気か!」


「でも、その攻撃を躱し続けている、あの子供は何なんだ!?

 俺達だって手も足も出なかったし」


「強くて可愛いとか、ずるい……」


 うん、獣人達からの私への評価も、かなり上がったようだ。

 そういう意味ではもう目的を達したし、これ以上はこの戦いを続ける必要も無いかな。

 そろそろこの勝負を、終わらせようか。


 というか、周囲を飛び回ったナイフに繋がれていた糸が、あちこちに張り巡らされて私の逃げ道を塞いでいた。

 まるで蜘蛛の巣だ。

 この糸も「暗黒闘気」で強化されているみたいだから、不用意に触ったら骨まで切断されるかもしれない。

 まあ、私も自分の身体(からだ)を、「暗黒闘気」で覆うので問題無いけど、触らない方がいいことも間違い無い。


 となると、そろそろナイフの攻撃を()けるのは、難しくなってくる。

 これはすぐに勝負を決めないと、万が一も有り得るぞ。

 ──しかし、


「!」

 

 私の動きが限定されて鈍ったタイミングで、ナイフが一斉に上から降り(そそ)ぐ。

 まだ躱せないことはないけど……。

 あっ、でもこれって──!?


 私に当たらなかったナイフが、地面へ刺さろうとしていた。

 そこには私の影がある。

 これ、影を刺すことで動きを止める、「影縫い」のスキル!?

 それなら「万能耐性」で抵抗できるはず。

 

 それとも──、


()っ!?」


 影にナイフが刺さった瞬間、私の身体に痛みが走った。

 これはラヴェンダがレベルアップによって手に入れた、「影斬り」のスキルか。

 おそらく「影は魂の一部」という魔術的な概念から、身体の防御力を無視して、魂に直接ダメージを与える攻撃なんだろうな。

 ある種の呪いのようなものだ。

 

 まあ、実際には魂なんて大げさなものではなくて、生命力とか魔力、そして精神への直接ダメージなんだろうけれど、常人なら「影縫い」と「影斬り」のコンボで、何もできないまま命を削られていくなんてことにもなりかねない、恐ろしい技だねぇ……。

 私も思わぬところでダメージが通って、驚いたよ……。

 今度からは影も防御しておこう。


 いずれにしてもこの「影斬り」だけでは、私を倒すにはまだ足りない。

 しかしさすがにラヴェンダも、奥の手である「即死突き」は私相手には使ってこないだろうし、もう八方塞がりだろう。

 一方私は、まだまだ動けるし、使っていないスキルも山のようにある。 


「よっと!」


「うわっ!?」

 

 私は跳んできたナイフの1本を掴み取り、あらゆる強化系のスキルを融合させて作った「万能強化」で身体能力を上昇させて、ナイフに結びつけられていた糸を思いっきり引いた。

 するとその糸に引っ張られて、ラヴェンダが影の中から出てくる。

 まさに一本釣りだ。

 あれだけ多くの糸を操っていたのだから、おそらく糸のそれぞれを10本の指先に結んでいたのだろうと予測していた通りだった。


 ただ、身体が浮き上がるほどの力が指先にかかったのだから、レベルが高いラヴェンダじゃなければ、指がもげていたかもしれない。

 まあ、今も脱臼くらいはしている可能性はあるけど、彼女にも「無限再生」は与えているからすぐに治るし、「万能耐性」で痛みも軽減されるから、戦闘不能になるほどのダメージではないと思う。 


 決着を付ける為には、もっと強い一撃を加えなきゃならない。

 それも獣人達から見ても、私がラヴェンダよりも上だということが分かりやすいように──だ。

 でも、大怪我はさせたくないから、手加減が難しい。

 勿論、今の彼女ならば、ちょっとやそっとでは死にはしないだろうけれど……。


「ぐえっ!?」

 

 まず、空中高くへと一本釣りしたラヴェンダが地面に落ちる前に、空気の塊を下から噴出させて、再び上空へと打ち上げる。

 そして私は「転移」で更にその上へと移動し、上昇してきた彼女を受け止めて羽交い締めにした。


「さあ、ラヴェンダ。

 どこに落ちたい?」


「ちょっ、えっ、ご主人!?

 あっ、ああぁぁ~~っっ!!」


 そして私達は、地面へと向かって落ちていく。

 しかも「自由飛行」のスキルを使って、落下スピードを加速させながらだ。

 この勢いで地面に激突したら、さすがにラヴェンダも無事では済まないだろう。

 私だって怖い。


「ご主人、とめて!

 降参、降参ですからぁ!!」


 ラヴェンダ叫んだ瞬間、凄まじい衝撃音が周囲へと(とどろ)いた。

 それが静まる頃には──、


「あ……ああ……」


 ラヴェンダの茫然とした声だけが聞こえる。

 逆さまになった彼女の髪は、ギリギリで地面には触れていない。

 触れたのは「万能障壁」だけだ。

 障壁と地面の衝突によって軽く爆発のようなものが発生したけど、障壁の内部にいて浮いている私達にダメージは無かった。


「こ……怖かった……!」


 私がラヴェンダを地面に降ろすと、彼女はへなへなと膝を突く。

 ちょっと涙目になっているのが可愛い。

 そして徐々に落下の恐怖が薄れてきた彼女は、自嘲気味に笑った。


「やっぱり私では、ご主人にはまったく(かな)いませんでした……」


「ううん、ラヴェンダの強さを知ることができて嬉しいよ。

 頼もしい仲間がいて、私は幸せ者だね」

 

「ご、ご主人……!!」


 嬉しそうに尻尾を振るラヴェンダを、私は抱きしめて頭を撫でる。


「ふへへ……」

 

 だらしなく表情が緩むラヴェンダを見て、獣人達は少し羨ましそうな、それでいて悔しそうな、複雑な顔をしていた。

 でもこれで私の実力も、ラヴェンダとの関係も、理解できたと思う。


 少なくとも獣人に差別意識を持っている人間は、獣人とこんな風に抱き合ったりはしない。

 私とラヴェンダの関係が良好だということだけは、伝わっていると思いたい。


 ……まあ、ラヴェンダを半分ペット扱いしていると指摘されたら、否定できない部分もあるけれど……。

 だけど彼女の行動がまるっきり犬と同じ時があるんだから、仕方がないじゃん……。


 それにペットとは、キスとか……それ以上のことを、色々したりはしませーん!!

 ブックマーク・☆での評価・いいねをありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] きゃー!可愛い〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ