3 軋 轢
副反応で微熱がある中で書きました。
「じゃあ、ここに巣箱を置いておくから、ここに蜜を溜めてもらおうかな?
それと、お礼に果物も置いていくね」
『ん!』
私は空間収納から巣箱と果物を取り出して、「キララ2」の巣の前に置いた。
巣の中から「念話」の返事がきたので、私の言葉はちゃんと伝わっているようだ。
……って、マジでこの中に、キララの分身がいるんだね……。
さて、王都の近隣にあるであろう「キララ3」の巣に関しては、また王都へ行った時に対応するとして、今日は当初の目的を終えたので、何か別のことをするか。
「よし、近くに花畑を作ろう。
キララ、良さそうな場所、知ってる?」
『こち』
キララに案内してもらい、ちょっと開けた場所へ行く。
うん、ここなら日当たりも良さそうだから、花も育つだろう。
で、まず「自然支配」で、地面を耕す。
まさに地面を支配している状態なので、石などの不純物を取り除くのも簡単にできる。
畝を作るのも自由自在だ。
そんな訳で、畑はあっという間に完成した。
ため池だって、そんなに手間はかからない。
問題は、今この季節に花の種を蒔いても、芽が出るか……ということだ。
一応、前に花畑を作った時に使った種は残っているけど、蒔いていいものなのだろうか……。
あ、ちょっと実験をしてみよう。
種を一粒取り出して、植える。
そして水をやって、「自然支配」をかけてみた。
おお、芽が出た!?
植物も自然の一部なんだから、「自然支配」でコントロールできるんだ!!
このままある程度のサイズまで成長させれば、多少寒くても枯れることはないんじゃないかな?
植物って案外強いから、雪が降るような季節でも花が咲いているのは見たことがあるし。
ましてやこの地域は殆ど雪が降らないらしいので、多分大丈夫だろう。
まあ、時間がある時に様子を見にきて、観察する必要はあるだろうけれど。
「花畑も作り終わったから、何か素材でも採取しながら帰ろうか?
それとも、クルルはお肉がいい?」
「グゥー(お肉ー)!」
「じゃあ、獲物の索敵お願いね」
私達は獲物を探しながら、帰路へとついた。
途中、鹿型の魔物を見つけて、それを追いかけた。
クルルの足の速さならすぐに追いつくと思ったけど、私が背中に乗っているので、振り落とさないようにセーブしてるらしく、なかなか追いつかない。
「私、降りた方がいい?」
「グゥ、グゥー(マルルが乗っていた方が、楽しいからいいよー)!」
ふむ、クルルは縛りプレイを楽しんでいる訳か。
なんでも簡単に終わってしまっては、つまらないからね。
しかし暫く追いかけていると、鹿の前方に複数の反応が現れた。
人がいる!?
このままじゃ、鹿が突っ込んじゃう!
そう思ったのもつかの間、鹿は唐突に倒れた。
前方の人達が攻撃した?
的確に鹿の弱点を突いて、一瞬で倒した腕前はかなりの実力者とみた。
「……って、ラヴェンダじゃん!」
「あ、ご主人、奇遇ですねー!」
ラヴェンダは嬉しそうに、手と尻尾を振っている。
しかしその背後にいる獣人達は違う。
「何故、人間なんかに尻尾を振って……」
「あれは……ただの少年だよな?
熊に乗っているが……」
「がっかりだ……」
「あんなクソガキがなんだってんだ?」
「可愛い……」
……等々。
差別を受け続けてきた獣人の中には、当然人間のことを快く思っていない者も多い。
そんな者達からすれば、救国の英雄であり、獣人の希望の星であるはずのラヴェンダが、見た目だけなら小さな女の子である私に媚びへつらうような姿は、失望を覚えるのだろうな……。
まあ、『百合』が効く女性の獣人だと、また違う反応になっているみたいだが。
というか、誰だ「少年」って言った奴!?
確かに胸は無いけどさぁ!
一方、ラヴェンダだが──、
「今、ご主人のことを、少年とかクソガキとか言った野郎は前に出ろっ!!」
「「ひっ!?」」
「ご主人は人間とか獣人とか関係なく、偉大な御方だからこそ、私のご主人なんだぞっ!!
我が主を侮辱しておいて、無事で済むと思うなよっ!!」
激怒である。
うわぁ……こんなラヴェンダ、初めて見た……。
素の口調ってこんな感じなんだ。
そして本気で怒っている暗殺者を前に、獣人達も恐れ戦いている。
実際、実力差を考えると、今この瞬間に殺されてもおかしくないからなぁ……。
「まあまあラヴェンダ……私は気にしていないから」
「しかしご主人……」
だけどラヴェンダは、まだ納得していない感じだ。
獣人達もそうだ。
う~ん、このまま信頼関係を構築できないのも、まずいなぁ……。
とりあえず私がただの子供ではないことが分かれば、獣人達も私とラヴェンダの関係を理解してくれるだろうか?
群れを作るタイプの動物の獣人は、序列を重視するみたいだし。
そもそも話し合えば誰とでも理解し合えるというのが幻想だし、時には行動して見せた方が手っ取り早い場合もある。
「じゃあここで私の実力を見せる為に、実戦訓練といこうか。
ラヴェンダも含めて、全員でかかってきなよ」
さあ、クソガキとやらの実力を、見せてやろうじゃないか!
あ、クルルとキララはそこで見ていてね。
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