13 ボス出現
オークとの戦いは、人間側にまだ死人が出ていないことを考えると、辛うじて私達の方が優勢だと言っても良かった。
ただ、オークによる襲撃の勢い自体は、まったく衰えていない。
夜の暗闇の所為でよく分からないけれど、一体村の外には何匹のオークがいるのだろうか?
だけどこの戦いでお姉ちゃんは勿論、私だってレベルがまた上がった。
このまま戦力が強化されていけば、この難局は乗り切れるはずだ。
しかしいくらレベルが上がっても、お姉ちゃんの体力がどこまで続くのか──という心配もある。
隙を見て水と食べ物を差し入れることを、考えた方がいいのかもしれない。
私がそう考え始めた時──、
ドオォォン!!
「ぐはっ!?」
と、轟音が鳴り響き、誰かの悲鳴が上がった。
そちらの方を見ると、男の人の身体に、何かが刺さっている。
これは……村を囲っていた柵の、その材料として使われていた木材だ。
何者かが柵を引き抜いて、それを投げつけたのだろう。
それは人の腕ほどの太さがあり、そんなものが身体に突き刺さったら、当然致命傷となる。
ついに死人が出た。
だけど問題はそれだけではない。
柵が壊されたということは、オークが村へ侵入しやすくなったということだし、そもそも柵を壊してそれを投げつけるだけで人を殺せるような、とんでもない力を持った化け物が現れたということでもある。
「あっ!?」
柵の方に、何か大きな存在が見えた。
普通のオークの2倍は大きい。
ボスキャラか!?
たぶんオークキングとか、そういう奴だ。
そいつが村の中に入ってきた。
「女、子供は退避──っ!!
男の人とお姉ちゃんは、逃げる時間を稼いでっ!!」
私はすぐさま撤退の指示を出す。
幸い「百合」の効果なのか、女性は素直に私の呼びかけに従ってくれている。
男の子は私の声に従ったというよりは、年上の女の人達が一斉に動いたので、それにつられたといった感じで逃げていく。
とにかくあのオークキングは、絶対にヤバイ。
もう村は捨てた方がいいと、瞬時に悟った。
幸いあのオークキングは他のオーク達よりもかなり太っていて、動きは鈍そうだから子供の足でも逃げ切れるとは思うけれど……。
だけどそれは、甘い考えだった。
「ぎゃっ!!」
「きゃっ!」
オークキングは手にしていた石斧で、近くの家屋を殴った。
そこから生じた破片が、弾丸のような速度で飛び散り、村人達に──そしてお姉ちゃんにも当たった。
さすがにお姉ちゃんは倒れなかったけれど、村人の何人かは倒れた。
「お姉ちゃんっ!!」
「わ、分かっている」
お姉ちゃんはすぐさま、オークキングへと斬りかかった。
とにかくオークキングを止めないと、倒れた人達を救い出すこともできない。
それに倒れた人を運ぶだけで人員が割かれ、普通のオークを抑える人員も足りない。
もう倒れている人は見捨てた方がいいのかもしれないけど、そういう訳にはいかないよねぇ……。
私は倒れた人が落とした剣を拾い上げた。
ちょっと重いけど、振れないことはないな……。
これでスキルの「流し斬り」を──対象とすれ違い様に斬り付ける技を連発して、なんとか雑魚オークの動きを牽制しなければ……!
それでお姉ちゃんの負担が減るのなら、私だって頑張るよ!
ただ、私では正面から戦っても、オークには勝てない。
それに囲まれたら、あっという間にやられてしまう。
だから私にできるのは、チョロチョロとネズミのように動き回ってオーク達を翻弄し、隙を見て攻撃することだけだ。
狙うのは足──。
足が傷つけば、それだけ私達が逃げる時に、追跡の速度が遅くなるはずだよね。
よし!
流し斬り!
私はオークとすれ違いざまに、その足を斬り付ける。
そして一撃離脱。
それから次の標的を定めて──、
流し斬り!
おっと、オークが突っ込んできた。
避けて──流し斬り!
作業のように繰り返すこと数分──。
他の人達によって、倒れていた負傷者の回収は終わったようだ。
「お姉ちゃん、そろそろ私達も!」
「ああ!」
私達は隣村に続く街道がある方へと走る。
動きが鈍いオークキングは勿論、私が足を斬り付けたオーク達も追ってはこないようだ。
これならばなんとか逃げ切れる──そう思い始めた時、
「えっ!?」
私達が進む道の先で、大量の血痕を見つけた。
そしてその血痕は、何かを引きずるような形で、村の外へと続いている。
これは……先に逃げた人が襲われて、連れ去られた……?
あの血液の量だともう死んでいそうだから、たぶん食料にする目的なのだろう。
「お、お姉ちゃん……。
これって……」
「ああ……他の場所から、オーク達が既に村へと侵入している……!!」
どうやら想定していた最悪の事態が、起こってしまったようだ。