2 蜂の巣を求めて
私はこの地域に冬眠しないキラービーの巣があるのか、それを確認する為にキラービーの王女・キララを連れて森へ行くことにした。
他にもクルルだけ同行する。
エルシィさんとカトラさんは王都で王女達の家庭教師だし、お姉ちゃんは昼間の大半は寝ている。
カプリちゃんは用事があっていないし、他に同行できる者と言えば──、
「ご主人、私も行きたいです!」
「いや、ラヴェンダは仕事でしょ?」
実はもういない。
ラヴェンダには冒険者としての活動を希望している眷属達の引率をお願いしていたのだが、今はそれだけではなく獣人の指導も任せている。
これまで獣人は差別の所為で、簡単には市町村へ入ることはできなかった。
だからランガスタ伯爵にお願いして、この領都に入れるようにしてもらったのだ。
とはいっても、いきなり無制限に許可しては混乱を呼ぶので、犯罪歴が無い等のいくつもの条件に合格した者だけだが……。
そして受け入れたからには、問題を起こさないようにしなければならない。
ラヴェンダに監督させるのは、町での生活に慣れていない獣人達が、問題行動を起こさないようにする為でもあるが、心ない一般市民による差別から守る為でもある。
さすがに救国の英雄であるラヴェンダに逆らう者は、人間にも獣人にもいないだろう。
で、今はラヴェンダしか監督役がいないのでこの領都だけの事業だけど、今後は人員を育てて全国的に広げていこうと思っている。
その為にクリーセェ様達とも話し合っているところだ。
「今日は獣人達とパーティーを組んで、斡旋所で依頼を受けるんでしょ?」
「それは……」
ラヴェンダには冒険者としてのノウハウしかないので、現在受け入れている獣人は、冒険者を希望する者だけだ。
本当は商工業を希望する者も受け入れて、キャロルさんの事業を手伝わせたいのだけど、領都での獣人への差別感情が強い状況で関わらせると、不買などに繋がり商売が成り立たなくなる可能性がある。
さすがにキャロルさんにそんなリスクは負わせられないから、何か別の方法を考えなければならないねぇ……。
まずは獣人の冒険者達に実績を積ませ、徐々に人間との混成パーティを組ませていくことで、冒険者の間で獣人を受け入れる空気を作っていくしかないのかも……。
「とにかく、先輩としてしっかりとやるんだよ」
「くっ……お任せください!」
勢いよく返事をするラヴェンダだけど、やっぱり私と一緒に行きたいという気持ちが滲み出ているなぁ……。
さて、私達も出発しようか。
町の外までは「転移」で移動して、森の入り口からはキララに先行してもらう。
私はいつも通りクルルに乗って、その後を追う。
「まったく迷い無く進んでいるね……。
同族がいる場所が分かるのかな?」
「グゥ(さぁ)?」
まあ、クルルに聞いても分からないか……。
でも、言葉が未熟なキララが説明できるとも思えないし、今はただ彼女の後についていくしかない。
やがて鬱蒼と茂る木々の中でも、一際大きな木が見えてくる。
樹齢は数百年──あるいはそれ以上かな?
幹の直径が5mくらいありそうだ。
その根元には幹のサイズに見合った、大きな洞があった。
そこに巣があるの?
そう思っていたら、洞の中から無数の蜂が出てきた。
そして蜂達は、私達を歓迎するように列を作って、私達の周囲を飛び回る。
初めて会ったのに、慣れ親しんだキラの巣と同じような出迎えだね。
そういえばキラは、キラービー全体で繋がりがあるって言っていたような……。
それでも初対面でこんなに友好度が、いきなり上がるものなの?
あれ……?
従属度に何か増えて──。
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従属度 ラヴェンダ 100%
ティティ 100%
アイーシャ 100%
ジュリエット100%
エレン 100%
キララ2 100%
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「キララ2」って何!?
え……この巣のことだよね……!?
もしかしてこの巣の女王って、キララなの?
確かに洞の中に見える蜂の巣は、まだ小規模で新しいもののように見える。
蜂の数だって、そんなに多くはない。
やっぱり最近できたばかりの巣だよね……?
キララが作った……?
「そうなの、キララ!?」
『ん~ん』
しかしキララは首を左右に振る。
どういうこと……?
じゃあ、キララがこの巣の女王を支配して眷属化した?
しかしそれもキララは否定した。
う~ん……訳が分からない。
いや、待て。
キララには謎のスキル「分裂」がある。
私自身はなんか怖かったので、コピーして使ったことはなかったんだけど、もしかしてキララはこのスキルで分身を生み出して、その分身に巣を作らせたってこと?
それがこの「キララ2」?
『ん!』
あ、これが正解のようだ。
つまりキララって、その気になれば無限に増えることができるの……?
これで各地に巣を作っていけば、蜂蜜とかの供給には困らないけど……。
というか……、
「もしかして、こういう巣は他にもある?
王都の近くとか」
『ん!』
……あるらしい。
じゃあ、王都の方でも蜂蜜を使った商売ができるかな……。
それにいざとなったら、その巣に防衛の協力もしてもらえるし。
……「分裂」、便利だなぁ。
でも、私自身は「分裂」を試してみる気は無いなぁ……。
最悪の場合、自分自身に立場を奪われたりしそうで怖いよ……。
ワクチンを打ってきたので、体調によっては明日は更新できない可能性もあります。




