1 お風呂のある生活
今回から新章です。
私達の新居だけど、それはランガスタ領都の中心部──貴族や資産家が多く住む地域に建っていた。
ラムちゃんの実家もご近所だ。
その屋敷は、豪邸と言ってもいいだろう。
王都でクリーセェ様が滞在していた屋敷に、匹敵するんじゃないかな?
それもそのはず、この屋敷って元々は王族の別荘で、クリーセェ様も一時期はここで生活していたらしい。
彼女の母親もここで暮らしていたらしいけど、今はラムちゃんの家に身を寄せているそうだ。
ちょっと前までは、暗殺の危険がかなりあったからねぇ……。
まあつまるところ、この物件はクリーセェ様に紹介してもらったものだ。
当初はキャロルさんに購入する物件の選定を頼んでいたんだけど、こちらの方が王家のコネで安く手に入りそうだったので、ここに決めることにした。
決め手は今や数十人に膨れ上がった私の眷属が、なんとか全員住めるほどの大きさというのもあるんだけど、それよりも広い浴場があるというのがいい。
そんな訳で今私は、「自然支配」で生み出した温水を湯船に溜めて、久しぶりのお風呂を楽しもうとしていたところだ。
「これがお風呂……。
あたし、始めてだ」
お姉ちゃんが、物珍しげに広い浴室を眺めている。
これまで住んでいた屋敷では、シャワーまでしか使えなかったもんね。
貧しい農家の出身では、普通は経験できない贅沢だ。
まあ……私は、王城で何度か使わせてもらったけれど……。
「このお湯に浸かるのか……」
「あ、お姉ちゃん、お湯に入る前に、身体を洗うのがマナーだよ」
「そうなのか?」
「うん、汚れたままだと、お湯も汚れちゃうからね」
……まあ、吸血鬼となった今のお姉ちゃんに、普通の人と同じような新陳代謝があるのかは分からないので、もしかしたら垢とかは無いのかもしれないけれど……。
それでも埃とかは被っているかもしれないので、それは落としておこう。
「お姉ちゃん、背中を流してあげるね」
「ああ、ありがとう、マルル」
椅子に座ったお姉ちゃんは、私に背中を向けた。
吸血鬼になってからのお姉ちゃんは凄く色白になったけど、その肌が湯気の温もりでほんのりとピンク色になっている。
くは~、うなじとか肩甲骨が、色っぽいなぁ!
でも、吸血鬼になっちゃったから、この身体はもう成長しないのかな……?
いつか私も追い抜いてしまうのかと思うと、ちょっと切ない。
「マルル……?」
おっと、手が止まってしまっていた。
「ごめん、ちょっと考え事をしていた」
「そうか……。
まあ、最近色々とあったからね……」
確かに村がオークに襲われてからは、怒涛の展開だったよ……。
それでも王位継承権の問題も片付いたし、私達も冒険者としては大成功したんだから、当面は生活にも困らない。
暫くの間は穏やかな生活を送れるだろう。
……そうだといいなぁ。
「さぁ、次はあたしがマルルを洗ってやるよ」
「うん、お願い……って、なんで向かい合っているの?」
「全部、お姉ちゃんに任せなさい!」
「ちょっ、前は自分で洗うからぁ!
ひゃあっ!!」
そう訴えかけても、お姉ちゃんは聞いてくれず、私の身体を撫で回す。
しかも素手で。
お姉ちゃんって体温が低いから、触れているところがヒンヤリとしていてハッキリと分かるので、なんだか必要以上に意識しちゃう……!
「ああ……可愛い……」
うん!?
今、胸を見て言った!?
確かに小さいかもしれないけどさぁ!
それとも、もっと下!?
ええ、まだ生えてませんけど何か!?
「あ~っ、狡い!
ご主人、私もやります!」
『同じく私もご奉仕を』
「うえっ!?」
浴室にラヴェンダとティティが入ってきた。
自由に使っていいとは言っていたけど、まさかこのタイミングで入ってくるとは……!
ちなみにティティは、まだ発声するのがやっとなので、会話できるほどではない。
だから相変わらず「念話」を使っている。
「いいよ、みんなでマルルを可愛がろう!」
「洗うんじゃなくて、お姉ちゃん!?」
その後、3人がかりでもみくちゃにされたけれど、ラヴェンダやティティがのぼせたのは、自業自得だと思う。
まあ、お姉ちゃんは平然としていたけど……。
さすが吸血鬼……。
あれ?
私も平気だったけど、吸血鬼レベルの存在ってこと?
「材料が足りないんですか?」
「そうなのよ、リップクリームや飴が好評でね。
材料になるキラービーの蜜蝋や蜂蜜が足りないのよ」
領都の屋敷に引っ越してから暫くして、キャロルさんがそんな相談を持ちかけてきた。
ああ、在庫は結構あったはずだけど、ランガスタの領都は、前にいた町よりも大きいから、需要も多いのか。
「う~ん、キラの巣はそろそろ冬眠に入っちゃうから、そこから取るのもなぁ……。
このランガスタ領はあそこよりも南だから、この地域のキラービーなら冬眠しないかも……。
でも、この辺にいるのかな……?」
「じゃあ、キラービーのことは、キラービーに聞いてみたらどうかしら?」
ああ、キララなら知っているかも。
『キララ、どうかな?』
『ん、ある!』
あるらしい。
じゃあ、キララと近くの森へ行ってみようか。
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