幕間 王都の人々2
クレアの場合。
私はミーヤレスタ様お付きの侍女、クレアです。
クレセンタ?
誰ですか、それ?
「お姉様~」
「ミーヤレスタ様、私のことは、クレアとお呼びくださいと、何度言えば分かるのですか」
「え~? おかしい!
お姉様は、お姉様なの」
私がもう死者で、今も存在しているのは異常なこと──その事実は、まだ幼い妹にとっては受け入れがたいことのようです。
だけどいずれは納得してもらわないと、困りますね……。
「それで、どうしたのですか、ミーヤレスタ様?」
「あのね、タルスったら酷いなの」
と、妹は第3王子タルスに対しての、不満を口にします。
腹違いとは言え、今や2人は実の姉弟も同然です。
タルスの実母である王妃ナスタージャ様が、そのように育てているのですから。
私の生前は、ナスタージャ様のことが怖いと思っていましたが、それは見た目だけで、実際にはお優しい方だったのですね。
これはマルル様に教えていただくことが無ければ、今も気付かなかったことかもしれません。
さて、妹はタルスの何が不満なのかというと、タルスが彼女のことを、姉として扱ってくれないことについてのようです。
タルスは少々やんちゃなところがあるので、同い年の女の子を相手にした時、少々侮ってしまう傾向にあるようです。
最初はマルル様に対してですら無礼を働いたらしいので、恐れ多いことですね……。
しかしタルスは、何日かに1度、魔法と剣技の教師として訪れるカトラ様とエルシィ様には比較的従順なので、さすがに大人の実力者に対しては強く出られない様子。
つまり妹がとれる対策と言えば──、
「それは……ミーヤレスタ様が、王女としても、人間としても立派になるしかないですね。
折角マルル様から力を与えられているのです。
それを正しく使いこなせるように、勉強を頑張りましょう」
「え~!?」
勉強は楽しいことではありませんが、これも王族としての務めです。
それに魔法の講師をしていただいているカトラ様は、おそらく国内でも1~2を争うほどの偉大な術者。
そんな御方に師事を受けるなんてことは、またとない機会ですからね。
私も妹に付き合って習っていますが、勉強になります。
「さあ、参りましょう。
今日もカトラ様の授業がありますよ」
「……は~い」
私は妹の手を引いて、指導を受ける為の部屋へと向かいます。
……こうして再び妹と手を繋いで歩ける──一時はもう2度とできないことだ思っていました。
これもマルル様のおかげですね。
だから妹が一人前になった暁には、マルル様の下で働いてこの大きな恩を返したいと思っております。
その為には私自身も、沢山学んで力を付けなければなりません。
……ふふ、死んでからの生活の方が充実しているなんて、おかしな話ですね。
クリーセェの場合
私はクリーセェ。
トガタン王国の第3王女であり、次期国王の最有力候補なのじゃ。
それだけに最近は、国王の仕事の一部を、私に任せてもらえるようになっておる。
そのはずなのじゃが……。
「──と、このようにしてはどうでしょう?」
「うむ、ジュリエットに任せる」
「では、そのように」
私はジュリエットとその護衛のエレンが、部屋から出て行くのを見送った。
ジュリエットはとある施策について案を出し、それを自らで実行する為に動き出す。
私がしたのは、彼女に許可を与えることだけじゃ。
「優秀ですね、彼女は。
さすがはマルル様が選んで、我々に預けてくれた人材だ」
ラムラスはそう言うが、優秀すぎるような気がするのぅ……。
「政治のことでは、あやつには敵わぬ。
将来の宰相候補じゃろうな。
……私、必要かの?」
政治面では、正直言って私の出番が無いのじゃ……。
「こ、国王はどっしりと構え、人材を適切に使えば良いのです。
それに姫様には、たぐいまれな剣の力があります!」
剣の力とは言っても、確かにこの国の剣士の中で私は、父上と並んで五指に入るという自負があるが、他の三指は全員マルルの仲間なのじゃ。
ラムラスとエルシィは、私と同等かそれ以上の実力を持つ。
そしてマルルの姉だと言うアルルには、もう勝てる気がせんのぅ……。
剣士という枠組みの中ですらこれじゃ。
その枠組みを外すと、私が十指に入ることができるかどうか、それすらも怪しくなる。
しかもその十指が、ほぼマルルとその仲間で占められることになるのじゃ……。
「もう実質的に、マルルにこの国を乗っ取られてやしないか?」
政治の領域には、ジュリエットがかなり深い所まで食い込んでいる。
義母上や姉上、ミーヤレスタは既にマルルの眷属らしい。
そして──、
「マルル様に、そのような野心はありませんよ」
目の前のラムラスもそうじゃ。
もうこの国の中枢は、いつでもマルルに掌握されてもおかしくない状態にあると言えるのじゃ。
「本人はそうじゃろうな。
私にも対等な立場から、間違った方向へ進まないように意見して欲しいと、よう言うておる。
じゃが、周囲が望めば、状況は違ってくる……」
実際、マルル達がやったことで、この国と民は、かなり救われておる。
魔王候補の討伐もそうじゃが、ついでに兄上達と繋がりがあった犯罪組織や悪徳貴族の排除に動いてくれたおかげで、国の治安が劇的に良くなり、国政も安定した。
マルルをトップに国を動かした方が良いのでは……と、私ですら思い始めている。
「そうだとしても、あの御方は他の者に任せるでしょう。
面倒事を嫌うので……。
ただ、そう言いつつも、人に任せたからには支援だけはしっかりしてくれるのですから、責任感は強いのだと思いますがね。
だから姫様は思う存分、マルル様からの支援を受けるべきだ」
「……そうか」
私はマルルから、「王」という役割を任されたのか。
ならばその期待に応えるべく、私もやれることはやらなければならないのぅ……。
「ラムラス、剣の稽古に付き合ってくれるか?」
「勿論でございます」
まあ、今の私には、剣を振ることくらいしか無いがな。
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