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幕間 王都の人々1

 ※今回と次回は複数人が主役となります。

国王の場合


 余はトガタン王国の国王じゃ。

 今宵(こよい)は静かじゃのぅ。


 だが、少し前まで、夜は騒がしかった……。

 姿こそハッキリとは見えんが、何者かが毎晩のように我が寝所(しんじょ)へと忍び込んできたからのぅ……。

 あれはゴーストという、死者が化けた魔物じゃろうか?

 まあ、余が闘気を込めて威嚇すれば、あっさりと退散したが、安眠できぬ日々が続いた。


 だから教団の術者を呼び寄せ、対策を命じたこともあるのじゃが、そういう時に限ってゴーストは現れぬ。

 まるで最初から、天敵の術者がいることを分かっているかのようじゃった。


 それでもゴーストが現れぬのならば、教団の者を常駐させればそれで平穏じゃ。

 だがそれは、上手くいかなかった。

 彼らは食事や睡眠などを理由に持ち場をはなれたが最後、そのまま行方不明になってしまったのじゃ。


 それは騎士を護衛に付けても、同様じゃった。

 騎士達が一瞬目を離した隙に、教団の者は消えてしまったと報告を受けておるが、それが事実なのかは分からぬ。

 その騎士達が、拉致実行犯だという可能性もあるからのぅ……。


 いずれにしても、数人の行方不明が出た時点で、教団も人員の派遣を拒否するようになってしまったのじゃよ……。

 余も行方不明になってしまった者達の安否も確認できない状況では、派遣を強要することはできぬしのぅ……。


 ……この事態は、何者かがゴーストを操る者と結託して、暗躍しておるのやもしれぬな……。


 怪しいのは第2王子エルナスと、第2王女クレセンタの派閥の者じゃが……。

 特にクレセンタは、最近になって急に人が変わった。

 余も警戒して、なるべく我が身に近づけさせないようにしておったのじゃ。


 しかしクレセンタらが犯人だという証拠を見つけることもできず、しかも我が寝所に訪れるゴーストの数が徐々に増えていく……。

 いつか余は、どうにかなってしまうかもしれぬと、不安に思っておったのじゃ……。

 そんな日々が続いておったが、今夜になって変化が訪れた。

 

「誰か──?」


 余が呼びかけても、誰も答えない。

 周囲は完全な静寂に、包まれておった。

 だが、誰かがいるような気がするのぅ……。

 事実、つい先程までいたゴースト達が消えた。


 何処かへ去ったのではない。

 まさに唐突に消滅したのじゃ。

 これは何者かによって、ゴーストが倒されたのではないか──余はそう直感した。


 しかしその者の姿は見えないどころか、気配も感じぬ。

 それでいて、ゴースト達からは感じていた害意も無かった。

 ならば余は、その何者かに感謝して、安眠を(むさぼ)ろうではないか。


「感謝する」


 余は礼を述べ、ベッドに向かおうとしたその時、何者かと目が合ったような気がした。

 周囲には何者の姿も見えぬが、そう感じたのじゃ。


 同時に、何か精神に干渉してくるような力を感じる。

 睡眠不足が続いていた余でも、まだなんとか抵抗は可能だと思うが……。

 そして──、


「第2王子と第2王女は信用できない。

 その言葉を一切聞くなとは言わないが、対立する者の声も聞き、公正に判断せよ」


 という声が聞こえてきたのじゃ。

 王に命令とは、なんたる不遜。

 

 じゃが、その言葉自体は、余も同様に考えていたことで、否定する理由も無い。

 むしろこれは、国の行く末を想っての忠言だと言えよう。

 それに声からは害意も感じぬし、従っても構わぬような気がするのぅ。


 結果的に余は、その精神に干渉する力を、半ば受け入れてしまった。

 すると、謎の声は──、


「それと、マルルという可愛い()に会ったら、最大限に配慮してあげて。

 とってもいい娘で、クリーセェ様の友人だから」


 と、続けた。

 ……なんと?


 訳が分からなかったが、その時の余にはもう、抵抗する力を失っていた。

 ……まあ、良いか。

 今晩からはゆっくり眠れそうじゃ。

 それと引き換えならば、多少の願い事は聞き入れてやるわい……。




アイーシャの場合

 

 (わたくし)はアイーシャ。

 教団では「聖女」の(くらい)を、賜っているのでございます。

 

 ……もう聖女、辞めましょうかね?


 この王都には、女神様の使徒であらせられるマルル様が、おられないのでございます。

 勿論、マルル様が拠点としているランガスタ領には、転移魔法で行き来することはできますが、あまりにも遠いので、気軽にとはいきません。

 最低でも教団のお仕事を、丸1日はお休みしなければならないのですよ。


 マルル様も数日おきに王都へ来訪されますが、必ずしも私とお会いになるわけでもなく……。

 私にはマルル様と会えない時間が、永遠にも感じるのでございます。


 ああ……早くあの小さく柔らかな身体(からだ)を、抱きしめたい。

 甘い体臭を鼻腔一杯に吸い込み、きめ細やかな肌を舐め、それから……それからぁ……!!


 うう……マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様、マルル様────。


 …………ふぅ。

 

 いっそランガスタ領への転属願を、出してみましょうかね……?

 それが駄目ならば、聖女の地位も教団も捨てても構いません──と、上層部を脅してみましょう。


 私がいるべき場所は、使徒マルル様の(そば)──。

 それ以外の場所は無価値なのですよ。

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