28 魂の消滅
『クアアァァァァァァァァ──!!』
アイーシャさんによる「大浄化」を受けたアークリッチの身体は、ボロボロと崩れていく。
だけど、それで終わりではなかった。
中から本体である死霊──レイスが現れたのだ。
巨大な霊体であるレイスは、「大浄化」の光を弾き返そうとするかのように、大きく膨らんでいく。
そして──、
『いい加減にしろ、小虫どもがぁぁぁ──!!』
レイスの身体が、強い衝撃を伴って破裂した。
いや、数え切れないほどの分身へと、分裂したのだ。
その衝撃で「大浄化」は霧散する。
そこから自由になったレイスの分身達は、自らが弾丸のような速度で飛び散り、私達に襲いかかってきた。
「くっ!!」
私達もとっさに反撃したけど、数が多すぎる。
レイスの分身は私達からごっそりと魔力と生命力を奪ってから、再び融合して元のレイスの姿へと戻った。
これまでに彼が受けたダメージは、ほとんど回復されてしまったか……!
ただ、私達も受けたダメージは、もう言わなくてもクレセンタ様とアイーシャさんが回復してくれているので、問題なく戦闘は継続できる。
『できるだけ魔法中心で攻撃して!!』
と、私は仲間達へ、「念話」で指示を出した。
不定形のレイスに物理的な攻撃を加えても、再び元の形に戻るだけだ。
けれど精霊であるクレセンタ様は魔法が弱点みたいなので、レイスも同様であると判断した。
おそらく霊体というある種のエネルギーの塊は、魔法というエネルギーの塊に干渉を受けやすいのではなかろうか?
たとえが適切なのかは分からないけど、水と泥水が混ざり合ったらもう元には戻せないように、レイスの身体に不純物──別のエネルギーを混ぜたら、身体の正常な状態を維持できなくなる──とか。
しかし魔力や生命力は、霊体にとっての食料のようなものらしいので、それを直接ぶつけては駄目だ。
だけど魔法という属性を変化させたものならば、霊体はそれを簡単には吸収できないらしい。
つまり消化不良で腹痛を起こす感じかな?
私達の魔法により集中攻撃に、レイスは魔法で反撃してくるけど、こちらには回復と防御魔法の担当がいるので、誰も倒れることはなかった。
一方のレイスは、再び分裂して私達から魔力と生命力を奪おうとしても、それは警戒しているので、もう回復はさせない。
分裂する気配があったら、強めの攻撃を撃ち込むからね!
結果的にレイスは、徐々に追い詰められていく。
むしろ私達からの総攻撃を受けてもなお、まだ消滅していないのだからさすがは魔王候補と言うべきかな?
とはいえこのままでは、レイスが消滅するのは、もう時間の問題だろう。
何か奥の手があるのならば既に使っているはずだし、私も油断や傲りにつけ込まれて、この状況を逆転されるつもりは無い。
誰かが死ぬのは嫌だからね。
そろそろかな──?
『くっ!』
予想通り私達の攻撃に耐えかねたレイスが、床に潜り込む。
『一応、床からの攻撃に注意して!』
レイスが床下から攻撃してくる可能性はある。
しかしあいつには、もうそんな余裕は無いだろうね。
だから狙うのは──、
「やっぱり!!」
クレセンタ様の遺体のところに、レイスが現れた。
彼女の遺体にはレイスの分身が取り憑いていた為、分身を倒した後も念の為に「聖域」で閉じ込めていた。
そのおかげで「混沌の奔流」を受けても、なんとか無事に遺体が残っている。
レイスは再びその身体に取り憑き、アークリッチとして復活するつもりなのだ。
だけど──、
『なっ!?』
レイスが取り憑く前に、クレセンタ様の身体が動き出した。
こうなることを予見して、事前にクレセンタ様本人を取り憑かせたのだ。
つまり今はクレセンタ様の方が、肉体を得たアークリッチである。
「もう、私の身体を、自由にはさせません!!」
と、クレセンタ様は、「大浄化」の魔法をレイスに向けて放った。
『ギィアアアァァァ──!!』
レイスの半身が、「大浄化」の光に飲み込まれる。
だが半分は回避された。
あれでは倒し切れない。
だけどここに至って、ようやくレイスは逃走を選択したらしく、その場から姿がかき消える。
これは「転移」したかな……?
まあ、できていないと思うけど。
私も城の上空へと転移する。
うん、やっぱりレイスがいる。
『な、なんだこれは!?』
「あんたを逃がさないように作った、『結界』だよ」
こんなこともあろうかと!
アイーシャさんに頼んで教団の術者を大量動員し、城の周囲に待機させていた。
そしてレイスが逃げそうになった頃合いを見計らって「念話」で指示を出し、広範囲の「聖域」を張り巡らせておいてもらったという訳だ。
レイスはこの「聖域」に邪魔されて、「転移」に失敗したことになる。
まあ、まだレイスに余裕がある時に広範囲を覆う魔法を使うと気付かれる可能性があったので、指示を出すタイミングを間違えたら無駄に終わる可能性もあったけど、どうやら上手くいったようだ。
「逃げるのなら、正体がばれたタイミングにすれば良かったんだよ。
相手が人間だと思って、舐めていたからこうなる。
今はもう、この『結界』を破る余力は、あんたには無いでしょ?
死んでからも充分に生きたんだろうから、いい加減ここで終わろう?」
『こっ……この……!!
人間があぁぁぁ~っ!!
新たな魔王になるはずの偉大なる存在に、ここまでの侮辱を~っっ!!』
「魔王の何が良いのか、私には理解できないよ。
友達のカプリファスも、面倒くさいから断ったって言うし。
あ、さっきまで本人がここにいたんだけど、それに気付けないようじゃ、魔王なんて無理だよ?」
『な……!?』
レイスから愕然としたような気配が、伝わってくる。
本来ならカプリちゃんによって、問答無用で倒されていた可能性に思い至ったのだろう。
そしてそろそろカプリちゃんも、城内の人間の避難を終えて戻ってくるはずだ。
そうなれば、どうやってもレイスに勝ち目は無い。
まあ、今更カプリちゃんに頼るまでも無いけれど。
私は最大の攻撃を発動させる為に、魔力を高めた。
それに反応したレイスは、身を大きく震わせ──、
『おっ、おのれぇぇぇ~っ!!』
そして破れかぶれになったのか、私に向かって飛びかかってくる。
そんなレイスに対して私は、「火炎息」を吐きかけた。
当然「属性付与」で、「聖」属性を付与してある。
『がっ……!!
こ、こんな所で、我が……!!』
聖なる炎に飲み込まれたレイスは、その魂の根源から完全消滅した。
……これで王国での事件は、終わりかな?
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