26 死者の王の出現
「あっ、あっ、あ……あ……あぁぁ~……」
第2王子の身体を取り込んだレイスの本体は、そのまま肉体へと吸い込まれていく。
すると第2王子の身体は精気を抜かれたらしく、痩せ細ってミイラのようになってしまった。
あ~……あれは完全に死んでいるなぁ。
第2王子には法の裁きを受けさせ、国民の前にその罪を詳らかにしてもらった上で、刑を受けてほしかったんだけどね……。
でも王家としてはこの方が、病死かなにかとして処理できるので、都合が良いのかもしれないけれど……。
勿論それは、王室のイメージに傷か付かないということもあるのだけど、王族としても自らの家族を処罰しなくても良くなったので、気は楽だろう……。
「うぬぅ……我が手で斬り伏せてやりたかったのじゃが……!!」
気は楽にはなってないんですか、クリーセェ様……?
ともかく第2王子は死んだ。
だが、レイスとしては健在だ。
いや、あれはまさに死体へレイスが取り憑くことで生まれた怪物──アークリッチだ。
しかもアークリッチは、これまで分身を取り憑かせていた者達からも、精気を吸収し始めた。
この為に呼び寄せたというの!?
数十人の生命力を吸収したアークリッチが纏うオーラは、先程よりも大きくなっている。
その上、生命力を吸い尽くされて命を落とした者達が、ゾンビとして動き出した。
ここで死者の軍団を、復活される気なの!?
これはいけないなぁ……!
「カプリちゃん、あいつを人気の無い王都の外へ転移させられる?」
「はーい!
…………駄目でーす!
抵抗されましたー!」
カプリちゃんで無理なら、誰がやっても無理だな……。
それなら……。
「カプリちゃん、この城にいる人達を城外へ避難させて。
国王様や王妃様、王女様達もお願い!」
「ちょっ、待て!
私は残るぞ!」
クリーセェ様がそう声を上げた瞬間、カプリちゃんは、
「分かりましたー」
と、言い残して、国王たちを伴って転移した。
クリーセェ様は残っている。
「一緒に避難した方が安全だったのに……」
「何を言うのじゃ!!
国の危機に、次期国王が何もせずにおられるものか!」
でも、クリーセェ様に何かあったら、それはそれで国の危機だと思うんだけど……。
まあ、その場合は弟妹に期待……ってことになるが、クリーセェ様ほど王者の才覚があるのかというと微妙なので、なんとしても彼女は守らないとなぁ。
それだけに、ここでカプリちゃんが抜けるのは痛いけれど、城内にいるであろう数千人もの人間を、短時間で避難させる能力を持つ者は他にいないからなぁ。
それにいつまでもカプリちゃんを頼ってもいられない……と言いたいところだけど、危なくなったら遠慮無く召喚しよう。
使えるものは使うのが、私の流儀!
「クレセンタ様、『守りの風』を全員にっ!
アイーシャさんも、『聖域』を!!」
『は、はい!』
「承知でございます!」
クレセンタ様が持つこのスキルを使えば、防御力の上昇は勿論、生命力を奪う「吸収」にもある程度対抗できる。
これは私自身を実験台にして、効果を確かめた。
そしてアイーシャさんの「聖域」ならば、すべての攻撃を一定のダメージだけ肩代わりしてくれる。
これでアークリッチと、接近戦を行うことも可能だろう。
まあ、まずは遠距離からの、魔法攻撃で戦うけどね。
まず私は「聖光」による全体攻撃で、ゾンビを駆逐。
これでアークリッチとの戦いだけに、集中できる。
『おのれぇ……!!
尽く、我が邪魔をしおってぇ……!!』
怒りを露わにするアークリッチは、呪文の詠唱を開始する。
基本的に魔法を使用する際に詠唱はいらないんだけど、詠唱することで威力や性能をあげることは可能だ。
アークリッチほどの強大な存在が詠唱を必要とする魔法──それを考えると、あれは撃たせてはいけない。
「みんな、止めてっ!!」
私の号令を受けて、みんなが「大浄化」でアークリッチを攻撃する。
まあ、クリーセェ様は私の眷属ではないので、「大浄化」を「下賜」できない所為で使えないし、元々魔法職ではないエルシィさんやラムちゃんが使用しても効果は弱いけれどね……。
いや……それだけじゃないな……。
アークリッチは実体を持っている所為か、いまいち「大浄化」の効きが悪いように見える。
肉体の奥底で、核となる霊体を守っているのだろう。
これは身体を破壊してからの方が、効果的かな?
それならば、カプリちゃんからコピーした「属性付与」で、みんなの物理攻撃に「聖」属性を付与して──ああっ、間に合わない!!
アークリッチの呪文詠唱が終わるっ!!
私も「聖域」使って、効果の重ねがけだ!!
その次の瞬間──、
『混沌の奔流──っ!!』
爆発的な力の流れが、私達へと押し寄せてきた。
今日は間に合ったけど、明日は執筆時間が殆ど取れないので、更新できるかどうか……。




