22 因縁を斬る
クリーセェ様の身柄を賭けて、ラムちゃんは仇敵とも言える男と決闘をすることになった。
「勝手に賞品にされましたけど、良いので?」
「構わん。
ラムラスが負けるはずもないしな!」
だろうね。
私の眷属の中でも、ラムちゃんと戦って確実に勝てそうなのって、カプリちゃんとお姉ちゃん、あとはクルルとキララだけかな?
私は状況次第。
接近戦だと少し厳しいかも。
そんなラムちゃんに戦いを挑まれたブジアルド侯爵家の長男・ガルカランとやらは、どうするんだろうね。
彼が請け負っているクリーセェ様を捕縛するという任務は、最早この決闘で勝つことでしか達成できないだろう。
ただ彼も、ラムちゃんが毒入りの風呂で弱っている時に襲撃したという、彼女から恨まれても当然のことをやらかしているので、負ければ殺される──という自覚はあるんじゃないかな。
お、男が1人、前に出てきた。
あれがガルカランかな?
ラムちゃんと同じ騎士学校に通っていたらしいから、彼女とはそんなに年齢は離れていないと思うけれど、無骨な顔付きの所為で10歳以上は年上に見える。
見た目だけなら強そう……というか偉そう。
それだけに大勢の部下の前で、逃げ出すような真似はできなかったようだ。
騎士にとっての誇りは、命を懸けてでも守らなければならないものらしい。
そしてだからこそラムちゃんは、彼によってかかされた恥をすすごうとしている。
「よくぞ出てきた、ガルカラン。
今度こそ正々堂々と、勝負をしようじゃないか!」
「何が正々堂々だ、逆賊の狗が!!
正統な王位継承者のエルナス殿下を、これ以上邪魔することはまかりならぬ!」
う~ん、ガルカランは第2王子が、正統な王位継承者だと本気で思っているのかな?
確かに第1王子が既に亡くなっている今、生まれた順番で言えばそうなのだろうし、クリーセェ様も母親が平民なので、血筋に問題はあるのかもしれない。
だけど現国王がそういうことで後継者を決めないとしているので、第2王子派の主張は通らないのだ。
だけど彼らは自身が正しいと信じており、そして正しいことの為ならば、何をやっても許されると考えているのだろうか。
それはテロリストの考え方と同じで、王者とその側近には相応しくないなぁ……。
「貴様の戯れ言を聞くつもりは無い。
さあ、剣で語ろうぞ!」
「ぐぬ……!」
ラムちゃんが剣を構え、ガルカランがそれに倣う。
2人はそのまま対峙し、お互いに動かない。
……というか、ラムちゃんは余裕を持って構えているだけなのに対して、ガルカランは動きが小さいので分かりにくいが、攻めようとしては踏みとどまる……という行為を繰り返しているようだ。
彼にはラムちゃんに付け入る隙が、見つけられないのだろう。
「く~~~っ!!」
やがてしびれを切らしたガルカランは、力任せにラムちゃんに斬りかかる。
……が、それはあっさりとラムちゃんの剣で、弾かれた。
それでも構わず、彼は連続で剣を打ち込み続ける。
まるで竜巻のような連撃──。
それでもラムちゃんは、その攻撃のすべてを、余裕で受け止めている。
やはり実力差は、一目瞭然だね。
「惜しいな……。
学生時代は、ここまで実力差は開いていなかったはずだが……。
権力闘争にかまけて、剣の修練を怠ったか……!」
「ふざけるな、伯爵家風情がっ!!」
そこで家柄を出すとか、酷い負け惜しみだなぁ。
実力では勝てないって、自分で言っているようなものだ。
で、こういう家柄とかの大きな権力に頼るタイプは、結局は勝利さえすれば体裁なんていくらでも誤魔化せる──そう思っているんじゃないかな?
下の者達を力で黙らせれば、それで済むと考えているからだ。
そして1度卑怯な手段に頼った者は、その後も頼る。
ガルカランがいきなり後方に飛び退き、その瞬間に爆音が響き渡った。
「な……!?」
だが、予想外だという顔をしたのは、ガルカランの方だった。
今し方飛び退いて距離が離れていたはずのラムちゃんは、彼に肉薄して剣を振り下ろしている。
「ある意味、期待を裏切らなかったな……!!」
「な……何故……!?」
ガルカランは着込んでいた鎧ごと、胸から腹を大きく斬り裂かれていた。
そしてそのまま傷口と、口や鼻から大量の血を溢れさせて、地面に倒れ伏す。
「ありがとうございます。
おかげで雪辱を果たせました」
「いやまあ、当然だし。
でも私の助けなんてなくても、大丈夫だったよね……」
『ううん、助かったよ、ママ!』
ラムちゃんは念話で私にだけ答え、それから背後で魔力障壁を張っている私へと向き直って頭を下げた。
ガルカランが追い込まれたら卑怯な手を使うのは予想していたけど、案の定騎士の中に紛れていた魔術師がラムちゃんに魔法攻撃を仕掛けてきたのだ。
それを転移した私が防御して、その隙にラムちゃんがガルカランへとどめを刺した──という訳だね。
で、攻撃してきた魔術師はというと──、
「ご主人、仕留めましたー!」
「ご苦労様。
さすがは私自慢の、眷属だよ」
「わふぅ」
ラヴェンダが片付けてくれたので、ご褒美に彼女を撫でてあげる。
そう、さすがに誇り高き騎士の決闘を邪魔した奴を、生かしておく理由は無いから消えてもらった。
それにこれは、騎士達への牽制にもなる。
実際、今のラヴェンダの攻撃に反応できた騎士は1人もいなかったから、実力差というものが嫌と言うほど理解できたはずだ。
さて、残った騎士達はどうしよう……。
……「女体化」の刑……は、さすがに数が多いな……。
彼らの処分は後にして、王妃様に解散命令でも出してもらおうかな?
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