17 深き森の奥で
私達は森の奥へ進む。
クルルに乗って道なき道を進んでいると、かなり揺れるので、ちょっと酔いそうだ。
まあ、適度な頻度で魔物に遭遇するので、それが休憩みたいな形になる為、実際に酔うことはなかったけれど……。
そしてクレセンタ様は──、
『うう……こんな可愛らしい子を、倒すのですか……!?』
まだ戦いに慣れることはなかった。
今も大型犬ほどもある巨大兎を相手に、尻込みしている。
いや、確かにモフモフで可愛いけどさぁ。
でも、あれだけ大きな兎に噛まれたら、人間でも余裕で死ねる。
油断してよい相手ではないことは、間違い無いのだ。
まあ……霊体のクレセンタ様には物理攻撃なんて効かないし、敵ではないのだけどさ。
「それでは死なせないように、『吸収』の力を抑えるように触ってみましょう。
力のコントロールができるようになれば、人間にうっかり触っても大丈夫になります。
妹さんとも、もっと近くで語らえるようになりますよ」
『は……はい、やってみます!』
クレセンタ様は、妹の為に頑張る気になったようだ。
しかし──、
『ああっ、死んじゃいましたーっ!?』
「あ、じゃあ収納して、あとで売りますねー」
どうにも上手くいかないらしい。
そういえばステータスでも、「器用」と「運」の数値がレベルの割には低かったもんなぁ。
つまりドジっ娘姫か。
う~ん……じゃあ私も、「吸収」のスキルを試してみようかな。
生命力や魔力を繰り返し与えたおかげか、クレセンタ様とも親密度が100%になったので、もうスキルはコピーできるし。
で、私が「吸収」を使いこなせるようになれば、クレセンタ様にコツを教えることができるようになれるかもしれない。
幸い実戦相手の動物や、魔物は沢山いるしね。
……とはいえ、遭遇頻度が多すぎるような気がする。
「なんか、魔物とかが多くない?」
「そうですねぇ……。
王都にも冒険者は多いですから、もっと駆逐されていると思いましたよ」
ラヴェンダも同じ感想を持ったようだ。
ふむ……ちょっと「万能感知」の範囲を広げて、確認してみるか……。
どれどれ……?
「あれっ!?」
「どうしました、ご主人!?」
「森の奥の方に、物凄く多くの反応があるよ……。
感知できる範囲だけでも、数百くらい……。
これ……もしかして、レイスの配下……?」
「つまりそいつらに追いやられて、動物や低級の魔物が森の浅い所に出てきたってことですか?」
「たぶん、そういうことなんじゃないかなぁ……?
みんな! 『完全隠蔽』で姿を隠して、偵察に行くよ!」
「はい!」
『は、はい』
さて、クレセンタ様は、「完全隠蔽」をちゃんと使えるかな?
まあ、元々クルルが習得した「透明化」を改良して作ったスキルだから、動物でも使える簡単なスキルではあるはずなんだけど……。
お、消えた。
霊体だけあって、こういうのは得意らしい。
『それじゃあ行くよ。
これからは「念話」で連絡を取り合うね。
スキルを併用できない物は、答えなくていいから』
そんな訳で、私達は森の奥へと向かった。
お互いの姿は見えないので、クレセンタ様以外は身体の一部に触れながら進んでいく。
途中でクレセンタ様がはぐれそうになったけど、私には『百合』の力なのか、スキルに頼らなくても近くにいる眷属の位置はなんとなく分かる。
なので、はぐれそうになったらその都度、『念話』で指示を出して軌道修正させた。
そして「万能感知」に反応があった場所に、辿り着いたが……。
『何もいない……?』
反応があるのに、何も見えない。
まさか私達のように、『完全隠蔽』を使っている?
それとも虫のように小さくて見つけられない……というのは、そもそもキリがないので感知には引っかからないようになっているし……。
その辺の蟻とかにいちいち反応していたら、使い物にならないからね。
『ご主人、地面に掘り起こしたような跡があります!
それにちょっと、変な臭いがします……。
地面の下にいるのでは?』
ラヴェンダが異変を見つけた。
落ち葉に隠されていてちょっと見つけにくいけれど、確かに不自然に土が湿っていると感じる場所がいくつもある。
う~ん、敵に感づかれるかもしれないけど、確認してみるか。
いっそ土の中から出てきてくれた方が、対処しやすいし。
『みんな、ちょっと下がっていてね』
私は自然操作を使って、何かが埋まっていそう場所を掘り起こしてみる。
すると──、
「え……」
何か白くて丸い物が出てきた。
更に深く掘り起こすと、その正体が分かる。
それは、人・骨!
最初に見えたのは、頭蓋骨の頭頂部だったのだ。
「ほぎゃあぁぁぁぁぁ~っ!?」
私の口から、思わず悲鳴が漏れる。
だから私、こういうホラーなのには弱いんだって!!
当然その悲鳴に反応して、埋まっていた人骨──スケルトンって言うのかな?
そいつの他に、腐肉を纏ったゾンビ達が地上に這い出てきた。
それも数十──あるいは数百と。
『あひゅぅ……』
あっ、霊体なのにクレセンタ様が気絶した!?
ある意味仲間みたいなものでしょ!?
ああいうのを見ると、少し冷静になるな……。
それでも逃げだしたいという気持ちは、私にもあるけれどさ……。
でも、逃げる訳にはいかない。
この死者の群れが王都になだれ込んだら、大変なことになる。
ただでさえ内部にレイスと第2王子という敵を内包しているのだし、これを機に内乱でも起こされたら目も当てられない。
「ラヴェンダ、クリーセェ様に報告を!!
そして援軍を呼んできて!!」
「ご、ご主人は!?」
「私はここで、こいつらを食い止める!!」
可能ならば殲滅だ!!
体調が微妙で、執筆が捗らない……。




