11 村の危機
今日もお付き合いくださいませ。
私達はすぐに下山して、両親にオークのことを報告した。
おそらくあのオークは偵察が役割で、本隊は山の何処かに潜伏していると思われる。
彼らが村を見つけるまでには、まだ少し時間の猶予があるはずだ。
だけどひとたび村が見つかれば、オークは村を襲うだろう。
魔物は人間を餌とする場合が多いらしいが、更にオークには雌が存在せず、他種族の雌を襲って子供を産ませるという。
最悪だ!
私達の貞操も危ない!
そんな訳でこの村の危機には、迅速な対応が必要になる。
お姉ちゃんがオークの首を切り取って持ち帰ったので、その出現を疑われるようなことはなかったけど、それでも両親は「信じられない」という顔をしていた。
そりゃあ、村が滅びるかもしれないとなれば、現実逃避をしたくもなるだろう。
それでも事態は一刻を争う。
すぐに村長にも報告して、対応が話し合われることになった。
まず、領主に助けを求める──これは決定事項だ。
ただし、領主がいる都市までは距離が離れていて、報告を入れるだけでも3~4日はかかる。
それから領主が騎士団を招集して、村に派遣するまでに更に数日。
オークの襲撃には、間に合わない可能性が高い。
しかし村から逃げるという選択肢も、難しいという。
私達は貧乏で、他の土地で生きていく為の財産が無いからだ。
逃げた先の土地には、住む家なんて無いから、ホームレス生活が確定してしまう。
勿論、お姉ちゃんみたいに強いギフトを持っていれば、働く先はすぐに見つかるかもしれないけれど、そういう人はそんなに多くはないという話だ。
だから逃げてもたちまち生活が立ちゆかなくなって、最終的には飢え死にするか、奴隷商に身売りして家畜扱いを受けてでも生きるか……。
そんな結末を受け入れる覚悟が必要だ……が、今の生活を捨てて、それができる人がどれくらいいるのだろうか?
もしかしたらオークが来ないなんて可能性も、あるかもしれないし……。
そもそも我が家のように領主から土地を借りている世帯は、その土地を守る義務があるらしく、逃げると犯罪者として手配される可能性もあるという。
まあ、この世界には写真とかは無いので、ちょっと変装して偽名を使っていれば、いくらでも誤魔化せるのかもしれないけれど、もしも何処かで素性を疑われるようなことになったら、面倒なことになるかもしれない。
結局村民の多くは村に留まって、万が一に備えるという方針になるようだ。
うちの両親もそう。
となると、私達姉妹だけが逃げる訳にもいかない。
最悪、オークと戦って死ぬかもしれないのに……。
私はまだ死にたくないから、やれることはやっておきたいと思う。
「お姉ちゃん、落とし穴を沢山掘った方がいいと思うんだ。
だけど私達だけじゃ、人手が足りない」
「そうだね……。
それで1匹倒しているから、有効かも。
私から村長にかけあってみるよ」
お姉ちゃんは村で1番強いから、発言権はそれなりにあるはずだ。
私も『百合』のギフトがあるから、村の女性陣に声をかけてみよう。
オークが襲撃してくるとしたら、夜の可能性が高い。
魔物は日光を嫌う性質があるらしいので、だから夜までが勝負だ。
結局、落とし穴は、十分な数とは言えないが、そこそこの数が作られた。
村は柵によって囲まれていて、その外側に畑が広がっている。
残念ながら、その畑を守る余裕は無いので、柵の内側に落とし穴を作った。
つまりオークが柵を乗り越えてきたら、そこに落ちてもらおうという訳だ。
そしてオークが穴にはまったら、待機していた村人の複数人が、木材を削って作った簡易的な槍や農具などでトドメを刺す──そういう作戦である。
私達はその為に近くの家に待機して、落とし穴を監視する予定だが、まだ夜までには時間があるので、家で昼寝をして襲撃に備えることにした。
夕方になれば所定の場所に集合して、対応する手はずになっている。
ただ、落とし穴は、あのオークを発見した山の方に面した場所に集中的に作られている為、別の方角から攻め込まれたら、あっさりと村への侵入を許してしまう可能性が高い。
いくらなんでも全方位に落とし穴を隙間無く作るのは不可能だし、時間と体力の無駄になるので、オークが出現する可能性が低い場所は最初から捨てている。
まあ、その場所なんか誰にも分からないから、各所に見張りを置き、異変があればすぐに村中に伝達される手はずになっているけど、確実に対応は遅れる。
それにお姉ちゃんがオークの出現場所に急行することになっているけれど、お姉ちゃんだけでは多方向からの襲撃には対処しきれない。
もう、オークが一方向から攻めてくるのを、期待するしかないよ……。
そもそもオークの数が多ければ、最初の数匹を落とし穴で倒すことができても、あとは普通に戦って倒すしかなくなる。
一応、弓矢などのありったけの武器を集めているけど、それでどれだけ対応できるのだろうか……。
う~ん……かなり運任せだよ、これ。
オークが攻めてきたら、いつ死んでもおかしくない。
それどころか、無理矢理オークの子供を出産させられる目的で、陵辱されるかもしれない。
そう考えたら、自然と身体が震えてくる。
昼寝をして体力を温存しなければならないのに、眠れる気がしない。
「大丈夫だよ、マルル。
お姉ちゃんが、絶対に守ってあげるから……!」
と、一緒に布団へ入っていたお姉ちゃんが、私を抱きしめてくれた。
私はお姉ちゃんの温もりで、少し安心する。
だけどこれだけでは足りない。
私は顔をお姉ちゃんに近づけて、キスをせがむ。
「マルル……」
「んっ……」
お姉ちゃんの優しいキスで、私の不安は和らぐ。
今が昼間で、こんな状況じゃなければ、もっとお姉ちゃんと色々できたのに──と、残念に思うほどだ。
でも……本当に大丈夫なの?
あのオークを倒した時、お姉ちゃんのレベルは上がったし、これからの戦いの中でも上がっていくかもしれない。
そうなれば、お姉ちゃんが無双してくれる可能性も出てくるけれど……。
───────────────
・アルル 14歳 女 LV・14
・職業 狩人
・生命力 203/203
・魔 力 60/60
・ 力 158
・耐 久 159
・知 力 43
・体 力 197
・速 度 121
・器 用 56
・ 運 88
・ギフト 戦乙女
・スキル
強 打
回転蹴り
防御強化
気力集中
気配隠蔽
再生力弱
毒耐性弱
流し斬り
───────────────
こんなに強いんだから、大丈夫だと思いたいけど……。
やっぱり、怖いよ……。
明日は用事があるので、更新はお休みします。