16 家族の形
『なんでお姉様がここに……?
しかも身体が、なんで透けてるの……?」
霊体となった姉と対面して、混乱した様子のミーヤ様。
まあ、当然の反応だよねぇ……。
『ごめんなさい、ミーヤレスタ。
私が不甲斐ないばかりに、あなたには辛く寂しい想いをさせてしまいましたね……』
「……!!
これ……優しかった頃の、お姉様なの……!
でも、一体どうして……?」
ミーヤ様は、ふらふらと姉に近づいていく。
私はそんな彼女の肩を、背後から掴んで止めた。
「駄目ですよ。
今のクレセンタ様に触れると、生命力などが奪われます。
彼女はもう、人間ではないのです」
「どういうことなの!?」
「既にお亡くなりになっている……ということです。
城にいるのは、その身体を乗っ取った偽物です」
「え……は……?」
更に混乱するミーヤ様。
そしてついには──、
「ふぇ……。
ふえぇぇぇ~ん!!」
ガチ泣きである。
家族を失ったこと、その家族が霊になってしまい、更に遺体まで悪用されていること──それをどう受け止めればいいのかそれが分からずに、精神の許容量が限界を突破してしまったようだ。
私はミーヤ様を抱きしめて、慰めてあげることしかできない。
それをクレセンタ様は、悲しそうな顔で見つめている。
私がやっていることは、本来彼女がやるべきこと──いや、やりたいことなのだろう。
やがてミーヤ様はひとしきり泣いた後、泣きつかれたのか、それとも精神的に限界がきたのか、眠った……というか気絶してしまった。
子供に酷なことをしてしまった……とは思うけど、こうでもして強引に会わせないと、姉妹の間で会話することもできないんだよね……。
実際、ミーヤ様が真実を知らないままでいた場合、あの恐ろしい偽物を実の姉だと思い込んだまま、過去の優しかった本当の姉の記憶を忘れていくことだろう。
それは姉妹の双方にとって、残酷なことだと思う。
……まあ、精霊となったクレセンタ様が、今後成仏することがあるのかは謎なので、急ぐ必要があったのかは分からないけれど……。
ともかく姉妹で語り合う時間は、あとでたっぷり作るとして……。
「ナスタージャ様、ミーヤ様をお願いします」
「え……妾が……か?」
私に指名されて、戸惑う王妃様。
「あなたも母親なのですから、母も姉も失った小さな子が、何を求めているのかくらいは分かるでしょう?
あなたが一番上手く、ミーヤ様を慰めてあげることができると思います」
『私からもお願いします、お義母様』
「う……うむ」
私から渡されたミーヤ様を抱きかかえ、戸惑った顔をしていたお妃様だったけど、やがてその表情は穏やかなものへと変わっていった。
キツい性格をしていそうな顔付きの王妃様だけど、実際には母性に溢れた人であることを私は知っている。
お風呂で洗われた時、凄く優しかったし。
あれがバブみというものか……。
ちなみに第3王子のタルスもこの屋敷に連れてきて保護しているけれど、今は別室でジュリエットやカトラさん達が相手をしている。
将来立派な王族になってもらう為に、色々と勉強させているところだ。
タルスも美人のお姉さん達が相手なのと、近くでエルシィさんやエレンが目を光らせているので、比較的従順に指導を受けているようだ。
そんなタルスもこの光景を見たら、「母親が盗られた」と騒ぎそうだけど、その辺は王妃様の躾に期待しよう。
今後はミーヤ様とは、良い姉弟関係を築いてもらいたいものだ。
さて、それじゃあ森に行って、クレセンタ様の戦闘訓練を開始しようか。
「では、出発しましょうか、クレセンタ様」
『はい!』
「ご主人ー!
私もー!」
「うん、一緒に行こうか」
その後私はクレセンタ様の他に、ラヴェンダ・クルル・キララを伴って、近隣の森へと出掛けた。
森までは「転移」で移動するから一瞬だ。
で、森の入り口から「万能感知」で獲物を見つけて、狩ることにする。
「あ、クレセンタ様、スライムがいますよ。
まず、あれに触って倒してみましょう」
『ええぇ……あんなドロドロした物に触るのですかぁ……?』
クレセンタ様は怖じ気づく。
確かに普通の人間がスライムに触れば、大怪我では済まない場合もある。
その強酸性の体液は、長時間触っていれば骨まで溶かされるし、毒だって持っている。
まあ、それを抜きにしても、アメーバー型の姿は、生理的嫌悪感を催すけれど……。
「大丈夫です。
今のクレセンタ様は、触ってもすり抜けるだけですし、汚れることもありません」
『あ、そうですね。
で、では……えい!』
クレスセンタ様が触ると、スライムは一瞬で萎んでいき、あっさりと息絶えた。
やはりザコが相手だと、彼女の「吸収」は即死攻撃だな……。
『うわ……』
やった本人もドン引きである。
だけど、それだけ強いということなのだから、自信を持って欲しい。
「さあ、次に行きますよ」
『は、はい!』
私の「万能感知」によると、他にも動物や魔物が結構いるようだ。
これならば獲物に困ることはないだろう。
……というか、なんか多くない?
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