15 王妃・王女大集合
「「…………」」
クリーセェ様と王妃ナスタージャ様が、難しい顔をしてテーブルを囲んでいる。
2人の間に会話は無い。
ちなみに王妃様は、転移魔法でこの私達が滞在している屋敷へと連れてきた。
なお、この場にいる王族は、王妃と第3王女だけではない。
彼女達の前には、幽霊……というか、実際には精霊らしいのだが、とにかく既に故人となっている第2王女クレセンタ様が浮遊している。
「……まさか、姉上がこんなことになっていようとは……。
私は……運が良かったようじゃな」
実際クリーセェ様も、殺されてレイスに取り憑かれるなんてことになっていても、不思議ではなかったと思う。
陵辱だってされていても、おかしくはなかった。
そうならなかったのはたぶん、奇跡的に第2王子派の人間の中に、ロリコンがたまたまいなかった──というだけのことなのだろう……。
クリーセェ様って、同い年の私よりも幼く見えるし……。
あるいは別の用途に使われる可能性もあったのかもしれないけど、そんなことに使われる前に救出できて良かった。
「しかし今城にいるクレセンタは偽物で、魔王候補の可能性もあるだと……?
もう王位継承権を争っているような場合ではないぞ……!」
王妃様も頭を抱えそうな勢いで困っている。
実際第2王子と、偽クレセンタ様が裏で繋がっているかもしれないというのは、ちょっと予想外だった。
う~ん、第2王子がレイスを魔王候補と知らずに利用しているつもりで、逆に利用されているって感じなのかな?
「こうなると、早めに対処した方がよろしいかと……」
私の意見に、2人は頷く。
「兄上は国家反逆罪で、逮捕した方が良いのではないか?
義母上から、父上に口添えしていただけぬかの?」
「うむ……しかし証拠が無ければ、継承権争いの妨害行為としか受け取ってもらえぬ可能性がある。
ふむ……この際クレセンタを直接陛下に会わせて、説得してもらおうか?
陛下がこのクレセンタを本物と認めれば、必然的に今城にいる方は偽物だということになり、魔王候補だという話に信憑性を帯びることになろう」
『が、がんばります!』
……大丈夫かな?
国王に幽霊を近づけること自体が、反逆行為と判断される可能性もあるけれど……。
なにせ、触っただけでごっそりと生命力と魔力を奪うという、危険と言えば危険な存在だからなぁ……。
まあ、クレセンタ様のレベルアップの為に、私の生命力と魔力を何度も吸わせたので、その過程で多少は加減ができるようになったけどね。
私も繰り返し受けたことで、「万能耐性」の効力が少し上がったような気がする。
これ、あくまで「耐性」であって「無効」ではないから、私の能力を超えると効いちゃうみたいなんだよね。
それと、他にも問題がある。
「あの……霊体のクレセンタ様が城へ行った場合、同じ霊体のレイスに気付かれる可能性があります。
会わせるのならば、戦う準備が整ってからの方が良いかと……。
それとも、ここに国王様を呼びますか?」
「うむ……さすがに父上を、ここに連れてくるのはまずいのぉ……。
できるかできないかで言えば、できるのじゃろうが……」
できますね。
眷属全員が「転移」持ちなので。
『緊急事態の際は、ここに避難させる……ということでどうでしょう?』
「まあ……それが良いでしょうね」
そんな訳で、まずはいつレイスとの戦いになってもいいように、クレセンタ様の能力を鍛えなければならない。
霊体同士ならばお互いに触ることもできるかもしれないので、場合によっては彼女がレイスを押さえ付けるなどして、勝敗を左右する可能性だってある。
ただ、クレセンタ様のレベル自体はもう40を超えているので、戦闘力だけならば一軍に匹敵する強さはあるんだけど、それが魔王候補に対抗できるほどかというと微妙だ。
それに彼女の優しすぎる性格の所為で、戦闘向きではないという問題もある。
クレセンタ様には、ちょっと実戦を経験してもらった方がいいな……。
ただ、クラグド山脈までは私の魔力だと転移できないので、王都近郊の森にでも行ってみようかな。
低級な魔物くらいはいるだろう。
で、出発の準備をしていると──、
「ご主人~!
お連れしました~!」
お、帰ってきた。
私の影の中から、ラヴェンダが姿を現した。
彼女のギフト『暗殺者』由来のスキルである、「影移動」だ。
影から影の間を移動することができるという、「転移」に近い性能があるスキルなのだが、それで城に行って一仕事してもらったのだ。
そしてラヴェンダの影の中から、何者かが出てくる。
これまた彼女の独自のスキル「影収納」で、「空間収納」とほぼ同じ性能を持つ。
その中に人間を入れて、運んでもらったという訳だ。
『ミーヤレスタ……!』
クレセンタ様が驚きの表情となった。
ラヴェンダが運んできたのは、クレセンタ様の妹であるミーヤ様だ。
居室の外から「念話」で呼びかけて、偽クレセンタが留守にしているタイミングで人気の無い場所へと移動してもらい、そこで影の中に収納して連れてくる……という手はずになっていたのだけど、上手くいったようだ。
「ご主人が会いたいと伝えたら、大人しくついてきてくれましたよ」
……うん、これは私達だったから良かったようなものの、こんなに簡単に知らない人についてきて、大丈夫なのかな、このお姫様……。
拉致し放題だよ……。
で、そのミーヤ様だけど──、
「え……お姉様……?
え……?」
霊体となった姉の姿を見て、混乱している。
一方クレセンタ様は──、
『ああっ、ミーヤレスタ!
よくぞ無事で……!』
「ストーップ!
触っちゃ駄目ですっ!!」
『あ……』
感極まって妹に抱きつこうとしたので、慌てて止める。
小さな子供から生命力と魔力を奪ったら、即死しかねないからね……。
クレセンタ様にとっては辛いだろうけれど、能力が完全に制御できるようになるまでは我慢してもらおう。
まあ、どのみち霊体のままだと、身体がすり抜けるから、抱き合えないんだけどさ……。
いずれはその問題も解決できるような、スキルが手に入ることを祈ろう。
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