13 正体と対策
修理、完了。
第2王女クレセンタは、既に死んでいる可能性が高い。
そしてその遺体を、何者かが操っている。
そんなスキルって、あるのだろうか?
「アイーシャさん、遺体を操るスキルとかって知っている?
生きている人間と、見分けのつかないほどの……」
「操り人形のように操る魔術ならば、あったと思います。
確か『死霊術』……という、死者を冒涜する邪悪な魔術でございます。
でもそれは文字通り人形のようで、生者と区別がつかないほどとなると……。
あとは……遺体に取り憑いて、その者になりすます魔物の伝承があったと思いますが……」
アイーシャさんは、服を着ながら教えてくれた。
ふ~ん……、それなら後者っぽいな。
となると……。
『カプリちゃん、ちょっと来て』
「ハーイ!」
「はっ!?」
呼んだ瞬間、カプリちゃんが部屋に転移してきた。
それにアイーシャさんが驚く。
「なんですか、マルルー?」
「ああ、カプリちゃんに、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
魔物のことは、魔物に効くのが1番だ。
私はこれまでのことを説明した。
「あ~、それはレイスですねー。
ゴーストよりも上位の存在でーす。
それが死体に取り憑くと、アークリッチと呼ばれまーす」
アークリッチかー。
ゲームでは不死系の最上位モンスターとして、似た名前の奴が出てきたのを見たことがあるなぁ。
でも、それは骸骨の姿だったと思うので、似て非なる者ってところかな?
「……もしかして、魔王候補にいる?」
「いたような気がしますねー」
ヤバイじゃん!?
クレセンタに取り憑いているのって、まさにそいつでしょ!?
つまりこの国、上層部が魔王候補に掌握されかけているじゃん!?
こりゃ、さっさと排除しないと駄目だわ。
それにミーヤ様も、隙を見て保護しないと……!
とはいえ、準備は入念にしないと駄目だ。
「アイーシャさん、今日、教団の仕事を休めますか?」
「えっと……使徒様のご命令とあらば」
「じゃあカプリちゃん、アイーシャさんを大聖堂まで送ってきて。
で、アイーシャさんは、休暇申請を出したら、カプリちゃんとクラグド山脈でレベル上げね」
「え?
よく分からないですけど、はいでございます」
一般人はレベルの概念を、持っていないからなぁ……。
でも説明するのは面倒臭いので、感覚で実感してもらおう。
で、何故レベルアップが必要なのかと言うと、アークリッチとの戦いには、アイーシャさんの神聖魔法が役立つはずだからだ。
まあ、私もスキルをコピーしたり、眷属に「下賜」したりして、アークリッチへの対策は万全にするつもりだけど、それでも付け焼き刃で身につけたスキルでは十全の効果は期待できない。
なので神聖魔法のプロフェッショナルが、戦いに参加するのは必須の要素だ。
その為にもアイーシャさんには、大幅なレベルアップをしてもらう必要がある。
現状では、レベルが低すぎて、魔王候補と戦うのは危険だからね。
最低でも40レベル前後は欲しい。
さあ、恒例の下位竜狩りだよ!
「カプリちゃん、他にも暇そうな人がいたら、連れて行って鍛えてあげてね」
「オーケーでーす!
任せてくださーい」
これでよし。
あとはクリーセェ様と王妃様に報告して、警戒を呼びかけないと。
お姉ちゃん達にも、護衛として働いてもらおう。
それが終わったら、クレセンタ様と思われる幽霊に接触して、話を聞いてみようかな。
正直怖いけど、そうも言ってられないし……。
その後私は、やることをやり終えたら、地下室へと入る。
ただし1人では怖いので、小さくなったクルルを抱いて──だ。
こういう暗い所なら、昼間でも幽霊が出てくることはあるかも?……と思ったんだけど……。
しかし昼間の所為かすぐには何も起こらず、1時間ほどが経過した。
するとようやく、壁の中から半透明の人影が出てくる。
「ひっ!?」
「グウゥー(マルルぅ……っ、もっと強く抱きしめてー)!」
思わずクルルを抱く腕に力が入ってしまったけど、効いてないな、この子……。
さすがは素の耐久力が私よりも上だ。
姿が小さくなっても、それは変わらない。
それはともかく、幽霊の方だけど……。
確かに城で見たクレセンタと同じ姿だ。
ただ、あちらよりも、怖くない……ような気がする。
……うん、全然雰囲気が違う。
城で見た方にあった攻撃的な鋭さはまったく無く、どこかほんわかとした空気が漂っている。
ミーヤ様が言うように、本当に優しそうだ。
こうしてよく見ると、幽霊なのに恐ろしくはないかも……。
「あ、あなたは、クレセンタ様ですよね?」
私が呼びかけると、クレセンタ様は少し驚いたような顔をした後、口元をほころばせた。
意思疎通ができそうなことが、嬉しいのだろう。
でも、言葉は話せないようだ。
じゃあ、「念話」で話しかけてみようか。
これ、どちらか一方がスキルを持っていれば、会話はできるからね。
『クレセンタ様、これで会話できますか?』
『っ!!
あー、あー、
聞こえていますか?』
『はい、聞こえますよ』
『ようやく……ようやくお話ができます』
クレセンタ様はそれが嬉しいのか、綺麗な微笑みを浮かべた。
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