12 第2王女の秘密
「お姉……様……」
姉である第2王女クレセンタの登場に、ミーヤ様は怯んでいる。
まあ、勝手に部屋を抜け出して遊んでいたのだから、確実に怒られる流れではあるが。
「ミーヤレスタ、何処へ行っていたのです?
あなたには次期女王である私の妹だという、自覚が足りない」
おっと、この人も本気で王位継承権を狙っているのか。
だとすると、同盟関係を結ぶのは無理かな?
「そもそもそれは、何処の侍女ですか?
敵対するかもしれない派閥の者と安易に接触するとは、本当に愚かな子……!」
クレセンタの言葉は、たぶん正しいのだろう。
ミーヤ様には、少し危機感が足りない。
だけど妹に対しての優しさが、一切無いというのはどうなのだろう。
私はこの人とは仲良くできそうにないな……と、感じた。
というか、これはもしかして──。
「あ、あの、この人はその……っ」
ミーヤ様は弁明しようとしたようだが、緊張して口が上手く動かず、なかなか次の言葉が出てこない。
そしてクレセンタは──、
「言い訳などやめなさい、見苦しい」
「あうっ!」
クレセンタは、ミーヤ様の頬を平手で叩いた。
それを見て私は、
「小さな子供に、何をするのですか!?」
思わず間に割って入ってしまう。
「……何ですか、あなたは?
侍女ごときが、王族である私に意見すると?
その不遜、ここで斬り殺されても文句は言えませんよ?」
確かに身分差を考えたら、そうなのだろうけれど……。
「私はクリーセェ殿下の側近であり、現在はナスタージャ陛下のもとへ派遣されております。
そのことをよく考えてから、行動した方がよろしいかと……!」
私に手を出したら、他の派閥と即戦争だぞ──と、警告する。
するとクレセンタは、不快そうに顔を歪めた。
「他者の権威を借りて偉そうに……!
この私を脅すとは腹立たしい……ですが、いいでしょう。
今は見逃してあげます。
この場からすぐに消えなさい」
「はい。
それではミーヤ殿下、お元気で」
「あ……」
私が踵を返してこの場から去ろうとした瞬間、ミーヤ様の助けを求めるような表情が目に入った。
だけど今この場で彼女を連れ去る訳にもいかないし、ぐっと堪えて無視をする。
まずはクリーセェ様や王妃様と話し合ってから、今後のことを考えよう。
何故ならば、今クレセンタと戦うようなことになったら、不覚を取る可能性も否定できないからだ。
実際、彼女を怒らせた時に生じた殺気は、只者じゃなかった……。
少なくともレベルが40近いラムちゃんよりも、確実に強いと感じさせるものがあったのだ……。
そもそもあの人、確実に私の『百合』が効いていないよね!?
明らかに私へと敵意を向けてきたし、精神的に男の人……ってことになるのかな?
でも、「女体化」のスキルで女性化した元男の人にも『百合』は効いているから、身体が女性でさえあれば、完全に無効化することは難しいっぽいんだよね……。
となるとクリーセェ様のように、特殊なスキルを持っているのか……。
あるいは変装とか幻術で男の人が化けているという可能性も無い訳じゃないけれど、私の「万能感知」でそれが見抜けないとも思えないし……。
ただ、ミーヤ様の話によると、数ヶ月前から性格が豹変したみたいだから、別人が化けている可能性も否定できないんだよなぁ……。
う~ん、この王位継承争いで最大の障害は第2王子だと思っていたけれど、本命は第2王女だったか……!
これは戦略の大幅な変更が、必要かもしれないなぁ。
まずは関係者を集めて対策を練ろう。
この際、教会も本格的に味方に引き入れた方がいいから、アイーシャさんも呼んで──、
「あ……!」
あああああああああああ──っ!?
思い出したっ!!
クレセンタの顔を何処かで見たことがあると思ったけど、あの幽霊だ!
じゃあ、本物は既に殺されていて、さっき会ったのはやっぱり偽物!?
あるいはクレセンタの遺体を、何者かが操っているとか……。
なるほど、それなら『百合』が効かない可能性は高いかも。
……って、やばい!!
あの幽霊、もうアイーシャさんに退治されちゃった!?
え~と、今の時間なら、まだ屋敷にアイーシャさんはいるかな?
よし、転移だ。
で、寝室に行くと、アイーシャさんは枕に顔を埋めて、眠りこけていた。
──全裸で。
これ……寝具に染みこんだ私の匂いを、堪能していたな……?
この聖女……もとい性女め……!
「アイーシャさん、起きて!」
「ひゃいっ!?」
私は「自然操作」で小さな氷を生み出し、アイーシャさんの背中に落とした。
すると彼女は、魚のように飛び跳ねる。
「冷たっ!?
何でございますっ!?」
「おはよう、アイーシャさん」
「あっ、これは使徒様!
なんですか、その可愛らしい姿は!?
私を誘惑しているのでございますか!?」
なんだかメイド服に反応している……。
駄目だ、この性女……。
「そんなことよりアイーシャさん、幽霊はもう退治しちゃいましたか!?」
「あ、幽霊ですか……?」
私が問い質すと、咎められると思ったのか、アイーシャさんは項垂れた。
「申し訳ございません。
上手く……いかなかったのでございます。
邪悪な存在ではないらしく、神聖魔法の効きが悪くて……」
それ、性女に堕ちた所為で、神聖魔法の適性が失われたとかじゃないよね?
とにかく良かった、まだ倒していなかったんだ!
「アイーシャさん、幽霊退治はキャンセル!
それよりも、色々と手伝ってくれるかな?」
「勿論でございます!」
アイーシャさんは、力強く頷いた。
それはありがたいけど、まずは服を着ようか?
明日は車の修理に行くので、更新は休みます。




