9 お妃様との会談
はい、メイドです。
私はただの冒険者のはず……なのだが、今はメイド服を着ている。
以前ティティ達の制服としてメイド服を作った時に、なんとなく自分のサイズに合わせて一緒に作っておいたものだ。
何かのプレイに使えるかなぁ……と思って。
何故私がこんな格好をしているのかというと、クリーセェ様の従者のフリをして、王宮に入る為だ。
貴族令嬢であるラムちゃんやジュリエットはともかく、ただの冒険者だと普通は立ち入り禁止の場所だからね。
まあ、「完全隠蔽」で、姿を消して行く手もあったけど、それだと王妃様に『百合』が効かないかもしれないし、かといって突然姿を現したら怪しまれるからねぇ……。
「はぁぁ……可愛い……抱きしめてもらいたい」
ラムちゃん、さすがに王宮では我慢してね。
「これから義母上……ナスタージャ様と面会する訳じゃが、本当にマルル殿の能力は効くのか?」
「効かない場合は、特殊なスキルを持っているか、精神が女性じゃないか……。
かなり特殊な場合に限られる──と、思いますけど……」
確率としては、そう滅多にあることではないと思う。
今のところ私の能力が効かなかったのは、クリーセェ様のみだ。
それから私達は、広い庭園に通されたが、秋になってもまだまだ花が咲き乱れており、それらが楽しめるようになっていた。
で、庭園の一画には屋根と柱だけの建物である四阿……西洋風のは「ガゼボ」とか言ったかな?
それが建てられていて、中にはテーブルなどが設置されている。
その席には既に女性が座っており、彼女が王妃ナスタージャだろう。
そしてその背後には、複数の女性騎士やメイドが控えていた。
仮に王妃様に『百合』が効かなかったとしても、あの騎士やメイドには効くだろうから、そっちを足がかりにして攻略することも可能だろうね。
なお、メイドは私達の姿を確認した時点で、クリーセェ様のお茶を煎れ始めた。
テーブルの上には、お菓子も用意されているようだ。
「お久しぶりです、義母上」
私達は王妃様の前に跪く。
「よい、我々は対等の立場である。
席に着くが良い、クリーセェよ」
威厳のある声だ。
そしてその声に合った風貌をしている。
まだ30代後半くらいだと思うけど、凄く気が強そう……というか、ちょっと性格がキツそうな顔立ちだ。
あと、ネックレスや指輪などを多数身につけているけど、おしゃれと言うよりは、武装に見えるなぁ……。
実際、変な魔力を感じる物もあるし。
魔道具ってやつかな?
これで様々な魔法や能力から身を守っている──そんなことも危惧したけど……王妃様はチラチラと私の方を見ている。
あ、これは『百合』が効いているね。
クリーセェ様に、「念話」で教えておこう。
「それでは義母上、我々は対等……ということは、同盟を結ぶということでよろしいですかな?
私は兄上を廃し、王となりますが、それに協力していただけると?」
クリーセェ様は、席に着くなりそう言った。
さすがに王妃様が相手なので、いつもの「~のじゃ」口調は抑えている。
それに対して王妃は、
「慌てるでない。
妾にも、譲れぬものはある。
まず我が息子タルスの、立場を保証してもらおうではないか」
息子タルス……第3王子か。
確かまだ8歳だったかな?
国王はもう60歳近いと聞くけど、まだまだ性欲の方は衰えていないってことなのかしら……。
「私も義弟は可愛いので、悪いようにはしないつもりです。
私が王位に就いた場合、タルスには王弟として新たな公爵位を認めたいと思っております。
当然、王位継承権も、我が子が誕生するまでは、暫定的に1位としましょう」
まあ、破格の待遇だろうねぇ。
王位継承権の1位を与えるということは、クリーセェ様に何かあれば、第3王子が王に即位するということだ。
第3王子にその気があれば、姉を暗殺して王位を狙うことも可能だし、そんなポジションに第3王子を据えるということは、信頼しているということを証明するものでもある。
……まあ、あくまでも表向きには……だが。
実際には第3王子が下手に動けないような、対策を用意するだろう。
「その代わり義母上には、私を王位に──と、父上やあなたの派閥の者へ推挙していただきたい」
「……ふむ、悪くない話ではあるな。
だが、それでもエルナスを敵に回すのは危険だ。
立場を悪くしたとはいえ、彼奴にはまだ力がある」
むしろやぶれかぶれで、何かをやらかしかねない状況だしね。
王妃様はそれが不安なのだろう。
「それならば私の護衛を貸しましょうか?
魔王候補を倒した、冒険者パーティーの1人です。
常にとはいきませんが、彼女が暇な時ならばいいですよ」
「護衛ですって?
私の後ろにいる者達では、足りないとでも?」
「足りないから、不安を感じているのでしょうに……」
「なっ……!?」
クリーセェ様の言葉に、王妃様の護衛をしている騎士達が色めき立った。
まあ、実力不足だって言われたようなものだしねぇ……。
「なんなら、ここで実力を確かめてみますか?
おい!」
あっはい、私ですね。
王妃様に近づいて籠絡する為には、護衛役は丁度いい。
私が一歩前に出ると、女騎士達の怒りの反応が弱まった。
王妃様も私の顔を凝視している。
「護衛ではなく、メイドじゃないか!」というツッコミが無い辺り、『百合』の影響で私に惹き付けられているのだろう。
で、私はと言うと、転移魔法で女騎士達の背後に瞬間移動し──、
「えっ、消え!?」
「どうも、よろしくお願いします」
1番強そうな女騎士の背後から手を取り、握手した。
彼女にもうちょっと実力があれば、私が触る前に反応できたのだろうけど、それができなかった。
これは私がその気になれば、気付かれる前に命も奪えた──という、パフォーマンスになる。
「なっっ!?」
一瞬驚いた顔をした女騎士だけど、すぐに顔が緩み、私が手を放すと残念そうな顔にすらなった。
もしかしたら、「もうこの手は洗わない」とか思っているのかもね。
私はそんな女騎士を無視して、王妃様の前に立ち、
「マルルと申します、ナスタージャ陛下」
「あ……ああ……」
と、カーテシーをしつつ挨拶をした。
そんな私を王妃様は、赤い顔をしつつ凝視し続けている。
ふっ……堕ちたな。
でも、人妻って大丈夫?
王様から怒られない?
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