7 レンタル聖女
幽霊退治をしてくれるという聖女アイーシャさんを連れて、私は屋敷に帰ることにした。
本当は他に教団員の護衛がつくという話もあったんだけど、第3王女のクリーセェ様が使っている屋敷ということで、部外者を多く入れられない──と、遠慮してもらった。
実際、私の眷属以外に知られるとヤバイ秘密が多すぎるし……。
「なるほど……確かに陰惨な気配を感じます」
屋敷の前に立ったアイーシャさんは、真剣な顔でそう言った。
……うん、昨日12人死んだばかりだし、間違ってはいないんだけど、それが幽霊と関係があるのかは分からない。
それにここには、魔物もいる。
「えーと、アイーシャさん、私の眷属には魔物に属する存在もいますので、敵視しないでください。
できれば、教団にも秘密にしていただければ……」
「勿論でございます。
私はマルル様のご意向に従います」
なんだろう……。
これは眷属と言うよりは、信者だな……。
「で、どうなんです?
幽霊については、何か分かりますか?」
「そうでございますねぇ……。
今現在はほとんど気配は感じません。
おそらく夜に活動するので、それまでは何処かに身を隠しているのではないかと……」
それでも少しは感じるんだ。
私の「万能感知」では分からないから、やっぱり霊とかを感知する為には、別のスキルが必要なのだろうね。
この「直感」ってスキルかな?
「それでは夜に泊まり込みをしてもらい、対処していただけるということで良いのですよね?」
「勿論でございます」
でもそれじゃあ、夜まで時間が余るなぁ。
あ、そうだ。
「アイーシャさんは、ギフトを授ける儀式を行うことができるのですか?
この屋敷で」
「あ、はい。
本来ならば、教会の施設で行うのが決まりですが、マルル様のご要望とあれば、どこでも行います」
……この人、私の為ならば戒律も法も、何もかも無視しそう……。
「それじゃあ、お願いしようかな。
勿論、相応の代価を寄進はさせてもらうよ」
「承知しました。
謹んでお受けいたします」
そんな訳でカプリちゃんと、クルル、そしてキララにギフトを授けてもらうことになった。
しかし──、
「この女性はともかく……熊……?
それに大きな蜂……?
この御方達にギフトを……でございますか……?」
アイーシャさんも動物や魔物は初めての経験なのか、困惑している。
「私の大事な眷属だから、お願いね」
「そうですか……。
使徒様の眷属であるのならば、女神様の眷属も同然。
丁重に対応したいと存じます。
しかし正直にも申しまして、成功するのか分からないのでございますよ。
ですが、なんとか試してみましょう」
そんな訳で、まずはカプリちゃんに儀式を受けてもらう。
「おっ、おー?
なんだか頭の中に、ワードが浮かびましたでーす!」
どうやら無事にギフトを授かったようだ。
「カプリちゃん、なんて?」
「『神獣』って、出ましたー!」
「『神獣』……?」
アイーシャさんが首を傾げている。
カプリちゃんの正体が竜だと知らなければ、そうなるか。
人に化けたカプリちゃんには、「獣」要素は無いからねぇ……。
それにしても『神獣』って、宗教によっては信仰対象になるやつでは……?
まあ、このギフトの効能がどんなものなのか、具体的にはまだ分からないけれど……。
次にクルル。
最初は成功するのか不安そうにしていたアイーシャさんだったけど、途中から何か手応えを感じたような顔になった。
これは成功かな……?
「クルル、どう?」
「グゥー(『聖獣』って、出たよ)!」
ん~、『神獣』の下位互換って感じかな?
とはいえ、強力なギフトだという気はする。
そしてキララは──、
『ん!」
幼くてまだほとんど喋れないので、私が直接ステータスを見る。
……『聖蟲』って出ているね。
なんだか偶然にしては、系統が被りすぎている……。
まるで女神の使徒を守る、三大守護神って感じになっているんだけど……。
これって女神様から、意図的に授けられた感じがするなぁ……。
あんまり女神様の掌の上で転がされるのは、気持ちが良くないんだけど……。
「ただいま戻ったのじゃー」
あ、クリーセェ様達が帰ってきた。
彼女にもアイーシャさんを紹介しておくか。
おそらく聖女がクリーセェ様を支持すれば、教団全体も派閥入りしてくれると思うので、今後の継承権争いには有利に働くだろう。
「これは王女殿下。
私は教団で司祭をしております、アイーシャと申します。
新たにマルル様の僕に加えていただきましたので、以後お見知りおきを……」
と、アイーシャさんが挨拶すると、クリーセェ様は──、
「なんじゃ、また女子をたぶらかしたのか?」
と仰る。
酷い誤解なんですが!?
そして夜──。
アイーシャさんには幽霊退治の為に、私と同じ部屋に泊まってもらおうと思う。
「それでは、私は不寝番をしておりますので」
「無理はしないでね。
眠たくなったら、寝てもいいからね」
「ご配慮いただき、ありがとうございます」
よし、これで幽霊は心配ないな。
彼女には「下賜」でスキルを与えたし、万が一にも危険に陥ることは無いだろう。
今夜は安心して眠れる。
しかし夜中にふと目が覚めると、異質な気配を感じた。
耳の近くでは、荒く乱れた呼吸音も……。
一瞬、幽霊の仕業かと思ったが──、
「はぁ、はぁ……。
ああ……尊い……尊いでございますわ。
しかし何よりも大切にしなければならない御方なのに、あまりにも愛らしくて湧き上がる衝動が抑えきれないのでございますぅ……!」
おおぃ、アイーシャさんがベッドに入り込んで、私の身体をまさぐり始めたんですけどぉ!?
ああ……そういえば、幼少時から禁欲的な生活を送って育った人って、大人になってから歯止めが利かなくなることが多いって聞くなぁ……。
本来は子供の頃から「欲」と付き合い、適度に発散しつつ制御していく術を学んでいくものだけど、それができないままだといつか貯め込んで暴走してしまうという。
アイーシャさんも、聖職者として禁欲的な生活を続けた結果鬱積したものがあったのかもしれないけど、『百合』の所為で一気に箍が外れてしまったということだろうか。
それに従属度が100%になっているから、いつこういうことになってもおかしくはなかった。
でも、まさか会ったその日にとか、想定外だよ。
結局、その晩は幽霊どころではなくなってしまった。
アイーシャさんってば、初めてのことで暴走しちゃって、なかなか終わってくれないし、加減が分からないから激しいし……。
あんた、聖女じゃなくて、性女だよ!
明日は用事があるので、更新を休みます。




