10 以心伝心?
今日もよろしくお願いします。
熊に襲われようとしていた私の命は、風前の灯火だった。
ギリギリで駆けつけたお姉ちゃんによって、なんとか助かったけれど、本当に生きた心地がしなかったよ……!
「良かったぁ~!
お姉ちゃん、ありがとぉぉ~!」
私はお姉ちゃんにしがみついて、わんわんと泣いた。
子供みたいだけど、たぶん身体に精神が引っ張られているんだと思う。
そもそも、前世でもあんな恐怖体験はしたことがない。
熊、怖すぎるよぉ~っ!!
「マルルが、私を呼んだような気がしたんだ……。
間に合って良かったよ……!」
えっ、それって『百合』の能力かな?
親密度が高くなると、私の心の声が届くようになるの?
ためしに私は、「お姉ちゃん好き~! 大好き~!」と、強く念じてみる。
でもお姉ちゃんはきょとんとしているので、声は届いていないようだ。
……となると、私が危機に陥ると、親密度が高い相手に救援要請が自動的に届く感じなのだろうか?
だとしたら便利だけど、あまり使う機会が無い方がいい機能だなぁ……。
「それにしても、熊逃げちゃったね。
お姉ちゃんなら狩ることができたでしょ?」
「いや……さすがに熊は、私でも無傷とはいかないから、逃げてくれて良かったよ……」
「そうなんだ……」
じゃあ、本当に危ない状態だったんだな、私。
もう山の中では、絶対にお姉ちゃんから離れたくない……。
そんな訳でその後は、落とし穴を作るのをお姉ちゃんに手伝ってもらい、山を下りるまで常に一緒にいた。
狩りの効率は落ちるけれど、仕方が無いじゃん。
とはいえ、何も成果が無い場合は父がいい顔をしないので、なんとか野ウサギだけ捕らえて、その日は家に帰った。
翌日、お姉ちゃんと一緒に、作った落とし穴を見に行った。
何か大物がかかっているかな?
すると──、
「え……人?」
一瞬太った裸の男の人が、落とし穴にはまって胸から上だけ出しているように見えたけど、実際には何か違う。
鼻の穴が豚のように正面を向いていて、その他の顔の造形も何処となく歪な生き物だった。
そいつは落とし穴から抜け出せなくなり、弱っているようだ。
たぶん穴の中で、先を尖らせて設置した木の枝が、身体に突き刺さっているのだと思う。
おそらくそれなりに出血しているだろうし、傷口から雑菌も入っていると思うから、やがて傷口が化膿してくるだろう。
それが死に繋がる可能性は高い。
そうじゃなくても、落とし穴から自力で抜け出せない時点で、放っておいてもいずれは餓死するはずだ。
「……っ!!」
お姉ちゃんはその生き物を見た途端、顔色を変えた。
そしてすぐに鉈を取り出すと、それをその生き物の頭に振り下ろす。
ひえっ、これが動物なら見慣れているからなんとも思わなかったのだろうけれど、人間にちょっとでも似ている生物の死体は、やっぱりグロく感じる。
あ、レベルが上がった。
凄い、いきなり4レベルも上がっている!
お姉ちゃんから「吸収値」を分配されているだけの私でこれなら、お姉ちゃんはもっと上がってるんじゃ……あれ? 2だけか。
ああ、お姉ちゃんは私よりもレベルが高いから、次のレベルまでの必要な数値が多いってことなんだろうな。
でも、新しいスキルを獲得しているぞ!
早速コピー、コピー!
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・マルル 12才 女 LV・10
・職業 農民
・生命力 71/71
・魔 力 113/113
・ 力 42
・耐 久 43
・知 力 105
・体 力 56
・速 度 47
・器 用 34
・ 運 68
・ギフト 百合
・スキル(8/10)
●強 打
●回転蹴り
●防御強化
●気力集中
●気配隠蔽
●再生力弱
●毒耐性弱
●流し斬り
親密度 アルル 100%
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「お姉ちゃん、新しいスキルを獲得しているよ!
よく分からないけど、『流し斬り』ってやつ!」
「ああ……そうなんだ。
そんなことより、大変なことになった……」
「え、大変なこと?」
お姉ちゃんは、落とし穴にはまっていた生物の方を見て呻く。
「うう……。
これ、オークって言う魔物だ」
「ふぇっ?」
これ魔物なの?
初めて見たんだけど!?
あ、だから「吸収値」が大量に入ったのか。
でも、それがなんで大変なこと?
「こいつらとまともに戦ったら、あたしでも苦戦するかもしれない……」
「え?」
あんなに強いお姉ちゃんでも!?
「オークって、群れで行動することが多いって聞いたことがある。
ここにいるのも危ないかも……」
え……この魔物が、集団で……?
つまりこいつの仲間が、近くに沢山いるかもしれないってこと?
「……大変じゃん!?」
「だから、そう言っているんだ、マルル」
お姉ちゃんは、酷く困ったような顔でそう言った。
期せずして、村が滅亡するかどうかというほどの危機が訪れたのだ。