5 除霊師募集中
幽霊が怖くて、ろくに眠れない夜が明けた。
「大丈夫ですか、ご主人?」
「うん……なんとか」
あれから何度か悲鳴を上げることになったけど、最初は心配して駆けつけてくれた者達も、何度目かからはスルーするようになっていた。
実際、実害は無かったし。
でも、私だけが見えている幻ではない。
一応ラヴェンダも幽霊を目撃している……けど、ケロリとしていた。
「たまにああいうのが見えることはありますけど、大抵無害ですよ」
と、なんだか慣れている様子だ。
そういえば猫とか、何も無い空間を見つめていることがあるけど、それは霊が見えているという説もあるよね……。
犬……の獣人もそうなの?
いずれにしても、幽霊が何かをしてくることは無かったけど、一晩中周囲をウロウロされては気が休まらない。
たぶん『百合』に引き寄せられただけだから、無害だとは思うが……。
それでも怖い物は怖いんだよなぁ……。
そんな訳で、今日は除霊ができる聖職者を雇う為に、冒険者の斡旋所に行ってみようと思う。
まあ、今日は特に予定も無いしね……。
クリーセェ様と対立する派閥の切り崩しは、派閥のトップに近い地位にある女性と直接会わなければならない。
そうしないと『百合』の効果は得られないからだけど、王侯貴族との面会なんてすぐには決まらないので、今日は動けないのだ。
その辺のアポ取りはクリーセェ様とラムちゃん、そしてジュリエットに任せようと思う。
それが上手くいかなくていよいよとなったら、相手の屋敷に忍び込んで接触するけど、まずは正攻法でいく。
それと──、
「ラヴェンダ、新しい眷属の躾は、いつも通りお願いね。
あと、情報も聞き出しておいて。
第2王子派閥と繋がりがある犯罪組織のことが分かったら、お姉ちゃん達と相談して、潰す方向で動いていいからね」
「はい、お任せを、ご主人!」
これで私がいない間も、事は動いていくだろう。
「じゃあ、いってきまーす」
「マルルー、我も行きまーす!」
「え、カプリちゃん、珍しいね?
人混みは嫌いなのに……」
「お腹減ったでーす。
何か美味しい物を食べるのでーす」
ああ、カプリちゃんはティティの料理が好きだけど、今はティティがいないから、持ってきた携帯食料とかでは不満なのかな?
「転移で、ティティの所へ行ったら?」
「それはいつでもできまーす。
今はマルルとゴハンを食べたいでーす」
ふふ、可愛いことを言ってくれるじゃない。
じゃあ、朝食も兼ねて、デートと行きましょうか。
その後私達は屋台をハシゴしつつ朝食をとり、それから冒険者の斡旋所へと向かう。
で、受付でお姉さんに、神聖魔法か使える人がいないか聞いてみると──、
「そういう神聖魔法が使えるのは教団の人に多いのですが、教団の仕事と冒険者を両立している人はほとんどいないですよ。
希に「修行」と称して、冒険者の活動をする人もいますが、今この斡旋所に登録している者はいません。
元教団員というのならばいるかもしれませんが、教団を辞めるというのは余っ程の事情があったということなので、あまりお勧めできませんね。
この王都には教団の本部がありますので、そちらに直接お願いしてはどうでしょうか?」
とのことだった。
う~ん、教団かぁ。
確かギフトを授かる儀式をしてくれるところだよね。
どうやらこの世界──なのかはよく分からないけど、少なくともこの国には1つの宗教しかないらしく、神様もたった一柱だけのようだ。
だから●●教という特定の名称は無く、「教団」や「神様」と言えばそれで通じる。
まあ、神様の名前を、人間ごときが呼ぶなんて恐れ多い……ということなのだろう。
私もギフトの恩恵を受けている以上、教団にはそんなに悪い印象は無いんだけど、今や私は眷属に魔物を抱えている身だ。
魔王候補すらいる。
大丈夫? 教会に行ったら、いきなり神敵扱いとかされたりしない?
まあ、いきなり素性がバレるとも思えないので、取りあえず教団本部へ行ってみるか。
その道すがら、私はカプリちゃんに聞いてみた。
「ねえ、カプリちゃん、魔族や魔物は人にギフトを与える教団や神様のことを、どう思っているの?」
「えーと、余計なことをしやがって……と思っている者も多いでーす。
ギフトの所為で、人間が手強くなります」
「だよねぇ……」
ギフトによっては、人間の戦闘力を何倍──いや、あるいはそれ以上のものにする。
私の『百合』なんかも破格の性能だし。
だから人間と敵対する魔族にとっては、そのギフトを与える教団のことを、目障りだと感じていてもおかしくない。
「でも一方で、人間に化けて、ギフトをもらっている者もいまーす」
「えっ!?」
魔族や魔物でも、ギフトを持つことができるの!?
あっ、でもお姉ちゃんやエレンも、吸血鬼だけど持ってる!
人間から魔物化したパターンではあるけれど、魔物になったからといって、ギフトが無くなるという訳じゃないのか。
う~ん、ただでさえ強い魔族や魔物が、ギフトで強化されるというのは、あまり考えたくないなぁ……。
あ、だけどカプリちゃんを、強化するってこともできるのか。
「これから教団の本部へ行くけど、大丈夫?
なんなら、ギフトを授けてもらう?」
「面白そうですねー!」
結構乗り気だ。
じゃあ連れて行ってみるか。
これが上手くいけば、クルルやキララにもギフトを持たせたいな。
ギフトを授ける儀式を行うことができる女性の教団員を、『百合』で味方に付ければなんとかなるはずだが……。
やがて斡旋所で聞いた教団本部の住所に近づくと、巨大な建物が見えてきた。
……何処の世界遺産かな?
そう思うほど、巨大な教会……というか、大聖堂である。
これだけの大聖堂を建てることができるのならば、権力も相当強いものを持っているのだろうなぁ……。
敵対するようなことに、ならなければいいけれど……。
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